萌黄色もえぎいろ)” の例文
火入ひいれにべた、一せんがおさだまりの、あの、萌黄色もえぎいろ蚊遣香かやりかうほそけむりは、脈々みやく/\として、そして、そらくもとは反對はんたいはうなびく。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
女は年頃十八あまり、頭には黄金の烏帽子えぼしを冠ぶり腰に細身の太刀たちき、萌黄色もえぎいろ直垂ひたたれを着流した白拍子しらびょうしろうたけた姿である。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「すぐ来るがら。」と云いながら達二たつじは鳥を見ましたら、鳥はいつか、萌黄色もえぎいろ生菓子なまがしかわっていました。やっぱりゆめでした。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
例によって背に負うた萌黄色もえぎいろの風呂敷包だけを見ても、これぞ毎日の日課としてやって来る鶴寿堂の若い番頭であることは疑いありません。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
岸の柳がビロードのような嫩葉わかばを吐いたばかりの枝を一つ牡蠣船のほうに垂れていたが、その萌黄色もえぎいろの嫩葉に船の燈が映って情趣を添えていた。
牡蠣船 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
裏窓からその蚊帳を通して来る萌黄色もえぎいろの光に包まれたこの小さな部屋の光景が、何故か今でも目について忘れられない。
中村彝氏の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
萌黄色もえぎいろの「キッテル」といふ衣短く、黒きすねをあらはしたる童、身のたけきはめて低きが、おどろなす赤髪ふり乱して、手に持たるむち面白げに鳴らしぬ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
小娘こむすめ何時いつかもうわたくしまへせきかへつて、不相變あひかはらずひびだらけのほほ萌黄色もえぎいろ毛絲けいと襟卷えりまきうづめながら、おおきな風呂敷包ふろしきづつみをかかへたに、しつかりと三とう切符ぎつぷにぎつてゐる。……
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
青い萌黄色もえぎいろの月ののお月さまをとびこえるめうしのダンスや、あかい胸のこまどりが死んで白嘴しらはしがらすがお経をよむのや、王さまの前のパイのお皿からうたいだす二十四匹の黒つぐみや
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
春の野の萌黄色もえぎいろの襲は月の下では、ひときわ、柔らかいさわりを見せていた。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
こゝに渋くっていた庭の林泉に何やら活気を帯びた萌黄色もえぎいろが覗きかけ
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
重次郎さんの扮装なりてえのはまるで角兵衛獅子でございますね、白の着物に赤い袴で萌黄色もえぎいろのきれの附いている物を頭部あたまかぶって、あれで獅子が附いてれば角兵衛獅子だが、あれは蛙だから重次郎蛙です
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
真田幸村さなだゆきむらに対しても、決して粗略には存じません。萌黄色もえぎいろの海のような、音に聞いた淀川が、大阪を真二まっぷたつに分けたように悠揚ゆっくり流れる。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
柿色の顔と萌黄色もえぎいろの衣装の配合も特殊な感じを与える。頭に冠った鳥冠とりかぶとの額に、前立まえだてのように着けた鳥の頭部のようなものも不思議な感じを高めた。
雑記(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
萌黄色もえぎいろの「キッテル」という衣短く、黒きすねをあらわしたる童、身のたけきわめて低きが、おどろなす赤髪ふり乱して、手に持ちたるむちおもしろげに鳴らしぬ。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それはイヤなおばさんの男妾おとこめかけとして知られた浅吉さんの生れかわりではないか——誰も驚かされるほどよく似た若い番頭風の男、萌黄色もえぎいろの箱風呂敷を手に提げて、もう縁を上って
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかも垢じみた萌黄色もえぎいろの毛糸の襟巻がだらりと垂れ下つた膝の上には、大きな風呂敷包みがあつた。その又包みを抱いた霜焼けの手の中には、三等の赤切符が大事さうにしつかり握られてゐた。
蜜柑 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
案内者が萌黄色もえぎいろの背広を着た英国人らしいのに説明していました。萌黄の背広に萌黄の柔らかい帽子を着たこういう男にたいていな所で出くわすのは不思議なくらいです。
先生への通信 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
萌黄色もえぎいろに長くなびいて、房々とかさなって、その茂ったのが底まで澄んで、透通って、やわらかな細い葉に
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかもあかじみた萌黄色もえぎいろの毛糸の襟巻えりまきがだらりと垂れ下ったひざの上には、大きな風呂敷包みがあった。その又包みを抱いた霜焼けの手の中には、三等の赤切符が大事そうにしっかり握られていた。
蜜柑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いい心持に、すっと足をのばす、せなかが浮いて、他愛たわいなくこう、その華胥かしょの国とか云う、そこへだ——引入れられそうになると、何の樹か知らないが、萌黄色もえぎいろの葉の茂ったのが、上へかかって
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さめ切らぬ目にはつり並べた蚊帳かやの新しいのや古い萌黄色もえぎいろが夢のようである。
花物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかもあかじみた萌黄色もえぎいろ毛絲けいと襟卷えりまきがだらりとさがつたひざうへには、おほきな風呂敷包ふろしきづつみがあつた。そのまたつつみをいた霜燒しもやけのなかには、三とう赤切符あかぎつぷ大事だいじさうにしつかりにぎられてゐた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
膝に置いた手に萌黄色もえぎいろのオペラバッグを大事そうに持っている。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
萌黄色もえぎいろくびがする/\とびて、くるまきしつて
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)