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余燼
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よじん
ふりがな文庫
“
余燼
(
よじん
)” の例文
旧字:
餘燼
心の
隅
(
すみ
)
の
何処
(
どこ
)
かに
尚
(
ま
)
だ残ってる政治的野心の
余燼
(
よじん
)
等の不平やら未練やら慚愧やら悔恨やら疑惑やらが三方四方から押寄せて来て
二葉亭四迷の一生
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
山は焼け、
渓水
(
たにみず
)
は
死屍
(
しし
)
で埋もれ、悽愴な
余燼
(
よじん
)
のなかに、関羽、張飛は軍をおさめて、意気揚々、ゆうべの戦果を見まわっていた。
三国志:07 赤壁の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
然るに答える者はなく、駈け出して来る兵もなく、
楠氏
(
なんし
)
の陣営には、
焚
(
た
)
きすてられた
篝
(
かがり
)
が、
余燼
(
よじん
)
を上げているばかりであった。
赤坂城の謀略
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
焼野が原は、一層かっきりと、その半ば炭化しかけた材木だの、建前だのが
燻
(
くす
)
ぶって、まだ臭いと
余燼
(
よじん
)
をくすぶらしているのがよくわかる。
大菩薩峠:31 勿来の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
この忘られ掛けた
余燼
(
よじん
)
が
赫
(
か
)
っと炎を上げたと云うのは、荒廃し切った聖堂に、世にも陰惨な殺人事件が起ったからである。
聖アレキセイ寺院の惨劇
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
▼ もっと見る
伸子が部屋へかえって来るまでに、のぼせるような豆炭の火気をはきつくした煖炉は適度に部屋をあたためて、夜更けらしい
余燼
(
よじん
)
を見せている。
道標
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
素子は情慾の
余燼
(
よじん
)
の恍惚たる疲労の中で恰も同時に炊事にたづさはるものゝやうな自然さで事務的な処理も行ふのだ。
女体
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
いきなり死骸を抱き起こしましたが、石っころのように冷たくなって、もはや命の
余燼
(
よじん
)
も残っていそうもありません。
銭形平次捕物控:120 六軒長屋
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
煙る
余燼
(
よじん
)
の中に、半焼の
死骸
(
しがい
)
があった。その中に、火の災いをこうむらないで、例の宝物は納まっていた。
茶の本:04 茶の本
(新字新仮名)
/
岡倉天心
、
岡倉覚三
(著)
戦国の
余燼
(
よじん
)
いまだ納まらない当時のこととて、不時の軍用金にもと貯えておいた黄金をはじめ、たびたびの拝領物、めぼしい家財道具などをすべて金に換えて
丹下左膳:02 こけ猿の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
二三年まえ、罪なきものを
殴
(
なぐ
)
り、
蹴
(
け
)
ちらかして、馬の如く
巷
(
ちまた
)
を走り狂い、いまもなお、ときたま、
余燼
(
よじん
)
ばくはつして、とりかえしのつかぬことをしてしまうのである。
もの思う葦:――当りまえのことを当りまえに語る。
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
炉にあかあかとたかれた火の
余燼
(
よじん
)
がきれいに掃き清められた小屋の中をほんのりと
温
(
あたた
)
かく照らした。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死――
(新字新仮名)
/
長与善郎
(著)
風が出てきて、
余燼
(
よじん
)
がスーと横に長引くと、
異臭
(
いしゅう
)
の籠った白い煙が、意地わるく避難民の行手を
塞
(
ふさ
)
いで、その度に、彼等は、また
毒瓦斯
(
どくガス
)
が来たのかと思って、
狼狽
(
ろうばい
)
した。
空襲葬送曲
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
そしてこれに新しき衝動を与えるものは往々にして古き考えの
余燼
(
よじん
)
から産れ出るのである。
科学上の骨董趣味と温故知新
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
音楽の配給をしていた日本芸能社では
先
(
ま
)
ず街頭演奏を計画して、戦災の
余燼
(
よじん
)
くすぶる三月十四日から新宿駅と上野駅の広場で、下八川圭祐、淡谷のり子、笠置シズ子さんを始め
三浦環のプロフィール
(新字新仮名)
/
吉本明光
(著)
せめて、冬の陣のままで
四月
(
よつき
)
か半年も頑張ったならば、当時は戦国の
余燼
(
よじん
)
がやっと収まったばかりであるから、関ヶ原の浪人も多く、天下にどんな異変が生じたか分らないと思う。
大阪夏之陣
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
ところがこの時は、折角のその安心感が
僅
(
わず
)
