大臣おとど)” の例文
雲上には数多あまた大臣おとどや高官がいるに違いないが、清盛自身でも眼中に入れていない事は、一門も郎党たちも知っている。——故に
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大臣おとどふみもえとらず、手わななきてやがて笑ひて、今日はづちなし、右の大臣にまかせ申すとだにいひやり給はざりければ々々」
余録(一九二四年より) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
本院の大臣おとど御屋形おんやかたには、ずゐぶん女房も沢山ゐるが、まづあの位なのは一人もないな。あれなら平中がれたと云つても、——
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
お預かりになる大臣おとどですよ。そうしたお盛んなお家の方で姫君だけを地方官の奥さんという二段も三段も低いものにしてそれでいいのですか
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
昔、妙音院の大臣おとどは、熱田の神宮の御前で琵琶をお弾きになりましたところが、神様が御感動ましまして、霊験がのあたりに現われましたことでござりまする。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
自分は天の冥加みょうがに叶って今かくとうとい身にはなったが、氏も素性もないものである、草刈りが成上ったものであるから、いにしえ鎌子かまこ大臣おとど御名おんなよすがにして藤原氏になりたいものだ。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
千束町の喜熨斗きのし氏の舞台へ、私と、浜子と鼓村さんと翠扇さんとが集った時、猿之助役の大臣おとどの夢の賤夫しずのおと、翠扇役の夢に王妃となる奴婢みずしめとが、水辺みずのほとりに出逢うところの打合せをした。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
……鹿は鹿の子の『か』と読ませるつもりだそうだから、すると『五』は五月さつきの『さ』。こりゃあ、わけはない。すると『大』はこの筆法で、大臣おとどの『お』かな、それとも大人うしの『う』かな。
顎十郎捕物帳:01 捨公方 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
見ればわかるだろうと考えて、うんなるほどと言っていた。ところが見ればごうもその意を得ない。三四郎の記憶にはただ入鹿いるか大臣おとどという名前が残っている。三四郎はどれが入鹿だろうかと考えた。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
昔も平重盛たいらのしげもりが千の燈籠とうろうをともさせて、燈籠の大臣おとどと呼ばれたという話のように、一人の資力によってたくさんの人を使い、何か自分だけの心願のために、かずの燈火を神にあげるというところもあるが
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
大臣おとど耳を澄まし、八つ九つの争い、形付かぬ内に三十七羽の大鶏、声々に響き渡れば、申さぬ事かと起ち別れて客は不断の忍び駕籠かごを急がせける、名残なごりを惜しむに是非もなく、涙に明くるをちかね
大御代と刷りいづる紙幣さつや我は見て大臣おとどのごとくひろく歩みき
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
宗鑑に葛水くずみずたまふ大臣おとどかな
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
親王でも、関白でも、大臣おとどたちでも、その程度の忍びごとは、なにもそう非人格的であったり、名誉にかかわる問題とはしていなかった。
一瞬間、——その一瞬間が過ぎてしまへば、彼等は必ず愛欲の嵐に、雨の音も、空焚きの匂も、本院の大臣おとども、わらはも忘却してしまつたに相違ない。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
大臣おとどが一時失脚をなさいまして難儀においになりましたころ宮の御恐怖は非常なものでございまして、重ねてまたお祈りを私へ仰せつけになりました。
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
菅公を讒言して太宰の権帥にした、基経の大臣おとどの太郎、左大臣時平は、悪逆無道の大男のように思われて居る。
余録(一九二四年より) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
宗鑑そうかん葛水くずみづたまふ大臣おとどかな
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
おりふしまた、なにがしの大臣おとどは、廊を通りかかって、ふと、小庭の暗がりに、怪しげな二つの人影が、うずくまっているのをみとめた。
「今日は六日の謹慎日が済んだ日であるから、きっと源氏の大臣おとどは来るはずであるのだ、どうしたか」
源氏物語:18 松風 (新字新仮名) / 紫式部(著)
時の大臣おとどともあろう方々が、女童おんなわらべの如く、日夜めそめそ悲嘆しておらるるのみで董卓とうたく誅伏ちゅうふくするはかりごとといったら何もありはしない。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今度は源氏の大臣おとどがこの方を子にしてお世話をなさりたいと熱心に思召おぼしめすことが実現されますようにお計らいくださいませ、そうしてこの方が幸福におなりになりますように。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
