不可いけ)” の例文
あんたが、いくら不可いけないって云っても、あたしのオウ・デ・コロンをフケ取りの香水の代りに使うから、懲しめのためにやったの。
四月馬鹿 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
「あの小説がてから、サヾーンといふ人が其話を脚本に仕組んだのが別にある。矢張りおなじ名でね。それを一所にしちや不可いけない」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「ちょいと、どんなことが書いてあって。また掏賊すりを助けたりなんか、不可いけないことをしたのじゃないの。急いで聞かして頂戴な。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その後土師清二氏からも長谷川伸氏からも「国枝よ。あんまりションボリし過ぎる。大酒は不可いけないが少しは酒をやった方がいい」
小酒井さんのことども (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「又そんな六ヶい言葉をお使ひなすつちやあ不可いけません。——だが今日はどちらへ。おいでの所かお帰りの所か存じませんが。」
(新字旧仮名) / 久米正雄(著)
「ああ。何もならぬ事を申しました。さあ参りましょう。軍医大佐殿が待っておられますから……疑われると不可いけませんから……」
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「助の顔色がどうも可くないね。いったい病身な児だから余程よっぽど気をつけないと不可いけませんよ」と云いつつ今度は自分の方を向いて
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
これが、彼のいちばん不可いけないところだった。じぶんを持することあまりに高いために、すぐ人と争い猜疑心さいぎしんを燃やす癖がある。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
この論法で、きょうも不可いけない、あしたも不可ないと云って、二度も三度も追い返すと、しまいには相手も飽きて、来なくなる。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「あんまりばたばたするから不可いけない。僕の思った通りいよいよこの月世界にはもう空気が全くなくなって終っているんだ。」
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
乳母 はて、おまへ阿呆あほらしいおひとぢゃ、あのやうなをとこえらばッしゃるとはいのぢゃ。ロミオ! ありゃ不可いけんわいの。
蛇や蜘蛛は、むしろ、愛すべき小動物としか思いませんけど、これはどうも、そうはいきません、蛾——蛾——と思うと、もう不可いけないんです。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
『いいえいいえ、昂奮なすつちや不可いけません。昂奮なすつちや不可ません』と、私に背を向けたまゝ、医者は弟をなだめすかしてゐるのであつた。
亡弟 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
「こないだからちっと許り元気がないの、下らない仕事ばっかし毎日しなきゃ不可いけないでしょう、頭と手とバラバラな生活をしてる様な気がして」
歩む (新字新仮名) / 戸田豊子(著)
甚だしいものになると、随分と不可いけないことでも、兄弟のやることだと是認した上、自分までその悪事に加担して遂に大罪を犯すことがあります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ぼくは嫌いなまま愛さなければ不可いけないのでしょうか。なんにも云いたくない。ぼくは余り多くの人々を憎んでいます。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
一緒に帰っては間男でもしたと思われるから不可いけないって戯談を言って、如何言っても動かなかった。こう言つて二人が争って居る所へ六平が行った。
恭三の父 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
「しッ! そんなことを大きな声でいっちゃア不可いけない。どうもお前をつれて歩くと、口が悪いんでひやひやするよ」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
うしても伯林ベルリンで降りるのだと云つても頑として不可いけないと云ふ。荷物の関税の関係などの事でさう云ふのである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「アンコなんか不可いけません。あんまり食べたがるもんだから、それで虫が出るんですよ——嫌ならお止しなさい」
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「へーえ。やっぱり不可いけないんで御座いますかね。こうなると手前共にゃどうもおかみの御趣意が分りかねます。」
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
『だから不可いけない。』と昌作は錆びた聲に力を入れて、『體の大小によつて人を輕重するといふ法はない。眞箇に俺は憤慨する。家の奴等も皆うだ。』
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
米良、貴方は妾を世界の花から花に住みかえる毒蛾のように思っては不可いけないのです。昔から女というものは英雄と革命を愛することに変りはないのです。
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
「そこは不可いけねえ、直ぐ見付かる」と黒人が叫んだ。「停泊用釜ドンキ・ボイラの上から水張りの隙間スペイスへ潜込むんだ。早く!」
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「そいつは不可いけねえ」と誰かが云った。トビの連中の一人であった。きれいに仕切りをつけろと云うのである。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
こんなことでは不可いけないというので、真のカトリック精神、根本的なものへ還った意味でのカトリックの精神を実質的に回復させなければならぬというので
... イナや鰡はよく味噌汁へ入れますがあれは生の身を用いるとつゆが生臭くなって不可いけません、一度焼いて入れるのに限ります」妻君「それはい事をうかがいました。 ...