か半日で打ち切られてしまった。盛岡へ着いてみたら、駅の周囲がすっかり焼けていて、まだ
余燼
(
よじん
)
が白く寒空に
上
(
た
)
ち昇っている風景に
遭
(
あ
)
った。
I駅の一夜
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
余燼
(
よじん
)
の
煙
(
けぶ
)
る焼け跡から、二百年前の婦人の遺骨と確定せられるものが、一体発見せられたということを耳にして以来、なおさら私は、自分のこの確信を深めずには、いられなかったのです。
棚田裁判長の怪死
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
中一日置いて、九月の八日には千歳村全体から牛車六十台の見舞車が、水気沢山の畑のものをまだ
余燼
(
よじん
)
の熱い渇き切った東京に持って行きました。私も村人甲斐に馬鈴薯百貫を出しました。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
そして、汽車は更に激しい壊滅区域に
這入
(
はい
)
って行った。はじめてここを通過する旅客はただただ驚きの目を
瞠
(
みは
)
るのであったが、私にとってはあの日の
余燼
(
よじん
)
がまだすぐそこに感じられるのであった。
廃墟から
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
笹村はもう一度、その
余燼
(
よじん
)
を掻き廻して見たいような気がしていた。
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
噴き崩れた
余燼
(
よじん
)
のかさなりに
原爆詩集
(新字新仮名)
/
峠三吉
(著)
そうかといって、この
余燼
(
よじん
)
をどうするのだ。余燼とはいえ、寄りつけたものではない。手のつけようも、足の入れようもあるものではない。
大菩薩峠:26 めいろの巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
蛮地の奇峰怪山のうえに、なお戦火の
余燼
(
よじん
)
が煙っている。孔明は
快
(
こころよ
)
げに、朝の兵糧を喫し、さて夜来の軍功を諸将にたずねた。
三国志:10 出師の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
麹町
(
こうじまち
)
のあらゆる大邸宅が嘘のように消え失せて
余燼
(
よじん
)
をたてており、上品な父と娘がたった一つの赤皮のトランクをはさんで濠端の緑草の上に坐っている。
堕落論
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
焔は消えたが
余燼
(
よじん
)
はあって、五六本の松火が地上に赤く、点々とくすぶってはいたけれど、光は空間へは届いていなかった。案内の知れない山中であった。
生死卍巴
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
まだ
余燼
(
よじん
)
のくすぶる火事場をとりまいている人々から、やっとききだし得た情報の全部でした。
丹下左膳:02 こけ猿の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
芭蕉去って後の俳諧は
狭隘
(
きょうあい
)
な個性の
反撥力
(
はんぱつりょく
)
によって四散した。
洒落風
(
しゃれふう
)
浮世風などというのさえできた。天明
蕪村
(
ぶそん
)
の時代に一度は燃え上がった
余燼
(
よじん
)
も到底
元禄
(
げんろく
)
の光炎に比すべくはなかった。
俳諧の本質的概論
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
最も近火だった南の高階さんの向こうの火も
余燼
(
よじん
)
だけとなった。
海野十三敗戦日記
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
しかし、前にいうところの如く、たとい
余燼
(
よじん
)
なりといえども、この余燼の灰を
掻
(
か
)
くまでには、まだ相当の時間を待たなければならないことです。
大菩薩峠:26 めいろの巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
鷲津
(
わしづ
)
は、その街道の北側の山地にあり、もう焼かれ尽したか、
余燼
(
よじん
)
も力なく、いちめんに野路や海辺を煙らせて見える。
新書太閤記:02 第二分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
◯今朝、
余燼
(
よじん
)
が空中に在るせいか、天日黄ばんで見えたり。
海野十三敗戦日記
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
おそらく朝になっても、
余燼
(
よじん
)
の勢いは変るまいが、火の勢いとしては、目立たぬほどずつ衰勢に赴くのは争われません。
大菩薩峠:26 めいろの巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
焼け落ちたのちも、巨大な火の山は、
終日
(
ひねもす
)
、紫いろの
余燼
(
よじん
)
をめらめらあげている。そしてようやく夕方には灰になった。
新書太閤記:06 第六分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
なんですッとんでいったかと思うと蛾次郎、そこでまだ、カッカと
余燼
(
よじん
)
の火の色がはっている焼け跡にお
尻
(
しり
)
をあぶって
