たま)” の例文
車夫は諸声いっせい凱歌かちどきを揚げ、勢いに乗じて二歩を抽き、三歩を抽き、ますますせて、軽迅たまおどるがごとく二、三間を先んじたり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三たび撫でまわすと全身がすっきりしてきて、その心地よさが骨髄に沁みるようであった、すると女はそのたまを取ってのどに入れて言った。
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その次に「強い風だ。いよいよこれから死にに行く。たまあたってたおれるまで旗を振って進むつもりだ。御母おっかさんは、寒いだろう」
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
男は石膏のたまを放つこと雨より繁かりしかど、屈せずしてかの竿をたわませんとせしに、竿は半ばよりほきと折れて、燭のたばははたと落つ。
和蘭風な打扮いでたちで、尖柱戯をして居るのに邂逅であつたことがある、かれもある夏の昼過に、たまを転ばすやうな音を聞いたことがあるといひます。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
煙管の針の先きで、あめのような阿片のたまが慄えながらじいじいと音を立てた。豚の足は所々に乱毛をつけたまま乾いたひづめを鍋の中から出していた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ピストルのたまは前額に深く這入っていたがまだこと切れてはいなかった。余はその知覚を失いながら半身を動かしつつある古白君をただあきれて眺めた。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
不思議、不思議、見渡す限り人影もないのにどこからともなくピストルのたまが飛んで来て、少年の胸を射抜いたのだ。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「あのたまはわたくしが受け止めます」と言って、小姓が権右衛門の前に立つと、丸が来てあたった。小姓は即死した。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
くゞひがゐる。尼さん達が通るのです。長い黒い列を作つて通るのです。石炭のたまを緒にいたやうな工合ですね。年上のと若いのと並んで行くのもある。
(新字旧仮名) / グスターフ・ウィード(著)
かの己が傲慢たかぶりの爲遂に滅ぶにいたれる家族やからもわが見し頃はいかなりしぞや、黄金こがねたまはそのすべての偉業をもてフィオレンツァを飾り 一〇九—一一一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ちょうど、重い鉄のたまが、赤く焼け切っているように奈落ならくへと沈んで行く。壁一重ひとえ隔てた、森が沈黙している。
森の暗き夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
蔵ハ論じて是ほどの近ニて地へふしても、たま飛行事とびゆくことハ早きものゆへ、むへき無益なりとてよくしんぼふ辛抱致し、つきた突き立ちてよくさしづ致し、蔵がじまんニて候。
この時もいたく胸騒ぎして、平生魔除けとして危急の時のために用意したる黄金のたまを取り出し、これによもぎを巻きつけて打ち放したれど、鹿はなほ動かず。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
しかし法律上の沙汰でエリオットが同時に射た二銃ともたまを込みいた確証なしとの一点より無罪と宣告された。
少し気のきいたのが、然らば鉄砲のたまも上る事は出来ないのであるかと、反問したのでそのままになった。
碧蹄館の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その男が今や、鉄棒の両端に鉛のたまのついてる一種の玄翁げんのうをルブラン氏の頭めがけて振り上げた。
龍馬は又一発響かせて一人倒しましたがたまは五ツしか込て無かつたので後一発となつたのです。
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
八尺程の距離を置いた台から台へ、五貫目ばかりの鉄のたまを、繰返へし繰返へし、置き換へさせるのですが、何が苦しいと云つて、あの位、囚人に苦しいものはありますまい。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
謀叛人むほんにんがこの屋敷へきりこんだというわけでもなく、また謀叛が発覚して御用の手が混み入ったというわけでもなく、ただ一発の弾丸が——それも無論、大砲のたまではなく小銃の弾丸が
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
甚五郎爺は薬だと云って鳥の「きも」を出すとすぐなまのまんまのむと聞いて、私は喉へたまが上って来るようだった。鳥にも「きも」なんてあるものかしらん、私は獣ほかない様な気がして居た。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
三十年と研究練磨してきた天然理心流の奥伝よりも鋭く人を倒す弾丸——小さい円いたま——それが、百姓兵の、芋侍にもたれて、三日、五日稽古すると、こうして、近藤が、この木の蔭にいても
近藤勇と科学 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ヴァイオリンを弾く音、人のどなる声、王様こかしのたまの響、945
やっと引金に指をあてる事だけネ教わって覚えたので、時々やって見た事がある、今もたまが込めて有る事を思い出したから、すぐに旦那の手箱のうちから取出してね、思い切ってって見たんだけれども
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
布団の襟から覗いてる男の頭が、鉄のたまのように見えた。
