冥利みょうり)” の例文
「六郷から向うは初めてだな」六助が励ますように云った、「金を貰って遊山旅をするようなもんだ、しょうばい冥利みょうりってものだぜ」
秋の駕籠 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
富有な旦那の冥利みょうりとして他人の書画会のためには千円からの金を棄てても自分は乞丐こじき画師の仲間となるのをあまんじなかったのであろう。
いつもの彼であれば、芸人冥利みょうり讃嘆さんたんのささやきを呟いてくれる、そうした人たちの方へ、礼ごころの一瞥いちべつはあたえたかも知れない。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「お前さんの前だが、沈魚落雁閉月羞花ちんぎょらくがんへいげつしゅうか、へっへ、卍って野郎も考えて見りゃあ悪党冥利みょうりの果報者——ほい、えらく油あ売りやした。」
『じゃ、おじさんが代を払ってやるから、そばを喰いねえ』と、申しますと、商売物のそばをべると、冥利みょうりがつきると申します。
奉行と人相学 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
よしよし、それ以上負けさしちゃ、多賀屋も冥利みょうりが悪かろう。お前は思ったより良い男だ、手の込んだ人殺しなんかするより、心を
そんなような謀叛気がお角さんの頭にむらむらと湧いて来たのは、実行の如何いかんにかかわらず、商売商売の冥利みょうりだから仕方がありません。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
伊「身請でもようてえ大事なお客様だ、早く往ってきな、畜生なんッて冥利みょうりが悪かろうぜ、ねえはアちゃん左様そうじゃねえか」
冥利みょうりとして、ただで、おあしは遣れないから、肩で船をいでいなと、毎晩のように、お慈悲で療治をおさせになりました。……ところが旦那。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「うん……こんな美女たまを龍平の野郎め、よろしく、ひとりで永々ながながと楽しんでいやがったんだから、ああなったのも、男冥利みょうりに尽きたんだろう」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冥利みょうりを知らない男さね。同じ忙しいんでも遊ぶのと働くのは違うよ。余程豪い仕事をしている積りだから驚いてしまう」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
だんなのようないい男のお手にかかるならせめても女冥利みょうりでござんすから、さ、ご随意におなわをかけなさいましな
出せといったら黙って出せ! (仙太返事をせず)……出さねえな? バクチ打ちの作法も冥利みょうりも忘れた野郎だ
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
こうやって自分の手にかけたお座敷で、兄弟分きょうでえぶんがこしれえたお庭を眺めながら、旦那様のお相伴しょうばんをして一杯いっぺえ頂戴出来るなんて職人冥利みょうりの行止まりでげしょう。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いくら商売だからといっても物には冥利みょうりというものがあるからのと、親父は私が店の真ん中に一段高く飾り立てた蒲団を眺め眺め、満足そうにそう言いました。
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
新聞記者冥利みょうりに胆太く腰を据え、たとえ一ト月二タ月未決に繋がれても、最後まで俺の身分を明さずにこの事件のドンヅマリまで交際い、必ずこの大スクープをモノにし
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それを無にしてもったいない、十兵衛厭でござりまするとは冥利みょうりの尽きた我儘わがまま勝手、親方様の御親切の分らぬはずはなかろうに胴欲なも無遠慮なも大方程度ほどあいのあったもの
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「おびただしくも酔いにけり——酔うということはよいことさ、芸に酔い術に酔う。いつもいつもめている奴は冥利みょうりや金ばかりにかじりつく。ハッハッハ、陶然と酔えよ」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三島の社の放しうなぎを見るように、ぬらりくらりと取止めのないことばかり申し上げていたら、御疳癖がいよいよ募ろうほどに、こなたも職人冥利みょうり、いつのころまでと日をって
修禅寺物語 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一流の妓であればある程商売冥利みょうりと云ふことを忘れ、お客に鼻も引つかけないで威張つてゐるのがしゃくに触つたからなので、京都大阪は如才のない土地柄故それ程でもなかつたけれど
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
病人は寝ているのが仕事だ、悪いことをしてここへ来て、遊んで寝そべって、しかも毎日高い薬を呑ませてもらっているとは、何と冥利みょうりの尽きたことではないか、というのであった。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
それをお前さんのように、ヤ人の機嫌を取るのは厭だの、ヤそんな鄙劣しれつな事は出来ないのとそんな我儘気随きままを言ッて母親さんまで路頭に迷わしちゃア、今日こんにち冥利みょうりがわりいじゃないか。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
おまけに証人は特製の別嬪と来てるんですから、冥利みょうりにつきまさアね……でまア、そんなわけで、やがて洗濯屋は証拠不充分で無罪を判決され、ひとまずその事件もケリがついたんです……
あやつり裁判 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「お名前どおりの福の神といっしょにいると思えば、男冥利みょうりにつきるよ。」
