金物かなもの)” の例文
今時、木で作られる漏斗は珍らしいのでありますが、この方が酒や醤油しょうゆの味を変えません。それ故正直な酒屋は金物かなものみます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
遊客が金物かなものの嗽茶碗で口を滌いでゐる景色などは宛然柳浪が「今戸心中」もしくは盲小せんが「とんちき」中の情景であつた。
異版 浅草灯籠 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
前陳の各種を製作するにつき、これに附属する飾り金物かなもの、塗り、金箔きんぱく消粉けしこな彩色さいしき等の善悪よしあしを見分ける鑑識も必要であります。
ヨチヨチ駕籠のそばへ歩いてきて、金色きんいろ金物かなもののみごとなお駕籠へ、手を触れてみようとしていた三つばかりの男の子が、わっと泣きだす。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
わたしは、わかい牝牛めうし腎臓脂肪じんぞうしぼうへチーズを交ぜ、それを陶器皿とうきざらに入れてとろ火でた。金物かなものにおいをけるために、中のほねを小刀がわりに使った。
コンクリートの表面にうちつけてある梯子はしごがわりの金物かなものに、手足をかけて、グングン煙突をのぼりはじめました。
青銅の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
本妻の実家は資産のある金物かなもの問屋の事とて兼太郎の身持にあきれ果て子供を引取って養育する代り本妻お静の籍を抜きやがて他へ再縁させたという話である。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
鋸鑢に驚く金物かなもの細工をするにやすりは第一の道具で、れも手製に作って、その製作には随分苦心して居た所が、そののち年経としへて私が江戸に来てず大に驚いたことがある
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
にがっぽく嘲笑あざわらい、じッと、鷲のかげを見つめていたが、やがて、右手に持っていた金無垢肉彫きんむくにくぼりのたか黄金板おうごんばん——それはいまの塔内とうないから引ッぺがしてきた厨子ずし金物かなもの
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
マコウレエの談話はなしによると、英吉利のある鍛冶屋は、泥棒に頼まれて金物かなもの贓品ざうひんを火に溶かす折には、手で触つては汚れるからといつて、わざと長火箸を使つたといふ事だ。
庇についた紫の流蘇ふさが、煽られたやうにさつと靡くと、その下から濛々と夜目にも白い煙が渦を卷いて、或はすだれ、或は袖、或は棟の金物かなものが、一時に碎けて飛んだかと思ふ程
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
たぶん戦災せんさいのなごりであろうか、なにかのこわれた金物かなものが、みちまっているのです。
考えこじき (新字新仮名) / 小川未明(著)
棟の金物かなものの薄くきらめくのも見えるほどになった時に、もう待ち切れなくなった千枝太郎は木のうしろからとあらわれて、覚束ない月の光りでその車の正体を見届けようとすると
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私の父といふは三つのとしえんから落て片足あやしき風になりたれば人中に立まじるも嫌やとて居職いしよくかざり金物かなものをこしらへましたれど、気位たかくて人愛じんあいのなければ贔負ひいきにしてくれる人もなく
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
士「成程、大きさも飛んだ良いが、何か金物かなものがあるか」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
きあって、金物かなものをからから云わせています。
そこに印呪をむすぶ金物かなものの像となつた。
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
羽後の金物かなものでは蔵戸の錠前や五徳ごとくの類などに見るべきものがあって、秋田、大館、花輪などの鍛冶屋で作りましたが、流行おくれの型となりました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ボルトというのは、鉄の棒のさきにねじがきってあって、そこへ、ナットという六角形の金物かなものをはめて、スパナ(ねじまわし)でしめつけるようになっているものです。
サーカスの怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ひさしについた紫の流蘇ふさが、煽られたやうにさつと靡くと、その下から濛々と夜目にも白い煙が渦を巻いて、或はすだれ、或は袖、或はむね金物かなものが、一時に砕けて飛んだかと思ふ程
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さびしいいなかながら、えき付近ふきんまちらしくなっていました。たばこをみせがあり、金物かなものをならべたみせがあり、また青物あおものや、荒物あらものなどをみせなどが、ぼつり、ぼつりとられました。
しらかばの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その機智きち感嘆かんたんの声をあげたが瓔珞のかざ座金ざがねがくさっていたとみえて、龍太郎の体がつりさがるとともに、金鈴青銅きんれいせいどう金物かなものといっしょにかれの五体は、ドーンと大地におちてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしちゝといふは三つのとしゑんからおち片足かたあしあやしきふうになりたれば人中ひとなかたちまじるもやとて居職いしよくかざり金物かなものをこしらへましたれど、氣位きぐらいたかくて人愛じんあいのなければ贔負ひいきにしてくれるひともなく
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
暗いなかでお神輿の金物かなものがからりからりと鳴る音と、それを担いで行く白丁はくちょうの足音がしとしとと聞こえるばかり。お神輿は上の町のお旅所たびしょへ送られて、暗闇のなかで配膳の式があるのだそうで……。
半七捕物帳:68 二人女房 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
刀のぐことは知らぬが、さやを塗りつかを巻き、その外、金物かなものの細工は田舎ながらドウヤラコウヤラ形だけは出来る。今でも私のぬっ虫喰塗むしくいぬりの脇差わきざしの鞘が宅に一本あるが、随分不器用なものです。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
よくしらべてみると、そのぼっちは、コンクリート色にぬった金物かなものであることがわかりました。
赤いカブトムシ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
平常吾々が生活に用いるものをすべて訪ねたいと思います。焼物やきものもあり、染物そめものもあり、織物おりものもあり、金物かなものもあり、塗物ぬりものもあり、また木や竹や革や紙の細工などもあるでしょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
彼女はちらりと牧野の顔へ、侮蔑ぶべつの眼の色を送りながら、静に帯止めの金物かなものを合せた。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
高い車蓋やかたにのつしりと暗を抑へて、牛はつけず黒いながえを斜にしぢへかけながら、金物かなもの黄金きんを星のやうに、ちらちら光らせてゐるのを眺めますと、春とは云ふものゝ何となく肌寒い氣が致します。
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
高い車蓋やかたにのつしりとやみを抑へて、牛はつけず黒いながえを斜にしぢへかけながら、金物かなもの黄金きんを星のやうに、ちらちら光らせてゐるのを眺めますと、春とは云ふものゝ何となく肌寒い気が致します。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)