墓石はかいし)” の例文
なんにもならないで、ばたりとちからなく墓石はかいしからりて、うでこまぬき、差俯向さしうつむいて、ぢつとしてつてると、しつきりなしにたかる。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「成程、あの墓石はかいしに耳を当てがふと、何時いつでも茶の湯のたぎる音がしてまんな。わて俳優甲斐やくしやがひ洒落しやれ墓石はかいしが一つ欲しうおまんね。」
その間に、彷徨さまよう市民たちは、たった一晩のうちに、生色せいしょくうしない、どれを見ても、まるで墓石はかいしの下から出て来たような顔色をしていた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「おまえのはかは、これだった。このしたに、いままでおまえは、ねむっていたのだ。」と、おじいさんは、一つの墓石はかいししました。
銀のつえ (新字新仮名) / 小川未明(著)
永光寺の開山(名をきゝもらせり)血脉けちみやくをかのふちにしづめて化度けどし玉ひしゆゑ悪竜得脱とくだつなし、その礼とてかの墓石はかいしふちにいだして死期しきしめす。
私が丸い墓石はかいしだの細長い御影みかげだのを指して、しきりにかれこれいいたがるのを、始めのうちは黙って聞いていたが
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たばになって倒れた卒塔婆そとばと共に青苔あおごけ斑点しみおおわれた墓石はかいしは、岸という限界さえくずれてしまった水溜みずたまりのような古池の中へ、幾個いくつとなくのめり込んでいる。無論新しい手向たむけの花なぞは一つも見えない。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
つるつるした墓石はかいしの枕元にある免罪符パルドンをおもひだす永久の鎭魂歌レキエム
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
墓石はかいし取巻とりまいて戒名かいみやうつてある。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
だが、それは斎入が物をらないからで、徳川時代の洒落者の多かつた江戸町人の墓石はかいしには、故人が好物の形に似せた墓も少くなかつた。
永光寺の開山(名をきゝもらせり)血脉けちみやくをかのふちにしづめて化度けどし玉ひしゆゑ悪竜得脱とくだつなし、その礼とてかの墓石はかいしふちにいだして死期しきしめす。
それから墓石はかいしつてしてたが、もとよりうすればくであらうといふのぞみがあつたのではなく、たゞるよりもと、いたづらにこゝろみたばかりなのであつた。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
叔父おじさん、むかしは、いくらよくたって、つめたい墓石はかいしのようなものです。いまのわかひとには、自分じぶんたちとおなかよっています。まあ、自分じぶん姿すがたにゆくのですね。
町の真理 (新字新仮名) / 小川未明(著)
自分はこけの上に坐った。これから百年の間こうして待っているんだなと考えながら、腕組をして、丸い墓石はかいしを眺めていた。そのうちに、女の云った通り日が東から出た。大きな赤い日であった。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たばになつてたふれた卒塔婆そとばと共に青苔あをごけ斑点しみおほはれた墓石はかいしは、岸とふ限界さへくづれてしまつた水溜みづたまりのやうな古池ふるいけの中へ、幾個いくつとなくのめり込んでる。無論むろん新しい手向たむけの花なぞは一つも見えない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
盗んだくるみで一杯になつた二つの袋は墓地のくちにかくしておいて、今一つのふくろにはいつた分を、大きな墓石はかいしのかげで、かずをよみながら
墓石はかいし大小によりて住職の心におうぜずふちへかへせば、その逆浪げきらうして住職のこのむ石を淵に出したる事度々あり。
もとより何故なにゆゑといふわけはないので、墓石はかいしたふれたのを引摺ひきずりせて、ふたツばかりかさねてだいにした。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そして、そのしたとおるときには、くぐってゆかなければなりません。てらよことおったときには、もうゆきうえにますますもって墓石はかいしあたまがわずかばかりしかえていませんでした。
雪の国と太郎 (新字新仮名) / 小川未明(著)
墓石はかいし大小によりて住職の心におうぜずふちへかへせば、その逆浪げきらうして住職のこのむ石を淵に出したる事度々あり。
可笑をかしいのは賭博ばくちが好きだつたからといつて、墓石はかいし骰子さいころの目まで盛つたのがあつた事だ。それを考へてせがれの右団次も亡父おやぢの墓を幽霊の姿にでも刻んだら面白からう。
「嘘はつきましねえ。そこの墓石はかいしの下で神様と悪魔とが、死人を分けてござるだよ。」