鞍馬くらま)” の例文
京都では鞍馬くらま毘沙門様びしゃもんさまへ参る路に、今一つ野中村の毘沙門堂があって、もとはこれを福惜しみの毘沙門などといっておりました。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
勝手かってなりくつをかんがえて、ぴょいと、木へ飛びつくと、これはまたあざやかなもの。なにしろ、本場ほんば鞍馬くらまの山できたえた木のぼり。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四代まえの掃部介信剛のとき、小田原を去ってこの地に土着し、(農耕のかたわら)家に伝わる鞍馬くらま古流の小太刀を教えて来た。
月の松山 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
懐中から小菊こきくを取出して鮮血のりを拭い、鞘に納め、おりや提灯を投げて、エーイと鞍馬くらまうたいをうたいながら悠々ゆう/\と割下水へ帰った。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さかの上の朝臣あそんのはからいで、鞍馬くらまの夜叉王のことは、すっかり顔長の長彦にまかせられ、京の大臣の馬は、顔丸の丸彦がもらいうけました。
長彦と丸彦 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
むこうの土手では摘草の一家族が水ぎわまでも摘み下りている。鞍馬くらまわかれ路の堤の辺には日傘をさした人影も増えている。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あの、小さい時、鞍馬くらま修験者しゅげんじゃが参りまして、わたくしの人相をつくづく眺めながら、このように申したのでござります。
応挙由って矢背に至り臥猪を写生し、家に帰りて清画しおわった処へ鞍馬くらまより老人来る。汝野猪の臥したるを見たるかと問うにつねに見ると答う。
たださえ京はさびしい所である。原に真葛まくず、川に加茂かも、山に比叡ひえ愛宕あたご鞍馬くらま、ことごとく昔のままの原と川と山である。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
前の方に逢坂おうさか比叡ひえい、左に愛宕あたご鞍馬くらまをのぞんだ生絹は、何年か前にいた京の美しい景色を胸によみがえらせた。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
通らでも事は済めども言はば近道の土手々前どてでまへに、仮初かりそめ格子門かうしもん、のぞけば鞍馬くらま石燈籠いしどうろはぎ袖垣そでがきしをらしう見えて、椽先ゑんさきに巻きたるすだれのさまもなつかしう
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もし重盛しげもり命乞いのちごいをしなかったら、女や幼い者さえものがれることができなかったでしょう。奥方は若君とひめ君とをとものうて鞍馬くらまの奥に身をおかくしなされました。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
凌ぎつゝ勢ひをつけてくだる下りてやゝ麓近くなりしとき篁村小石につまづきはづみを打て三四間けし飛びしが鞍馬くらま育ちの御曹子を只散髮ざんぎりにした丈の拙者なればドツコイと傘を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
寿永二年七月二十四日夜半、後白河法皇は按察使大納言資賢あぜちだいなごんすけかたの子息右馬頭資時うまのかみすけときただ一人を供にして、折からの闇にまぎれ人目を忍んで、御所を出た。行先は鞍馬くらまの奥である。
ここは、左大臣藤原道世ふじわらのみちよ様のおやしきでございます。実は、昨日さくじつ道世様が、鞍馬くらまのお寺へ御参詣ごさんけいの途中、お車を引く牛が、あばれ出して、あなたにそんな大傷おおきずを負わせたのでした。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
昭和三年四月二十三日 泊雲、泊月、王城、比古、三千女と共に鞍馬くらま貴船きぶねに遊ぶ。
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
部屋部屋の境いのふすまを外し、こうこうとした広間とし、燈火ともしびのあかるくともしつらねた、その部屋の正面に毛皮を敷き、京都五条から連れて来たところの、白拍子しらびょうし鞍馬くらまを膝へ引きよせ
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ちょっと鞍馬くらまへかえって見ましたところが、お師匠ししょうさまの叱言こごとが壁にはってあったので、あわててまたいもどってきたんです」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鞍馬くらまの夜叉王は、鞍馬山のおくにいるぞくのかしらでした。堅田かただ観音様かんのんさまの像のことをきいて、悪いことをたくらみました。
長彦と丸彦 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
その判官殿と申さるるは、平治の合戦に負け、父を討たれた後みなし子となり、やがて鞍馬くらま寺の稚児ちご、後には金商人かねあきんどの後にくっついて、奥州まで食糧を背負うていった小忰こせがれのことであろう
信如しんによ何時いつ田町たまちかよときとほらでもことめどもはゞ近道ちかみち土手々前どてゝまへに、假初かりそめ格子門かうしもん、のぞけば鞍馬くらま石燈籠いしどうろはぎ袖垣そでがきしをらしうえて、縁先ゑんさききたるすだれのさまもなつかしう
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
また川童に角力をいどまれるということは、言いかえればその者が不思議を感じやすく、神秘の前に無我になりやすい性質を具えていたことを意味し、一方には鞍馬くらま奥僧正谷おくそうしょうたにの貴公子のように
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「ははあ、牛若は鞍馬くらまへ御帰館ですか」
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
鞍馬くらまときくさえ、すぐ、天狗てんぐというような怪奇が聯想れんそうされるところへ、この話をきいた小文治こぶんじは、もっと深くその老人が知りたくなった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、鞍馬くらまの夜叉王とその手下は、堅田の兄弟の所につなぎとめられました。
長彦と丸彦 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
谷川のすその方には鶯子啼ささなきが聞え、樹々はほのあかい芽を点じてはいるが、ふり仰ぐと、鞍馬くらまの奥の峰の肩にも、四明ヶ岳のふかいひだにも、まだ残雪が白かった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昌俊は、追われて、鞍馬くらまへ逃げこんだが、鞍馬の山僧に捕えられて、二十六日、都へ曳かれた。すぐ首斬られて、その首は、六条河原の秋風に黒ずむまでさらされていた。
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「これを、鞍馬くらまの遮那王様へ、さし上げてくれいと、おん奥の方のお伝えでござる」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「思いだした。……おぬし、鞍馬くらま遮那王しゃなおう様へ、ひそかに、近づいているな」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)