ゆっ)” の例文
「さあ。事情次第だが。実はゆっくり君に相談してみようと思っていたんだが。どうだろう、君の兄さんの会社の方に口はあるまいか」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
男も一息に、しかし幾らかゆっくり加減にり、不味まずそうに手の甲でくちを拭いて、何か考え事でもするように、洋酒コップの底をいじくりながら
是れだけの者だがそれで勤まる訳なら勤めますとお前さまも立会って証人に成って、三人鼎足みつがなわゆっくら話しをした上にしましょう
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私はとても忙がしいのでちっともゆっくり出来ません。次から次へと用事が込んでいましてどうも時間が得られないので困っている次第です。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ゆっくり一時間半の行程。皆塩原の風景には好い記憶をもっていたのでわざわざ出かけたのであったが、今度は那須と比較して異った感じを受けた。
夏遠き山 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
知った者の一人もいない家の、行燈あんどんか何かついた奥まった室に、やわらかな夜具の中にゆっくり身体を延ばして安らかな眠りを待ってる気持はどうだね。
ヴェリチャーニノフはゆっくりと起ちあがって、呼鈴を鳴らしてマーヴラを階下したから呼び、酒の仕度を命じた。
で、若し此の水蒸気の凝縮が、ゆっくりとだん/\に行はれないで、突然行はれたとしたら何うだらう。
遺恨も唯の遺恨では無い自分の身にうらまれる様な悪い事が有て常に先の奴を恐れて居たのです、何でも私しの考えでは彼れ余程ゆっくりして紙入も取出し煙草入も傍に置き
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
「どうです、此処ここも居心は悪くないでしょう」時雄は得意そうに笑って、「此処に居て、まアゆっくり勉強するです。本当に実際問題に触れてつまらなく苦労したって為方がないですからねえ」
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
食堂では昼間は禁制のビールを二本ほど、できるだけゆっくり飲んだ。帰つてみると夫人と小間使とは、たがいにもたれ合つて安らかに眠つてゐた。夫人の頭は、まるまるした小間使の肩にあづけてある。
夜の鳥 (新字旧仮名) / 神西清(著)
今夜も同郷人の歓迎会が堂島の川向うの何とかいった大きな料理屋で催されたので、右の重則氏と太田正躬氏とが同伴せられて自動車で乗り着けた。この自動車は東京のよりも大分ゆっくりと馳せた。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
開けると用意に腹痛はらいたの薬だの頭痛の薬だの、是れは何んだとかって幾つもあるのだから、何処が悪いっても大丈夫で、ゆっくり御養生なさい
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そこまで買物に出たから、ついでに寄ったんだとか云って、宗助のすすめる通り、茶を飲んだり菓子を食べたり、ゆっくりくつろいだ話をして帰った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
やがて、ぷんぷん美味うまそうな匂いのする肉菜汁スープと、肉の皿がはこばれた。盲は無言でゆっくりゆっくりそれを平らげた。
幻想 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
夕食後三十分か一時間もゆっくりと散歩し、胃も頭も爽かになった時分に帰って、読書と、昼間書いた草稿を夫人に読んで聞かせ、忠言を得て字句の改正をする。
男女交際より家庭生活へ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
なあに、脈が一つ打つ間の事なんだ。で、先づ一、二、三、四といふ風に、急ぎもせず、又あまりゆっくりもしないで、秒数を数へなければならない。積雲に電光が閃く瞬間に気を
志「あゝ宜しい、ゆっくり話をして来たまえ、僕はさようなことには慣れて居るから苦しくない、お構いなく、緩くりと話をして入っしゃい」
ところが主人からまあゆっくりなさいと云って留められた。主人は夜は長い、まだよいだと云って時計まで出して見せた。実際彼は退屈らしかった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ジャン・マデックは、ゆっくり調子をとってさっくさっくと鎌を打ちこんでゆくと、麦穂は末端はしをふるわせ、さらさらと絹ずれのような音を立てつつ素直にふせるのであった。
麦畑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
貸してろうとも、お前が資本もとでにするなれば貸しましょう、いわ、宜いがう云う事はゆっくり相談しなければならん
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「まあ、ゆっくり話しましょう」と云って、巻烟草まきたばこに火をけた。三千代の顔は返事を延ばされる度に悪くなった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
時計はチクタクとゆったり重々しい音で時を刻んでいた。
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
角「それには種々いろ/\訳があるが、話はうちへ帰ってからゆっくりしべい、己は沼田の下新田という山国だが、お前さんの実のお母様っかさんは己がうちにいるんだ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何二カ月や三カ月は、書物か衣類を売り払ってもどうかなると腹の中で高をくくって落ち付いていた。事の落着次第ゆっくり職業を探すと云う分別もあった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と云うので、二日流連いつゞけをさせてゆっくり遊興をさせ、充分金を遣わせて御用聞と話合いの上で、ズッと出る処を大門そと
