大童おおわらわ)” の例文
玉蜀黍とうもろこしの毛をつかねて結ったようなる島田を大童おおわらわに振り乱し、ごろりと横にしたる十七八の娘、色白の下豊しもぶくれといえばかあいげなれど
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
後の城中では大童おおわらわ鎧武者よろいむしゃ(左団次の渥美五郎)の御注進がある。この鎧武者が敵の軍兵と闘いながら、満祐の前で御注進をする。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
……(左手へ退場。同時に右手から、アルカージナ、燕尾服えんびふくに星章をつけたソーリン、それから荷作りに大童おおわらわのヤーコフが登場)
……以来、打続いた風ッ吹きで、銀杏のこずえ大童おおわらわに乱れて蓬々おどろおどろしかった、その今夜は、霞に夕化粧で薄あかりにすらりと立つ。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大童おおわらわで、眼は血走って、脇差を振り廻しながら、唐人小路を走る時には、人の悪い南条と、五十嵐との姿は、いつか見えなくなってしまう。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
満身紅に染んで、小袖も袴も破れに破れ、大童おおわらわに振り乱した髪は、まだらに碧血に染められた顔を半分程も隠して居るのです。
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
虎之介は海舟から借用した名句も心眼も用いるヒマなく、先ず息を静め汗をおさめるのに大童おおわらわである。新十郎はポケットから一枚の紙片をとりだして
総出の整備員は、汗だくだくの大童おおわらわとなって、新着の飛行機をエレベーターにのせ、それぞれの格納庫へおろした。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして味わって見ると中々こまやかな味のある戦であり、やり、刀、血みどろ、大童おおわらわという大味な戦では無いのである。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あすからの準備に、大童おおわらわで働いていた工匠たくみだの、神官や村人までが、正季の姿に、一とき手をやすめて、礼をした。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
アスファルト路の欠けた処をふさぐためにくぎづけにしてあるのを、子供達が、各自家から持出した、金槌かなづち、やっとこの類で、取りはずすのに、大童おおわらわでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
これも今の登山客誘致に大童おおわらわとなっている鳴物入りの宣伝にうっかりつり込まれ、出かけて見ていやな目に遇うことがあるのと較べて見るのも一興であろう。
紙魚こぼれ (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
けれども彼は私の忠告などには耳もかさず、大童おおわらわになってあれこれと船中を物色していたが、やがて檣柱マストの側へ近附くと、大檣帆メンスルの裾の一部を指でこすりながら
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
余りむすので一層大汗をかこうと大童おおわらわで火夫をやったり何かしています。京都神戸雨の水害あり、こっちもグズグズの天気でそれかと云って降らずにむしている。
今日は十五日締切の小説で大童おおわらわになっているところ。新ロマン派の君の小説が深沼氏の推讃すいさんするところとなって、君が発奮する気になったとは二重のよろこびである。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
子供たちは鬼ごっこで無中になったが、なかで一番大童おおわらわなのが校長秋山先生だった。先生は運動場をもったことと、子供たちがよろこぶのとでよろこびが二倍であったと見える。
部長と刑事の全員が大童おおわらわになってスピードをかけたものであったが、それでも見当が付かなかったらしく、夕方になって、現場を見ていた三人の職工が今一度呼出されて
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
実はお前さんを柴苅りにやることは、二郎様が大夫様に申し上げてこしらえなさったのじゃ。するとその座に三郎様がおられて、そんなら垣衣を大童おおわらわにして山へやれとおっしゃった。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
アメリカから一億ドル……それも雲南のドルで八十億ドルにもなる借款しゃっかんのかたに、この地方のすずだの色々のものをとられるので、坑夫を集めるのに大童おおわらわだと云う話にひどく憂欝ゆううつにされた。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
おおかた流汗淋漓りゅうかんりんり大童おおわらわとなって自転車と奮闘しつつある健気けなげな様子に見とれているのだろう、天涯てんがいこの好知己こうちきを得る以上は向脛むこうずねの二三カ所をりむいたって惜しくはないという気になる
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大童おおわらわになって説明すると共に、もはやごてくさ言っている場合ではないと思って単刀直入に、自分はそういう災厄のために死んだ農奴全部に対する納税の義務をこの身に引受けたいのだと
それほど、父は、痩せ我慢を張つて、生活費の捻出に大童おおわらわだつたのである。
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
怪老人は、大男の心臓を、陳君の左胸部へ移し植え、血管をつぎ合したり、収斂しゅうれん、止血剤を施したり、大童おおわらわになって仕事をつづけたが、やがて、左胸部のきずを縫合せてしまうと、ほっと一息入れ
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
