頃日このごろ)” の例文
貴娘あなた知らんのならお聞きなさい。頃日このごろの事ですが、今も云った、坂田礼之進氏が、両国行の電車で、百円ばかり攫徒すりられたです。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頃日このごろ三輪善兵衛と云ふ人が書籍館を起して、わたくしに古医書を寄附せむことを求めた。わたくしは旧蔵の書籍を出して整理した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
頃日このごろ亡くなつたベルジツク文壇の耆宿きしゆくカミイユ・ルモンニエエの小説を訳したのは、これが始ではあるまいか。或は此前にあるかも知れぬが、己は見ない。
私は頃日このごろ馬琴ばきん翁の日記を読返して見て感じたのは、あの文人が八十歳にもなり、盲目にもなっていながら、著作を捨てなかった一生が、女史のそれと同様に
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
フロルスは頃日このごろ逃亡した奴隷が監獄の中に入れられてゐはせぬか、捜して見たいと要求したのである。
頃日このごろ拿破里ナポリに往きて、客に題をたまはりて、即座に歌作りてうたはんと志したり。斯く語るついでに、われはこたび身を以て逃れたる事のもとさへ、包みかくさずして告げぬ。
武家ぶけに在ては國家の柱石ちうせき商家しやうかで申さば白鼠しろねずみなる番頭久八は頃日このごろ千太郎の容子ようす不審いぶかししと心意こゝろ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
頃日このごろ米国禁鉄となってから、一粒の鉄砂も麁末そまつにならぬような話を承る、ふとした事から多大の国益が拡がった例多ければ、妓家の黒壁が邦家の慶事をひらかぬにも限らぬと存じ
○さるほどにをつとさきに立つまあとにしたがひゆく。をつとつまにいふ、今日けふ頃日このごろ日和ひより也、よくこそおもひたちたれ。今日けふ夫婦ふうふまごをつれてきたるべしとはおやたちはしられ玉ふまじ。
... かれ頃日このごろはわれなずみて、いと忠実まめやかかしずけば、そを無残に殺さんこと、情も知らぬ無神狗やまいぬなら知らず、かりにも義を知るわがともがらの、すに忍びぬ処ならずや」「まことに御身がいふ如く、 ...
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
くわいは——會費くわいひ九圓九十九錢きうゑんきうじふきうせんなるに起因きいんする。震災後しんさいご多年たねん中絶ちうぜつしてたのが、頃日このごろ區劃整理くくわくせいりおよばず、工事こうじなしに復興ふくこうした。
九九九会小記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これは頃日このごろ公にせられた大日本古文書に見えてゐる米使アダムスとの交渉で、武鑑に政義の名を再び浦賀奉行として記してゐる間の事である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
併し此瑣事さじが僕の心の安寧と均衡とを奪ふのである。いやしくも威厳を保つて行かうとする人間の棄て難い安寧と均衡とが奪はれるのである。頃日このごろ僕は一人の卑しい男に邂逅かいこうした。
頭痛が治った意趣返しをやらにゃならぬとしからぬ考えを起し、蛇を尋ねておかげで己の病は治ったが頃日このごろ忘れいた蛇の頭痛療法をおもい出したと語り、蛇に懇請されてそれなら教えよう
なし候儀無念むねん止時やむときなく右人殺しの本人搜索たづね出し夫の惡名相雪あひそゝぎ申度心懸居がけをり候處私しもと住居麹町に於て懇意に仕つり候忠兵衞と申者頃日このごろ不※ふと私し方へまかこし種々しゆ/″\話しの手續きより忠兵衞申きかくれ候には先年札の辻の人殺しは村井長庵こそあやしけれと口走くちばしり候まゝなほ實情じつじやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此書の下巻は未刊行のものださうで、頃日このごろ箕山さんは蘭軒の伝を稿本中より抄出してわたくしに寄示きししてくれたのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「別に、一大事に関して早瀬は父様のとこへ、頃日このごろに参った事はないですかね。あるいは何か貴娘、聞いた事はありませんか。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ようやく頃日このごろ『皇大神宮参詣順路図会』をひもとくと、二見浦ふたみのうらの東神前みさきの東北海中に七島あり阿波良岐あはらき島という、また毛无けなし島とてまるで巌で草木なき島あり、合せて八島あいつらなる、『内宮年中行事記』に
頃日このごろ高橋邦太郎さんに聞けば、文士芥川龍之介さんは香以の親戚だそうである。もし芥川氏の手にってこの稿のあやまりただすことを得ば幸であろう。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
頃日このごろく——當時たうじ唯一ゆいつ交通機關かうつうきくわん江戸えど三度さんどとなへた加賀藩かがはん飛脚ひきやく規定さだめは、高岡たかをか富山とやまとまり親不知おやしらず五智ごち高田たかだ長野ながの碓氷峠うすひたうげえて、松井田まつゐだ高崎たかさき江戸えど板橋いたばしまで下街道しもかいだう
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これまでもストリンドベルクは本物の気違になりはすまいかと云われたことが度々あるが、頃日このごろまた少し怪しくなり掛かっている。いずれも危険である。
沈黙の塔 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
神戸にある知友、西本氏、頃日このごろ摂津国摩耶山せっつのくにまやさんの絵葉書を送らる、その音信おとずれ
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは五百いおが抽斎に聞き、保さんが五百に聞いた所を、頃日このごろ保さんがわたくしのために筆にのぼせたのである。わたくしは今みだりに潤削を施すことなしに、これをここに収めようと思う。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
珍しく朝凪あさなぎして、そのままおだやかに一日暮れて……空はどんよりと曇ったが、底に雨気あまげを持ったのさえ、頃日このごろの埃には、ものやわらかにながめられる……じとじととした雲一面、星はなけれど宵月の
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頃日このごろ僕の書く物の総ては、神聖なる評論壇が、「上手な落語のようだ」と云う紋切形の一言でめてくれることになっているが、し今度も同じマンション・オノレエルを頂戴したら
心中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
落度があればそれッきり、まことに頃日このごろの様子では、内々じゃ持扱もてあつかって、私の落度を捜しているかも知れませんもの。大一座ででもあるなら知らず、差向いでは、串戯じょうだんも思切っては言えませんわ。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
頃日このごろ珍書刊行会が『後昔物語のちはむかしものがたり』を刊したのを見るに、抽斎の奥書おくがきがある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
父さんはね、それにね、頃日このごろは、家族主義の事に就いて、ちっと纏まった著述をするんだって、母屋に閉籠とじこもって、時々は、何よ、一日蔵の中に入りきりの事があってよ。蔵には書物が一杯ですから。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「勿論かさねまして、頃日このごろに。——では、失礼。」
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)