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
新聞紙も敷かず板の間にすわってしまうと、両手で顔をおおうて眼をツブった。「休まなくては不可いけない、俺が倒れてはならぬ」そンなつまった気持だった。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
「そんだら、早く行って来やしゃれ。雪が降って来ると不可いけないすかい、早く行って来やしゃれ。」
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
『それは分ってるけれど、御領主様がお亡なり遊ばしたから、田螺たにしを喰べては何うして不可いけないの』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ますます不可いけないことは明らかなのであるが、それを言うと、どんなに機嫌を悪くするか分らないようなその頃の伯父であったので、三造も黙っているより外はなかった。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
お葉は二十五に死んでも不可いけない。三十に死んでも不可ない。三十二に死んでも不可ない。
三十三の死 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
不可いけませんよ、そんなことは……」おゆうはいれ替えて来たお茶をぎながら言った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
歌ちゃんあれは、あれッてなに、おとぼけでない彼れさ、知らないよ、知らないはずがあるものかねと叱るように早口に云えば、実は七赤儂とはごく不可いけないの、その不可いけないのがいいのだろう
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
考へ拔いた揚句今夜私は伯林ベルリンで降りるとボオイに云つたが不可いけないと云ふ。何うしても伯林で降りるのだと云つても頑として不可ないと云ふ。荷物の關税の關係などの事でさう云ふのである。
巴里まで (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
種蒔は、深すぎても浅すぎても不可いけない。しめり過ぎた処に蒔けば腐る。燥いた処に蒔いた後で永く雨が降らなければ枯れて了ふ。だから、百姓する第一要件として天候気象の判識力を要する。
百姓日記 (新字旧仮名) / 石川三四郎(著)
『アッ。不可いけねえ……こればっかりは不可いけません』と彼は身を藻掻いた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
何故なぜ不可いけないんです、え、何故?」と今度は妹が何かねだつて居る。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
何故なぜ、それでないのぢや不可いけないか?』と三月兎ぐわつうさぎひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「そりゃあうだろう、惚れてるからな」嘲笑あざわらうように鼻を鳴らした。「女を占めようと思ったら、決して此方こっちで惚れちゃあ不可いけねえ」
隠亡堀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
不可いけません、もう飲んでるんだもの。この上あおらして御覧なさい。また過日いつかのように、ちょいと盤台を預っとくんねえ、か何かで、」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なんじ元来一本槍に生れ付いているんだから仕方がない。スッカリ良い気持になって到る処にメートルを上げていたのが不可いけなかった。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
これは兄さんには内所だからその積りでいなくっては不可いけない。奥さんの事も宿題にするという約束だから、よく考えて返事をなさい。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
乙下人 はて、うぬがゆびめぬやうなやつ不可いけ料理人れうりにんでござります。それゆゑゆびめぬやつ採用とりあげませぬ。
「あゝ鳥渡々々ちよつと/\。」手品師が呼びとめた。「しなびたのは不可いけませんぜ。あなた方のやうに水つぽくて一切りでさくと行くんでなくちやあ。……」
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
頭の具合の悪くなった叔父様に、電気をいじらせて置いたのは、却て不可いけないことでしたわね、なぜもっと早く病院のこと考えつかなかったかしら……
白金神経の少女 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
これは僕の實見した話だが、或る女教師は、「可笑をかしい事があつても人の前へ出た時は笑つちや不可いけません。」
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
死んでも構わないから彫ってくれと、斯う云うのです。源七も仕方がないから、まあ兎も角も念のためにその身体をあらためて見ると、なるほど不可いけない。
三浦老人昔話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「牛はう御座んすが、豚はやかましくって不可いけません。危いことなぞは有りませんが、騒ぐもんですから——」
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「ほら、灰が落ちる、頭が?」ポマードで固めた頭へ一寸触ってみて、「馬鹿だな、こんなのカモフラージュってんだよ、出来るだけ周囲に同化しなくちゃ不可いけないんだ」
歩む (新字新仮名) / 戸田豊子(著)