溺るるもの (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ドストイェフスキーはかくして法律のね丸めた熱いなまりたままずにすんだのである。その代り四年の月日をサイベリヤの野に暮した。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この答辨に次で、何時でも女房が最う一遍新にたまを籠めて発砲し、リツプは僅に身を以て免かるといふ様な勢で、兵を引上げ、外へ出て行きます。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
ピストルのたまの当らぬ様、押入れの外に身を隠して、その竹竿で怪物の手からピストルを叩き落そうというのだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
昨日は人の波打ちしコルソオの大道には、往き交ふ人まばらにして、白衣にあゐ色の縁取りしをたる懲役人の一群、あられの如く散りぼひたる石膏のたまを掃き居たり。
高重は片腕をくし上げると、盃をめながら、ぶるぶる慄えて落ちそうな阿片のたまを睨んでいた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
両方より大砲小銃打発候得バ、自分もちてをる筒や、左右大砲の車などへ、飛来りてあたたまのおとバチ/\、其時大ていの人ハ敵ニつゝの火が見ゆると、地にひれふし候。
我々はすぐに薄暗い、そのくせ装飾はけばけばしい、妙な応接室へ案内された。成程これじゃ金玉均でなくても、いつ何時どんな窓の外から、ピストルのたま位は食わされるかも知れない。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この時もいたく胸騒むなさわぎして、平生へいぜい魔除まよけとして危急ききゅうの時のために用意したる黄金おうごんたまを取り出し、これによもぎを巻きつけて打ち放したれど、鹿はなお動かず、あまり怪しければ近よりて見るに
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
(この間小猿等大いなるたまを弄びゐたるが、その丸を転がし出す。)
ふくろほころびて中からたまが飛出して
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いえいけません。きっとあれで面白半分にお隣りのとりを打つに違ないから。構わないからたまだけ取り上げて来て下さい」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「オヤ、妙だね。カチンカチンと云ったばかりで、たまが飛出さぬ様だね。ハハハハハ、もう一度やってごらん」
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そが間には軍服に假髭つけひげしたる羅馬美人ありて、街上なる知人しるひとに「コンフエツチイ」のたまなげうてり。
彼はメリヤスをたまにして抛り上げた。彼は身体を激しく振つて笑つた。悲しくもなつた。
悲しめる顔 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
ですからリツプが今迄見た内でこれが一番沈んだ会でした。この場所の静かなのを時々破るものは、たまの音計りです、抛げ出される度に、山伝ひに谺響を喚起す、鳴渡る雷の様な丸の音計りです。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
たまは硝子の音がする。2405
たま這入はいるのも仕方がないでしょう。こうして学校の隣りに住んでいる以上は、時々はボールも飛んで来ましょう。しかし……あまり乱暴ですからな。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
魚雷でも大砲のたまでも、その磁力圏に飛び込んだが最後、悉く引きつけてしまうのです。この黒い物体は、鎖で引かれて、水中を軍艦のうしろからお供をしているのです。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大いなる山、大いなる空、千里をけ抜ける野分、八方を包む煙り、鋳鉄しゅてつ咽喉のんどからえて飛ぶたま——これらの前にはいかなる偉人も偉人として認められぬ。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
谷山は部屋の隅へ走って行って、そこの小机のひきだしから、いざという時の用意に、たまをこめておいた小型ピストルを取出し、その引金に指をかけて、一同の前へ戻って来た。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
黒くむらがる者はたまを浴びるたびにぱっと消える。消えたかと思うと吹き散る煙の中に動いている。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小人国の住人から見れば、ガリバアの皮膚は象の皮の何十倍も厚くて、大砲のたまとても通りません。小人国最大の巨砲に撃たれても、ガリバアは蚊に刺されたほどにしか感じないのです。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
急に溜飲りゅういんが起って咽喉のどの所へ、大きなたまが上がって来て言葉が出ないから、君にゆずるからと云ったら、妙な病気だな、じゃ君は人中じゃ口は利けないんだね、困るだろう、と聞くから
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ちゃんとたまがこめてありますよ。だがあなたピストルを打ったことがありますか。打ち方を御存知ですか。それに、ホラ、あなたの手は中気みの様にブルブル震えているじゃありませんか。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
が、仕合わせとたまはそれた。後部のガラス窓を微塵に打破うちわったばかりだ。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)