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
まだ
余燼
(
よじん
)
が盛んに燃えている早朝のことで、この有様に意外な感じをしたが、さあらぬ
体
(
てい
)
で、これも三田の方面へ
踵
(
きびす
)
をめぐらしたから、誰もあやしむものはありません。
大菩薩峠:22 白骨の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
なおまだ、火事場の
余燼
(
よじん
)
が空には赤く
映
(
は
)
え、町は夜も
丑満
(
うしみつ
)
を何処ともなく騒々しい。しかし、ふたりを乗せた駒音は、愉しむごとく、トボトボ行く。
私本太平記:02 婆娑羅帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
輦轂
(
れんこく
)
の
下
(
もと
)
、一日とて、守備なくてはかないませぬ。しかも、戦乱の
余燼
(
よじん
)
が
熄
(
や
)
んだかに見えるのは、洛中だけのこと。
新書太閤記:03 第三分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
かくて和氏が、鎌倉へ着き、そして義貞と会ったのは、
瓦礫
(
がれき
)
の
余燼
(
よじん
)
も、やや
冷
(
さ
)
めていた戦後六日目のことだった。
私本太平記:08 新田帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
城内はまだ
余燼
(
よじん
)
濛々
(
もうもう
)
と煙っている。曹丕は万一、残兵でも飛びだしたらと、剣を払って、片手にひっさげながら、物珍しげに、諸所くまなく見て歩いていた。
三国志:06 孔明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
と、なお胸の
余燼
(
よじん
)
を、消さなかった。で——雪とは承知しながら、ずしん、ずしん、と地ひびきのする度に、潮田又之丞も、ほかの者も、すぐ眼をうごかした。
べんがら炬燵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
あくる日もまだ
余燼
(
よじん
)
は
冷
(
さ
)
めきっていなかった。が、寄手の大将菊池武敏は、さっそく、ここへ来て、妙恵入道以下の
黒焦
(
くろこ
)
げの死体を
篤
(
とく
)
と実検して、そして言った。
私本太平記:11 筑紫帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
本能寺の
余燼
(
よじん
)
もまだいぶっていた六月二日の当日、
未
(
ひつじ
)
の
刻
(
こく
)
(午後二時)頃には、彼はもう京都を去って
新書太閤記:08 第八分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
若い旗本ばかりが選ばれ、彼もそのひとりとなって、まだ
余燼
(
よじん
)
のもうもうたる市街へ騎馬で出て行った。
大岡越前
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
心なしか浜川の海岸へ立って、ふたたび、江戸の方角をみると、大火の
余燼
(
よじん
)
がまだ残っているのであろうか、どんよりした黒いものがはるかな空をおおっている。
鳴門秘帖:02 江戸の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
余燼
(
よじん
)
は消されつくしても、まだ人の不安と怖ろしい
昨夜
(
ゆうべ
)
の騒ぎは消えていない。火消改めの
提灯
(
ちょうちん
)
だの
町与力
(
まちよりき
)
の列だの、お
布施米
(
ふせまい
)
の小屋だのが、大変な混雑である。
鳴門秘帖:02 江戸の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
目前に、
余燼
(
よじん
)
の煙をあげている敵の
城骸
(
じょうがい
)
だけを見て、武勇の人の
陥
(
おちい
)
りやすい、小さな快味に酔っていた。
新書太閤記:10 第十分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
世阿弥
(
よあみ
)
の家のあとを初め、二十七家の隠密組の屋敷は、あとかたもなく焼け落ちて、
坩堝
(
るつぼ
)
を砕いたような
余燼
(
よじん
)
の焔は、二人を
嘲
(
あざけ
)
るごとくメラメラと紫色に這っていた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
何で彼ら遺臣間の乱後の乱に立ち入って、
余燼
(
よじん
)
の
拾得
(
しゅうとく
)
を争おうや——という
襟度
(
きんど
)
があった。それとまた、彼にはもっと実質的な「この際になすべき事が」一方にあった。
新書太閤記:09 第九分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
坂本城の
余燼
(
よじん
)
は消え、墨の如き湖や
四明
(
しめい
)
ヶ
嶽
(
だけ
)
の上を、夜もすがら青白い
稲光
(
いなびかり
)
が
閃
(
ひら
)
めきぬいた。
新書太閤記:08 第八分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“余燼”の意味
《名詞》
余燼(よじん)
何かが燃えた残り。もえさし。
後に残る影響。
(出典:Wiktionary)
余
常用漢字
小5
部首:⼈
7画
燼
漢検1級
部首:⽕
18画
“余燼”で始まる語句
余燼濛々