あらは)” の例文
旧字:
「やさし」は、恥かしいということで、「玉島のこの川上に家はあれど君をやさしみあらはさずありき」(巻五・八五四)にその例がある。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
丑松が胸の中に戦ふ懊悩あうなうを感ずれば感ずる程、余計に他界そとの自然は活々いき/\として、身にみるやうに思はるゝ。南の空には星一つあらはれた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
既に二十歳の作「ポオリイン」にあらはれ、「ピパ」の歌、「神、そらにしろしめす、すべて世は事も無し」といふ句に綜合そうごうせられたれど
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
知らず、その老女ろうによは何者、狂か、あらざるか、合力ごうりよくか、物売か、はたあるじ知人しりびとか、正体のあらはるべき時はかかるうちにも一分時毎にちかづくなりき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
自分は平生へいぜい誰でも顔の中に其人の生涯しやうがいあらはれて見えると信じて居る一人で、悲惨な歴史の織り込まれた顔を見る程心を動かす事は無いのであるが
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
俳諧寺一茶いつさは暫く問はず、天明以後の俳人たちの仕事は殆ど誰にも顧みられてゐない。僕はかう云ふ俳人たちの仕事も次第にあらはれて来ることと思つてゐる。
おもて入口いりくちには焦茶地こげちやぢ白抜しろぬきで「せじや」と仮名かなあらは山形やまがたに口といふ字がしるしついところ主人あるじはたらきで、世辞せじあきなふのだから主人あるじ莞爾にこやかな顔、番頭ばんとうあいくるしく
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
し此地に移住いじゆうし来るものあらんか、湯の小屋の温泉おんせんまたあらはれて繁栄はんえいおもむくや必せり。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
あらはれたり一個の紳士、真黒羅紗まつくろらしやの間より雪とかゞやき出でたる白シヤツに赤黒の顔のうつりも怪しく、満面に汗ばみて、のどのあたり赤き擦傷すりきずけだしカラアと咽の合戦の結果)一きは目だち
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
東大寺は常在不滅じやうざいふめつ実報寂光じつぱうじやくくわうの生身の御仏とおぼしめしなずらへて、聖武皇帝、てづかみづかみがたて給ひし金銅十六丈の廬舎那仏るしやなぶつ烏瑟うしつ高くあらはれて、半天の雲にかくれ、白毫びやくがう新にをがまれ給ひし満月の尊容も
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
行先ゆくてにあたる村落も形をあらはして、草葺くさぶきの屋根からは煙の立ち登る光景さまも見えた。霧の眺めは、今、おもしろく晴れて行くのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
彼はにはかに心着きて履物はきものあらため来んとて起ちけるに、いで起てる満枝の庭前にはさきの縁に出づると見れば、傱々つかつかと行きて子亭はなれの入口にあらはれたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
漆紋うるしもん麻裃あさがみしもに朱鞘の長刀なががたなを横たへて、朝夕「あんちおきや」の帝の御所を守護する役者の身となつたが、さいはひここに功名手がらをあらはさうず時節が到来したと申すは
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
此時ゆくりなく自分の眼前に、その沈黙した意味深い一座の光景が電光いなづまの如くあらはれて消えた。続いて夜の光景、暁の光景、ことに、それと聞いて飛んで来た娘つ子の驚愕おどろき
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
あらはろまで」は、「顕るまで」のなまりで、こういう訛もまた一首の鑑賞に関係あらしめている。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
見れば木立も枯れ/″\、細く長く垂れ下る枝と枝とは左右に込合つて、思ひ/\に延びて、いかにも初冬の風趣おもむきあらはして居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
はや足音は次の間にきたりぬ。母はあわてて出迎にてば、一足遅れに紙門ふすまは外より開れてあるじ直行の高く幅たきからだ岸然のつそりとお峯の肩越かたごしあらはれぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
伊香保いかほろのやさかのゐでぬじあらはろまでもさをさてば 〔巻十四・三四一四〕 東歌
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
Ars longa, vita brevis を訳して、芸術は長く人生は短しと云ふはい。が、世俗がこの句を使ふのを見ると、人亡べどもわざあらはると云ふ意味に使つてゐる。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その「多情多恨」の如き、「伽羅枕からまくら」の如き、「二人女房」の如き、今日なほ之を翻読するも宛然えんぜんたる一朶いちだ鼈甲牡丹べつかうぼたん、光彩更に磨滅すべからざるが如し。人亡んで業あらはるとは誠にこの人のいひなるかな。