そそ)” の例文
第十五条 うらみを構へあだを報ずるは、野蛮の陋習にして卑劣の行為なり。恥辱をそそぎ名誉を全うするには、すべからく公明の手段をえらむべし。
修身要領 (新字旧仮名) / 福沢諭吉慶應義塾(著)
「よしっ……きっとあなたの汚名は遠からずそそいでみせる。だが、相手の武蔵は今、何処にいるのか、その居処いどころはおわかりですか」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長い間の冤をそそぐのは誰であろうかと想像してみると、やはりそれは花井前検事総長と清原現検事総長の二人であろうと考えた。
なによりも名をしむ武士にとって、これはいつまでも耐えられる問題ではない、折さえあったら華ばなしくたたかって汚名をそそごうと
死処 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一八〇六年において恥ずべき敗北を取りし後、ドイツ人はその屈辱をそそがんがため国民的精神と言える造兵場につきて新兵器を捜索したり。
近時政論考 (新字新仮名) / 陸羯南(著)
「宜いとも。お互が当り前の若旦那じゃないということを如実に見せてやる。僕は妻に対してえんそそぐって気もあるんだ」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「俺を斬る気か、面白い、斬られよう。俺を斬って、貴公の汚名がそそがれるなら、半歳あまり厄介になったお礼に、この首にのしをつけて進ぜよう」
斯うせねば到底秀子の汚名をそそぎ、秀子に其の身相当の幸福な生涯を送らせることは出来ない、斯うするのが秀子に対する真性の愛情と云うものだ。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
どこまでも習慣的制裁を墨守して娘の恥をそそぐためには、ともかくも公けに結婚させてしまわなければならないと思い乱れる父親にも同情があります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その外幾人となく取てかかる者この有様なれば、ついには大関なにがし自ら大勢の恥辱ちじょくそそがんとのさりのさりと歩み出づ。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そうなれば、お父さんの受けたはじも立派にそそぐことが出来るというものだ……しかしね、文麻呂。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
あの『ヘルキュレス』さえやっつければ、われわれの恥辱もそれでそそがれようというものだから
ツイその数日前の或る新聞にも、「開国始末」でえんそそがれた井伊直弼いいなおすけの亡霊がお礼心に沼南夫人の孤閨こけい無聊ぶりょうを慰めに夜な夜な通うというようなくすぐったい記事が載っていた。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「お好奇心ものずきの結果と存じまする」「それが第一の考え違いだ。決して好奇心の結果ではない。諏訪家の恥辱をそそぎたいためよ」「これはこれは不思議なごじょう、私胸に落ちませぬ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ああ日本に義士なき、ああこの国辱をそそがんと欲するの烈士、三千七百万中一人いちにんも非ざる乎、条約改正なき、またむべなるかなと、内を思い、ほかを想うて、悲哀転輾てんてん懊悩おうのうえず。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
今までは今までとして、以来これより断然ふつつりと行ひを改ため、其方が名をもそそぎ我が心をも安めくれよ、兎角とかくに其方が仇は彼の人なれば、家を思ひ伯母を思はゞ、桂木ともおぼすな一郎とも思すな
雪の日 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それがために、非常に卑怯な行為があったように言われて、殆んど社会から葬られかけた名士などもありましたが、日が経つにつれて真相が判明して、それらの人々の汚名はそそがれました。
運命のSOS (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
腹かき切ってもこの恥はそそがなければならぬ。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
脊令原せきれいげん寒うして同じくゑんそそ
それでも、犬死でないと思うか。真に、師の冤罪えんざいそそごうと思うならば、まずおまえ自身から身をそそいで見せねばなるまい。——それを
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仔細しさいを聞いた老職たちは、主君の恥辱をそそぐ大切な事柄なので、すぐに八方へ人をり、特に大きなのを集めたうえ更にその中からすぐって十本
蕗問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「お嬢様は、大事な大事な仕事を持っていらっしゃるじゃございませんか。万一の事があったら、広い世界に、誰がお父様——立花博士の恐ろしい汚名をそそぐでしょう」
水中の宮殿 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
私の密旨の一つは誠の罪人を探し出し天の如き裁判を彼に加えて一身の無実をそそぐに在りましたが、今は其の罪人が有りました、彼に相当した通りに天の裁判が降りました、彼は此の高輪田長三です
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
なぜ一日も早く、平家を掃滅そうめつし給わぬか。平家をうち亡ぼして、父義朝をはじめ亡き源家の人々のうらみをそそいで下さらぬか。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
でも、五千両の御用金を奪い還さない限り、敵を討ってもほまれにはならず、父上鉄太郎様の汚名をそそがれません。お嬢さんが今日まで我慢していたのはみんなそのためでした
……御先祖山浦常陸介ひたちのすけ様以来の家名を、踏みにじられて、それをそそがいでこうかと、健気けなげにも、念じているのじゃ
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
取立ての金を三十両ばかり持っているはずですから、フト魔がさして持逃げしたのではあるまいかと疑われましたが、あくる朝竜閑橋りゅうかんばしの側から定吉の死骸が上がって、その汚名だけはそそがれました。
お通に何倍もまさるとて劣らぬほどなよい嫁をむかえ、村の者へも晴れがましゅう、きょうの名折れをそそがにゃならぬ
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恥をそそぐことも出来ない苦しい立場に置かれてしまったのでした。
「もういい、もういい! おまえの冤罪むじつは、きっと、この父がそそいでやる。気をしッかりせい、心をつよく持て」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうかこらえて下さい。その代りに、他日、この功を第一の徳とし、諸人にむかって、必ずこれに百倍する叙勲じょくんを以て貴下のはじそそぐであろうと約されておられる
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旧怨きゅうえんを捨て、以来不遇にあると聞いた旧友平田賛五郎に、今度の通し矢の機会に、ぜひ共汚名をそそいでもらいたい——そして以前の藩地へ戻ってもらいたい——と
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、逃げるといったのは、わしが悪い。えんそそぐのだ、潔白を立てるのだ。——それには」
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こういう一時の史家の流行説は、戦国武人のために、そのえんをここにそそいでおかねばならない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとえ忠興の側を別れ去ろうとも、妻ならば妻の道を、母ならば母の道を、もっと強く生きぬいて、しかも後に、大逆人の娘という汚名をも、そそいでみようとする気もないのか
しかし、師弟の情誼じょうぎを口にし、武道のえんそそごうという考えなれば、なぜ、伝七郎殿の如く、また清十郎殿の如く、堂々と、この武蔵へすじみち立てて正当な試合に及ばれぬか
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その死を顕彰けんしょうして汚名をそそごうとする銅像の建設運動が始まっているほどだった。
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
親の名折れをそそいでくれようとは——考えても考えられなくなるからであった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この時ここにそそがんものと——必死にかかって、またたくまに、これをおとした。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とすべての者の血脈を断って怨みをそそごうとくわだてたものである。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
序戦じょせんはじそそがねば、生きて甲州の人々にまみえるつらはない」
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「森、青池、道家殿などの怨みをそそがずにこうか」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『うム。秋には、この無念を、そそがずにはかんよ』
董荼奴とうとぬか。よかろう。さきの辱をそそいでこいよ」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(この不覚をそそぐには、御舎弟よりほかにない)
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兄の名は、そそがれた。——これでいい!
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そそがんための御決心とみえる
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)