軍鶏しゃも)” の例文
旧字:軍鷄
ある日見知らぬかみさんが来て、此方こちらの犬に食われましたと云って、汚ない風呂敷から血だらけの軍鶏しゃもの頭と足を二本出して見せた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「親方ンとこの、いえ親方ったって私の伯父貴なんだけれどね、そこの煤掃き手伝いにゆくとあとで軍鶏しゃもで一杯飲ましてくれるんです」
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
取ると邪魔になるのは土蔵中に押し込められている年寄りだ。公儀の届が済めば三日たたないうちに、軍鶏しゃものように締められるよ
浅草の鳥亀へ軍鶏しゃもや鶏を食いに行って、女房のお六と関係が出来て、結局ふたりが相談の上で邪魔になる亭主を殺すことになったんです。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
つい近頃の傷であることは、黒くかたまった血の色がまだこびりついているのでも判った。それは白木の軍鶏しゃもにつつかれた傷に違いなかった。
黄色い日日 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
軍鶏しゃもの赤毛をおつむにのせて、萌黄もえぎ木綿のおべべをきせたお獅子ししの面を、パックリと背中へ引っくり返して、ほお歯の日和ひより下駄をカラカラ鳴らし
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
矮鶏はちんまりして可愛らしい形……木彫りとして相当味が出そうに思われる。それに、もう一つ軍鶏しゃもも面白いと思った。
「若い軍鶏しゃものようだったな、とさかを振り立て、羽毛を逆立てて、——いま考えるとまさに若い軍鶏そのものだったよ」
燕(つばくろ) (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「何、貴様のずっとはずっと見当が違うわい。そのいわゆるずっとというのは軍鶏しゃもなんじゃろ、しからずんばうなぎか。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
講習生の人々は、何事が起きたのかと、ちょうど、軍鶏しゃもが自分の卵ほどの蝸牛かたつむりを投げ与えられた時のように、首をのばしかしげて、息を凝らして見つめました。
手術 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
さ「あいたた/\恐れ入りました、上げますよ/\、上げますから堪忍して下さい、娘の貰引もらいひきのどを締る奴がありますか、軍鶏しゃもじゃアあるまいし、上げますよ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
必要な喧嘩ならどうしてもしなければならないし、又、気を強く持つことは今の君には絶対必要なのだが、しかし君は軍鶏しゃもではなくて、俺のオカミさんなんだからな。
明け方、心配の余り、町の田村まで迎いに行こうとした慎作は、裏の田で、軍鶏しゃもの様に眼を薄黒く窪ませた父が祈る様に瞼を閉じて、ギイギイ水車を踏んで居るのを見た。
十姉妹 (新字新仮名) / 山本勝治(著)
就中世子の側に仕えているものは、一層謹慎しているから、外へ出て酒を飲むといっても、その頃から流行出した、軍鶏しゃもとか家鴨あひるとかの鍋焼き店へ行く位のものであった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
それから両国りょうごくへ来て、暑いのに軍鶏しゃもを食いました。Kはそのいきおいで小石川こいしかわまで歩いて帰ろうというのです。体力からいえばKよりも私の方が強いのですから、私はすぐ応じました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
第五は冷製混肉および冷製饂飩粉入うどんこいり鳥肉(パテ ド ジビィ、ガランチン ド ワライ)とて混肉は軍鶏しゃもの肉へ豚の肉を砕きて詰めしもの。饂飩粉入鳥肉は雉子きじの肉を用いたるなり。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
七八年前に軍鶏しゃもの群を描いてパスしたと言っているが、これとても当にはならない。
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
それで私は現在中村屋の軍鶏しゃもの肥育飼いと牛乳について少し話をしておきます。
神田鍛冶町の今金いまきん鱈腹たらふく軍鶏しゃもを食ったのが脱獄後最初の馳走であった。
とかいう街の人気男の木戸口でわめく客呼びの声も、私たちにはなつかしい思い出の一つになっているが、この界隈かいわいには飲み屋、蕎麦そば屋、天ぷら屋、軍鶏しゃも料理屋、蒲焼かばやき、お汁粉しるこ、焼芋、すし、野猪のじし
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私評して曰く「毛のぬけた軍鶏しゃもに近い。」本当です。
軍鶏しゃもを締め殺すような声。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
考えつつ、黙然もくねんと、藪道を掻き分けてゆくと、コー、コー、コーコーッ、騒がしい軍鶏しゃもの声と、羽搏はばたきが近くに聞こえた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
氏は福岡県博多はかたの人で、同地よりの出品でした(米原氏も当時は安来に帰郷していて其所そこから軍鶏しゃもの彫刻を出品した)。
もしこの鶏が負けたら、もう軍鶏しゃもを育てるのも止めにするつもりだ、と白木は独白のように言いながら顔を彼にむけた。
黄色い日日 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