時の人々は、なんとも不思議な器用人も居るものであると、宗輔のことを“蜂飼い大臣おとど”と綽名あだなしたということである。
美しい日本の歴史 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大臣おとどがそれをお聞きになりますと、また御自身のほうからも同じ御祈祷をさらに増してするようにと御下命がございまして、それは御位におきあそばすまで続けました祈祷でございました。
源氏物語:19 薄雲 (新字新仮名) / 紫式部(著)
あかりがく。やかたじゅうがおぼろに浮き出す。灯は雪まだらな庭園とえ合って、廊から廊のツリ燈籠まで小松の大臣おとどの風流を真似たかのようである。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大臣おとども関白もあるものか、藤原の一門が、この世を我がもの顔の栄華をやるなら、こっちも、暗闇に、醜原しこわらの一門を作って、奴らに、泡をふかせてやる。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで急遽きゅうきょ、この長井縫之助がえらばれ、新朝廷の西園寺、久我こがなどの大臣おとどをとおし、二上皇の御裁可をうながすべき東使とうしとして、派遣されて来たものだった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むかしは、おごりをうたわれた大臣おとどの別荘であったというが、住みてもなく荒れていたものを、一昨年おととしごろ手入れして、以来月々の“文談会”の例席としてきたに過ぎない。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……もっとも、常に彼の門へは、公卿大臣おとどの車が見えるらしいが、わが家にしても、しぜん将来は、上卿たちとの往来もしげくなること、これではいかにもひどすぎよう
世間から君子と見られ、また、燈籠とうろう大臣おとどなどとばれている重盛がいると、入道相国は誰より煙たがるくせに、その重盛が座にいない時は、やはり何か淋しいとみえて
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時の大臣おとどであろうが、親王、摂家せっけの高貴であろうが、片ッぱしから、ごくつぶしの、無能呼ばわりして、まるでそこらの凡下ぼんげ共より劣る馬鹿者視して、罵りやまないことだった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小野宮おののみや大臣おとどと二条関白とが、ひとりの遊女香爐を挟んでの恋争いやら何やらを、史書にあさると限りがない。「栄花物語」「更級日記」「大和物語」「東鑑(吾妻鏡)」等々々。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大納言為世のじょ為子ノ君、西華門院、また、みかどの随身、大臣おとどたち、眼もくらむばかりな美しい人群れなのに、花吹雪さえ立ちめぐって、さまざまな御遊興もはや尽きての果て。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なんでもこんど開封かいほう東京とうけいの都から、天子さまのお使いで、内殿司ないでんす大臣おとどとかいう大官が、霊山へ献納する黄金の吊燈籠つりどうろうを捧げてやって来るんだそうで。へい。……え。嘘だろうッて。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なにがしの大臣おとどの後家の許へ、ゆうべ、さる朝臣あそんがいつものように忍んで行った。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神護建立じんごこんりゅう勧進かんじんのため、院の御所へ踏み入って、折から、琵琶びわや朗詠に酒宴さかもりしていた大臣おとどどもに、下々しもじもの困苦ののろい、迷路のうめきなど、世の実相さまを、一席講じて、この呆痴輩たわけばら一喝いっかつした所
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
皇后おおきさき禧子よしこをはじめ、後宮の妃から宮々の姫ぎみも供奉ぐぶし、公卿大臣おとどといえば、この日のお供に洩れるなどは、千載せんざいの恥かのように思って、終日の花の宴に、あらゆる余興やびの百態を
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あくる日、とう大臣おとどをはじめ、院中の公卿は、上皇に迫って、劾奏がいそうした。
実は朱実あけみは恐かったのである。そうののしると、彼の手を払って、っしぐらに走ってしまった。そのむかし燈籠とうろう大臣おとどといわれた小松殿のやかたがあった跡だという萱原かやはらを、彼女は、泳ぐように逃げてゆく。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
“吏”の時務、指導者の指揮、大臣おとどの威令など——げんたない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「遠慮なく、幾日でもいたがよい。この小松谷は、むかし平ノ重盛卿がおられし跡。いたら、覚一は、琵琶なと抱いて、燈籠とうろう大臣おとど風流事ふうりゅうじなどしのぶもよかろう。とまれ、わが家と思うて、遊んでいやい」
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蜂飼いの大臣おとど
美しい日本の歴史 (新字新仮名) / 吉川英治(著)