人質ひとじち)” の例文
その後暫らく經つて、一件も落着した頃、八五郎にせがまれて、美しかつた人質ひとじちのお糸のことを、平次は斯う説明してやりました。
「その折、玄徳の一子、阿斗あとをも連れて、呉へ下ってこられたなら、あとはもう此方のものです。それを人質ひとじちに、荊州を返せと迫れば」
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それには、きみたちを、人質ひとじちにした方が、つごうがいいからね。ウフフフ……、おい、このふたりを、六号室へぶちこむんだっ。
鉄人Q (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一種の人質ひとじちとなって多年江戸に住んでいることを余儀なくされた諸大名の奥方や子息たちは、われ先にと逃げるように国許くにもとへ引きあげた。
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今川義元の菩提所ぼだいしょに家康が幼時人質ひとじちに来ていたという因縁がからんでいる丈けに道具の品目がおびただしい。義元公自画自讃という掛物があった。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
るにはるがあづけてある。いきほへいわかたねばらない。くれから人質ひとじちはひつてゐる外套ぐわいたう羽織はおりすくひだすのに、もなく八九枚はつくまい討取うちとられた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
秦の国に人質ひとじちとして行っていたのを始皇帝が虐待した、それを憤って燕丹は燕の国へ逃げ帰り、何とかしてその恨を報じようと思っていた矢先
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
東へお立ちなされ候大名衆の人質ひとじちをとられ候よし、もつぱ風聞ふうぶん仕り候へども、如何いかが仕るべく候や、秀林院様のお思召おぼしめしのほども承りたしとのことに有之候。
糸女覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
もしかれらがふたりを人質ひとじちにとれば、あとはゆうゆう無理難題むりなんだいをしかけて十五少年を苦しめることになるだろう。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
けれど玄王げんおうの部下達も、玄王が人質ひとじちになっているので、思いきって攻め寄せることもできませんでした。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
留置とめおきあづけなどゝ云ふことにせられては、病体でしのねるから、それはやめにして貰ひたい。倅英太郎は首領の立てゝゐる塾で、人質ひとじちのやうになつてゐて帰つて来ない。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
みんごと人質ひとじちを一つせしめ上げたものと見られるが、群集にとっては、何のことだかわからない。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
当時は手早く女は男の公債証書を吾名わがなにして取りおき、男は女の親を人質ひとじちにして僕使めしつかうよし。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
利江子夫人は、かんしゃくを起こして、そのしかえしに人質ひとじちのようにボクさんを取りあげて田舎へ隠し、次々と居どころをかえて、久世氏が手も足も出ないようにしてしまったのです。……
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これは幕府が大名の奥方、姫君などをかごの鳥同様、人質ひとじちとして丸の内上屋敷かみやしき檻禁かんきんさせていたので、美しき女の伝もつたわらぬのでもあれば、時を得て下層の女の気焔きえんが高まったのでもあろう。
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
その元康は、まだ乳母の手を離れない六歳の頃に、この織田家に人質ひとじちとして送られたことがあった。——それから正に十五年目。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しか労力らうりよく仕払しはらふべき、報酬はうしうりやう莫大ばくだいなるにくるしんで、生命いのちにもへて最惜いとをし恋人こひびとかりうばふて、交換かうくわんすべき条件でうけんつる人質ひとじちたに相違さうゐない。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ぼくは損害を賠償ばいしょうしてもらう権利があります。そのためにご子息壮二君を人質ひとじちとしてつれてかえりました。
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それでどうにかこうにか次郎兵衛だけはこっちへ人質ひとじちに取ってしまったが、女房と番頭とが案外にしっかりしていて、かれらの目的も容易に成就しそうもないので
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
が、この方がよっぽどかつばえがしました。まあまあお聞き下さいまし、その女の子はわっしの働きでいいところへ隠しておきますよ。あいつはね、人質ひとじちになるんですから、大事な代物しろものですよ。
匪賊ひぞく首領かしらは、玄王げんおうのふいを襲って、その城をのっとりましたが、負傷した玄王を人質ひとじちにとって、金銀廟の中におしこめ、自分は玄王に仕えてる者だ、と、勝手にいって、ふきんの土地を治め
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「なおそのほかに貴様の子供を人質ひとじちのためにさし出すのだぞ。」
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