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
芸人冥利みょうりに尽きる話だという、評判も評判、大変な前景気であったが、本人も、一生懸命で、相変わらず藤代町の宿屋木更津屋の二階で
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
茶道に遊ぶものの冥利みょうり、一度は手に入れたいと思った井戸の茶碗が、こんな機縁で、たった五十両で手に入るというのは、全く夢のようです。
「どうか、これはあなたが、お旅先でおつかいなされて下さいまし。とても私たちには、冥利みょうりが悪くッて、おけいただくなんてことはできません」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お羨ましいわねえ双葉さま、そんなに愛して頂だくなんて女に生れた冥利みょうりというものだわ、ではもちろん貴女のお香箱の蓋は破れたわけですねえ」
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
屠犬児は天窓あたまきて、「むこうがおめでたいだけにちっとは冥利みょうりわりいようだ。はて、てい騙取かたりじゃねえか。」
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いま解いて上げるよ、結んだものだから解けなくちゃあならないんだから。切ってはなんだか冥利みょうりが尽きるわよ」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
出せと言ったら黙って出せ!(仙太返事をせず)……出さねえな? バクチ打ちの作法も冥利みょうりも忘れた野郎だ
天狗外伝 斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
道「お帰りですか、商売冥利みょうりですから出ては見ましたが、今にも降って来そうですから、考えているんです」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「わしは満腹で気が重い。あんなところまで行ったら、もどりは夜明けになってしまう。商売冥利みょうりにつきるようだが、きょうはひとつ、お断りすることにしようじゃないか」
むかしの人は正直である、商売冥利みょうりといふこともよく知つてゐた。
小夜の中山夜啼石 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「いや、僕だって店の方を本気にやらなければ冥利みょうりに尽きる」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あっしも江戸っ子冥利みょうりに、すっぱりかぶとをぬぎましょうよ
私にとっては男冥利みょうり、一つ立派に頼まれましょう。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「全くその通りさ、親分、——その普賢菩薩が、時々涙を流しているから不思議じゃありませんか、岡っ引冥利みょうり、一度は見ておかなくちゃ——」
不時の客の到着にも風呂を沸して待つというのが商売冥利みょうりの一つでもありますから、それはいずれをとがめだてするというわけにはゆかないのであります。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
寝巻を着かえていた飛脚男も、月の給料にもあたる小判を見ては、このまま寝るのが冥利みょうりがわるくなって、店へは自分のふところから規定の飛脚料を出し
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
為替かわせしてきらめくものをつかませて、のッつッつの苦患くげんを見せない、上花主じょうとくいのために、商売冥利みょうり随一ずいいち大切なところへ、偶然受取うけとって行ったのであろうけれども。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わが主君とのながら、男冥利みょうりにつきた源三郎! と思うと、嫉妬しっとにわれを忘れた門之丞、ガラリ障子を引きあけ
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「あたしがその人からあなたを横取りするようなものですもの、その償いぐらいしなければ冥利みょうりが悪いわ」
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
年のかないうちくだらないもので、女郎じょろう子供とはく云ったもので、冥利みょうりが悪いことで、その冥利で今は斯うやって斯う云う処へ来て、貧乏の世帯しょたいにわく/\するも昔のばちと思って居りますよ
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
物の冥利みょうりを知らぬ話だと思って、つくづく意見をして来たことだがね、わしの意見もなかなかわかっちゃくれまい
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「どうせそうだろうが、商売冥利みょうりにちょいと見て行こう——小判で百両も持っていたっていうじゃないか」
すくッと立った電信柱に添って、片枝折れた松が一株、崖へのしかかって立っています、天幕張だろうが、掘立小屋だろうが、人さえ住んでいれば家業冥利みょうり……
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
冥利みょうりです。犬馬の労もいといません。どうか真面目に一人立ちのできますよう、おひきたて願いまする」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
舟底には奇妙な引力があって幅のある物ならしばらく吸いつけておくこと、並びにその舟が久しく使われていないこと、まずこれらへ着眼したのが藤吉の器量と冥利みょうりとであった。
食ってくからには冥利みょうりてえことを知らなくちゃならねえ
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)