彼女は私の介抱に大童おおわらわであった。夏の夜は早く明けて、私はまだぐったりしていた。そのうち店から朋輩が迎えにきた。私には朝刊の配達という義務が控えているのである。私は思わず弱音を吐いた。
朴歯の下駄 (新字新仮名) / 小山清(著)
船の甲板では七兵衛入道が、やがて総員上陸すべき人員の点検と、陸揚げすべき資材の整理に大童おおわらわとなっている。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこの釣堀に、四人づれ、皆洋服で、まだ酔のめねえ顔も見えて、帽子はかぶっても大童おおわらわと云う体だ。芳原げえりが、朝ッぱら鯉を釣っているじゃねえか。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いったん、そこを駆けぬけた万太郎が、不審と、きびすを返して飛んで来ると、今しも一室の源氏窓を蹴破ッて、火の粉と共におどり出した、大童おおわらわな男の影。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのとき少尉は、地上の信号灯の前に一つの人影が大童おおわらわになって綱を解こうとしているのを認めた。
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
訳者、鴎外も、ここでは大童おおわらわで、その訳文、弓のつるのように、ピンと張って見事であります。
女の決闘 (新字新仮名) / 太宰治(著)
芸術的効果をそこまで持って行くために、ソヴェト同盟のプロレタリア芸術家たちは大童おおわらわだ。
番所へ行ってみると、三輪の万七とお神楽かぐら清吉せいきちが、お寿の責めに大童おおわらわでした。
ところへ、廟門びょうもんの外から大童おおわらわとなった李逵が韋駄天いだてんと馳けこんで来た。一同へ向い大声で外から告げていう。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余興も例の鬼ヶ島の征伐に至ると、もう主客ともに大童おおわらわであります。美人連を鬼に仕立てて、朝野の名流がそれを追蒐おっかけ廻って、キャッキャッという騒ぎでありました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ストリンドベリイなども、ときどき熱演のあまりかつらを落して、それでも平気で大童おおわらわである。
女人創造 (新字新仮名) / 太宰治(著)
慰問のため、うちではきいたこともないラジオのレビューというのを午後二時半からやろうというプランを立てたり、私は叱ったりはげましたり、御機嫌をとったりに大童おおわらわです。
かぶった帽も振落したか、駆附けの呼吸いきもまだはずむ、おやかたの馬丁義作、大童おおわらわで汗を
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みんなで手わけして大童おおわらわで探しているあの怪人丸木が、その火星兵団員だという蟻田博士の言葉は、二重三重に大江山課長を驚かせ、そうして、彼のあたまを、ぼうっとさせてしまった。
火星兵団 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「時分時でないから大丈夫でさ、猫の子が一匹耳をすまして居るだけだ、勘定が済んだら、親父は安心して奥へ引込んだし、小女はつまみ食いで大童おおわらわだ、耳なんか節穴ほどの役にも立たねえ」
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
つまり初手しょてから玉砕ぎょくさいを期していたものとしか見えず、正行の大童おおわらわなすがたを中心に、一とき、わあッと、どよみを揚げた武者どもの叫びは、喊声かんせいというよりも
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時分には、当人大童おおわらわで、帽子も持物も転げ出して草隠れ、で足許が暗くなった。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大盤振舞の施主せしゅ自身が、大童おおわらわになって盛替えのお給仕の役をつとめている。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お母さん、誰かの縁談のために大童おおわらわ、朝早くからお出掛け。私の小さい時からお母さんは、人のために尽すので、なれっこだけれど、本当に驚くほど、始終うごいているお母さんだ。感心する。
女生徒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と指揮の巡査部長が大童おおわらわの号令ぶりをみせた。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
早速大童おおわらわの猛運動が開始されました。
毎晩なので、露八は疲れたし、本業の方も打っちゃらかしではあるが、健吉の窮状と、頼むと云われた一言で、大童おおわらわになって、この撃剣見世物試合の小屋へ、力瘤ちからこぶを入れていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さしもの、真黒な肉塊の海女がふるえ上って、後ろでつかんでいた髪の毛の手を放し、大童おおわらわで、二度とは、その声のした方を見返らずに、一目散いちもくさんおかせあがってしまったのは不思議です。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
池の周囲まわりはおどろおどろと蘆の葉が大童おおわらわで、真中所まんなかどころ河童かっぱの皿にぴちゃぴちゃと水をめて、其処を、干潟ひがたに取り残された小魚こうおの泳ぐのが不断ふだんであるから、村の小児こどもそでって水悪戯みずいたずらまわす。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鍛冶屋の大将は大童おおわらわで防護団を指揮していた。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小網町の仙太は大童おおわらわでした。
その彼が、近来は往々、将士のさきに立って大童おおわらわな働きを見せ、血に染んだ赤い陣刀を肩にかついで、体じゅうで息をはアはアいわせながら引き揚げて来るようなこともしばしばだった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)