人質ひとじち同様、町名主や親方の束縛もうけるが、その代り、御城内仕事は、外の仕事より、体も楽だし、賃銀はざっと倍額にもなる。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むろん、治郎君を人質ひとじちにして、博士の発明の秘密と、引きかえにしようというのでしょう。
電人M (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かれらは太守の一行を人質ひとじちにして、自分たちの食料を強要したのである。
義昌よしまさほかお身内の意嚮いこう、たしかに信長承知はいたしたが、然るべき人質ひとじちなど、安土へ送り来ぬうちは、否とも応とも、即答いたし難い」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人質ひとじちに取られたような形で、半七はただ詰まらなく坐っていた。
半七捕物帳:64 廻り灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それは、よい人質ひとじちを取って来られた。小次郎の方からやって来るように仕向けられたのは、さすがに兵法の御巧者ごこうしゃというもの。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、老臣の荒木久左衛門や、そのほかの歴々は、城を開いて、その妻子たちを人質ひとじちとして差出し、寄手の織田信澄のぶずみへたいして、降参を申し出た。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「和議をいたそう。しかし中国五ヵ国を譲渡すること。城将清水宗治の首差し出すこと。人質ひとじちを送ること。この三ヵ条は、譲歩するわけにまいらぬ」
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城もろとも、御坊丸の身は、敵方なる甲斐の武田家に引き取られ、以来、信長の血すじなので、武田勝頼は、よい人質ひとじちと、手許てもとに養っていたものである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、代りの使者を立てて詫びを入れ、弟の竹中久作を人質ひとじちとして稲葉山へ渡し、飽くまで従順なあかしをみせた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
元康は、織田家に大敗をうけた今川義元の人質ひとじちだし、しかもその一幕下いちばっかに過ぎなかった者なのだ。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして信康のぶやすを刺し、多くの徳川方の家族を人質ひとじちに捕えて、そこを足場に、浜松を攻めれば——浜松の将士もまた、続々こうを乞うて、味方に走ってくることは疑いもない。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分は六歳から他国の人質ひとじちとなって、一衣一飯にも、つぶさに辛苦をなめて来たが、それにもまさる貧苦困乏の味を知っている譜代の家中すら、みなこう変って来たかと思うと
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宿大臣閣下は、供奉ぐぶの随員、宮廷武官、小者など、あわせて六、七十名と共に、ごッそり、少華山の人質ひとじちとなってしまい、意気も銷沈しょうちんかゆも水も、のどに通らぬほどなしょゲかただった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六歳の頃から、織田家へ、また今川家へと、彼の少年時代は、流浪と、敵国の中に送り、その体は、人質ひとじちとして、自由を許されずに過ぎて来た。今日もまだ、その束縛は解かれていない。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はて、長浜の城には、この方の老母や妻子どもが、まだ置いてあるのじゃよ。身ひとつは、如何ようにも、ここの陣を脱しようが、老母どもは、時を移すと、必然、人質ひとじちに捕われよう」
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「たいへんです、石田方から、奥方様を、人質ひとじちにと、迎え取りに参りました」
三河では、松平清康まつだいらきよやすが、今川家へ降って、その与国よこくに甘んじてしまって以来、不幸つづきで、清康の死後、子の広忠ひろただも早逝し、嗣子ししの竹千代は、人質ひとじちとして今、駿府に養われている有様だった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こいつあいい人質ひとじちを置いて行きゃあがったぜ。おい、御新造——」
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「思いのほか、早くやって来たな。やはり、人質ひとじちいたとみえる」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もしお疑いならば、人質ひとじちでもなんでもお求め下さい」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
少年の頃、筒井家に人質ひとじちとしていたことがあります。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さ、長い間の人質ひとじちも、お返し申しますぞえ」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毛利もうり人質ひとじちをだしてをねがう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ていよく、人質ひとじちに取った」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人質ひとじちに取ってある」
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)