ねえ、そうした電話が筒抜けに耳へ響くのは、事は違うが、鳥屋の二階で、軍鶏しゃもの鳴声を聞くのとている。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つまり軍鶏しゃも蹴合けあいなどと同じことで、一種の賭博に相違ありませんが、軍鶏はおもに下等の人間の行なうことで、蜘蛛はまず上品のほうになっていたのだそうでございます。
蜘蛛の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かみしもを着て、あちらへ行ったり、こちらへ来たり、かごの中の軍鶏しゃもみたいに歩いてばかりいる
尤もらしい顔色がんしょくをして居りますが、りますと山寺で人が来ませんから、箱膳の引出から鰺の塩焼や鰹の刺身が皿に載って其処そこへ出掛けて、その傍の所に軍鶏しゃもの切身があって
これではまるで喧嘩をしに来たようなものであるが、そこへ行くと迷亭はやはり迷亭でこの談判を面白そうに聞いている。鉄枴仙人てっかいせんにん軍鶏しゃも蹴合けあいを見るような顔をして平気で聞いている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大原は思案気味「そうさねー、美味いというよりもむしろやわらかくって綿のようだね。僕はかえって軍鶏しゃもの肉がこわくって美味いと思う」主人「イヤハヤそういう人にってはケーポンも泣くね。 ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
人、仇名して軍鶏しゃもと呼ばれ、その頃柳派では指折りの人気者だった。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
私はこれをさらに一歩進めて食用鶏として最も味の優れている軍鶏しゃもの一種とし、自分の手で飼育すれば完全なものが得られるのだという結論に達し、そこで初めて山梨県に飼育場を設けたのであった。
どれもこれも商売がら軍鶏しゃもに似て鋭い眼つきをしている。殺気はそれだけでも十分に庄次郎のきもを寒からしめた。庄次郎は、どうしようかと思った。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毎日ぶらぶら家にいて、日向ひなたぼっこしているか、鶏の世話などをしていた。白木が飼っているのは、軍鶏しゃもである。
黄色い日日 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
「チョッ、何たらこッてえ、せめて軍鶏しゃもでも居りゃ、そんな時ゃあ阿魔あま咽喉笛のどぶえつッつくのに、」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼はふところにまだ一両二歩のかねが残っているので、近所の軍鶏しゃも屋へ又はいった。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「五羽の軍鶏しゃもだって、人に知らせずにそっと始末するのはむずかしいでしょう」
よく殿方が腹は借物かりものだ良いたねおろす、只胤を取るためだと軍鶏しゃもじゃア有るまいし、胤を取るという事はありません造化機論ぞうかきろんを拝見しても解って居りますが、お秋の方は羽振が宜しいから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、人垣ひとがきをなして、何か、わいわい騒いでいる群れがある。ケケケケコッ……と軍鶏しゃものするどいなき声もする。
そうして女中がげるのを追懸けますのは、恐しい、犬でもそうな軍鶏しゃもなんで。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新宿の中村屋の印度いんど風の肥育軍鶏しゃものカレー・ライスなどは、その代表的なものでありましたが、悲しいことには私にとって、本郷通りの小さな西洋料理屋の水っぽいライス・カレーの方が
大「彼処あすこに浪人している時分一つ鍋で軍鶏しゃもつッつき合っていたんだからのう」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
けなげに、大刀を中段にかまえると、武蔵はいきなりその一人に向って、軍鶏しゃものような飛躍を見せた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(丸官は催促されて金子かね出いた覚えはない。へへん、)と云って、取巻の芸妓徒げいこてあいの顔をずらりと見渡すと、例のすごいので嘲笑あざわらって、軍鶏しゃもつけるように、ポンと起きたが、(寄越せ、)で
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其の座敷をそっと覗いて見ると、客の坊主がおすみの部屋着を着て、坊主頭に鉢巻をして柱に倚掛よっかゝって大胡坐おおあぐらをかいて、前にあるのアみんなまぐさ物、鯛の浜焼なぞを取寄せて、それに軍鶏しゃもなんぞくらって
が、すでに二人の格闘は、鶏冠とさかみ合った軍鶏しゃものようなもの。耳もかす風ではない。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ええ夢中でね、駆けつけたのは裏口にあるその軍鶏しゃもとやなんですよ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
軍鶏しゃもと軍鶏のように、羽がいを組み合わせたまま、地上に諸倒もろだおれとなっていた虎之助は、自分の具足の緒をつかんでいる死力のこぶしぎ放すと、ぶるぶるッと、血ぶるいしながら
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「御隠居さんなんざ歯に障りましょうね、柳屋のは軍鶏しゃもだから。」
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)