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「うん。わるけりゃ、行くがいいですとも。いつ? あした? そうですか。それじゃまあゆっくり話したまえ。——今ちょっと用談を済ましてしまうから」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
重三郎かというわけで、おつれ申して来たんだ、心中じゃない別々なんだよ、ゆっくり話をしなければ解らねえが、コウ重さんお前も不思議な縁で
「まあ、先生が出て来たらゆっくり話そうと思うんだね。そう向うだけで一人ひとりぎめにきめていても困るからね」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
勘「いからさアつかまって、いゝかえ、おい若衆わかいしゅお頼申すよ、病人だから静かに上げておくれ、いゝかえゆっくりと、此の引戸を立てるからね、いいかえ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
産婆もゆっくり間に合うし、脱脂綿その他の準備もことごとく不足なく取りそろえてあった。産も案外軽かった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大「のう林藏、是迄しみ/″\話も出来んであったが、今日きょうは差向いでゆっくり飲もう、まア一盃いっぱいいでやろう」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ちょっとでなくっていいから、ゆっくり遊んでいらっしゃい。今に叔父さんが帰って来ますから」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もし旦那さん誠にねえお待遠まちどおだろうが、少しねえ荷イおろしてかなければなんねえ、貴方あんたおりて下さい、おりて何もねえが麦湯むぎゆがあるからゆっくりと休んで
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それがお嬢さんを早く片付けた方が得策だろうかという意味だと判然はっきりした時、私はなるべくゆっくらな方がいいだろうと答えました。奥さんは自分もそう思うといいました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
番新「今漸く花魁が来ましたの、今お茶を入れて何か甘味を取りますからゆっくり遊んでいって呉んなましな」
「だから落ちついていないんだよ。学問にると誰でもあんなものさ。あんまり心配しないがいい。なにゆっくりしたくっても、していられないんだから仕方がない。え? 何だって」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あの野郎をおさめえて置き、おめえさまたちの怨みのれるようにしますべえから、ゆっくり宅に居て下せえまし
久しぶりに遊んで行こうかしらと云って、わざわざ乗って来た車まで返して、ゆっくり腰を落ちつけた。松本には十三になる女をかしらに、男、女、男と互違たがいちがいに順序よく四人の子がそろっていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
幸「若いしゅ、湯にも這入るだろうが、ゆっくり今夜泊って、旨い物でも食わせるから彼方あっち座敷つぼに居ねえ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「はあ——何だか暗くってよく見えない。灯火あかりけてからゆっくり拝見しよう」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
菊「其の折のお肴はお前に上げるから、部屋へて往って、お酒もい程出してゆっくりおたべ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
茶屋の前を通り越しながら、世の中には、妙な作用を持ってる眼があるものだと思ったくらいである。それにしても、ああゆっくり見られないうちに、早く向き直る工夫はなかったもんだろうか。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まアゆっくりお茶でも召上っていらっしゃいってえば、そうですか、未だお使つかいがおあんなさるの、それじゃアお止め申しては却って御迷惑、またそのうちにお遊びにおいでなさいよ
ゆっくり会ったらかろうという注意とも慰藉いしゃともつかない助言じょごんも与えた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ほかの事とは違うと、とぼけたっていけねえ、あんでも丹波屋の横の座敷ではすになってまんまア食って居たとき、おめえゆっくりとって出て往ったから、叮嚀てえねえなお武士さむれえだと思ってっけが
と云って窓をてた。窓を閉てる前に自分はちょっと頭を下げて、飯場へ引返した。ゆっくり御休と云ってくれた飯場頭はんばがしらの親切はありがたいが、緩くり寝られるくらいなら、こんなに苦しみはしない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
花「ねえ海上さん、こんな相談をするにはゆっくりしなけりゃア落付かないから、あとで」
「ざっとでなくてもいいからゆっくり話したまえ。大変面白い」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
尼「とんだ面白くもない話をお聞かせ申したが、まアゆっくりお休みなさい」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)