秘訣ひけつ)” の例文
旧字:祕訣
突き止めてこの聖者から、世にもまれな幸福の秘訣ひけつを奪い取るか、でなければ、それが偽物であるのを観破して私の夢を安らかにしい。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
茶漬ちゃづけには、熱湯を少しずつ注いだ濃い目のものを用いるのがよい。しかし、抹茶まっちゃ煎茶せんちゃにしても、最上のものを用いることが秘訣ひけつだ。
鮪の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
何等か革新的であるかの印象を与えつつ、而もその内容が不明なることが、ファッシズムが一部の人を牽引けんいんする秘訣ひけつなのである。
二・二六事件に就て (新字新仮名) / 河合栄治郎(著)
それにまた、四階の人たちのところへはいり込むには、何かある魔法的な秘訣ひけつを、開けよ胡麻ごまを、知っていなければならないほどだった。
国師は足利尊氏あしかがたかうじ発心ほっしんせしめた有名な人ですが、この無窓国師は「長寿ながいき秘訣ひけつ」すなわち長生の方法について、こんな事をいっています。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
この幻術の秘訣ひけつはどこにあるかと言えば、それは象徴の暗示によって読者の連想の活動を刺激するという修辞学的の方法によるほかはない。
俳諧の本質的概論 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
文学者の秘訣ひけつはそこにあります。こういう文学ならばわれわれ誰でも遺すことができる。それゆえに有難いことでございます。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
僕は君達に不動の秘訣ひけつを説いて聞かせたが、君達は修養が無いから、急場に臨んでそれを実行することが出来そうでなかった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼は以前田舎いなかに住んでいたに違いないと思われた。なぜなら、あらゆる有益な秘訣ひけつを知っていて、それを百姓どもに教えてやったからである。
田舎者の出世の早道は、上京にある。しかも、その田舎者は、いい加減なところで必ず帰郷するのである。そこが秘訣ひけつだ。
如是我聞 (新字新仮名) / 太宰治(著)
だから、よい記憶で、「方式」どおりにやるということが、うまく勝負をする秘訣ひけつだと一般に考えられている点である。
七兵衛が魚をとるのではない、魚の方から七兵衛に来るのだと舌をいていたものです。七兵衛自身についてその秘訣ひけつを聞けば、こともなげに笑って
少し胡魔化ごまかしたように見えるが、この話の秘訣ひけつは、鉛筆で描いた線には幅があるという点に帰するのである。
地球の円い話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
すると、琴中に竜門りゅうもんの暴風雨起こり、竜は電光に乗じ、轟々ごうごうたる雪崩なだれは山々に鳴り渡った。帝王は狂喜して、伯牙に彼の成功の秘訣ひけつの存するところを尋ねた。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
知ることは戦ひに勝つ秘訣ひけつである——と東洋の兵法は教へてゐる。大ナポレオンの後をつぐ君等の名誉の勝利を維持して行くには、よく敵を知らなければいけない。
風変りな決闘 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
成効の秘訣ひけつというようなものが箇条書にしてあったうちに、何でも猛進しなくってはいけないと云う一カ条と、ただ猛進してもいけない、立派な根底の上に立って
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
春信はまことに最少の手段によりて最大の効果を得べき芸術の秘訣ひけつを知りたる画家たりしといふべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この人の胸の中には万人に対する更新の秘訣ひけつがある、ついには真理を地上に押したてる偉力がある、それでやがては万人が神聖になり、互いに愛しあうようになるだろう。
この根本に帰入するのが、いくらかでも仏法の守られる秘訣ひけつだと松雲は考えた。ところがこれには反対があって、仏徒が神道を基とするのは狭い偏した説だとの意見が出た。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
自由放任はすなわち政治の最大秘訣ひけつであって、また個人をしてほしいままに各自の利益を追求せしめおかば、これにより期せずして社会全体の福利を増進しうるということが
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
いつぞや色男の秘訣ひけつを買おうとして、余儀ない羽目に買って来た三世相解が手に触り、もしやこれにと思って引出して見ると、案の如く生年生月の吉凶がことごとく示してある
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
秘訣ひけつなんだよ。秘訣なんだよ。死骸を腐らせない。……屍蝋というものになるんだ」
白昼夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
元来晴れの戦場におけるノックには一種の秘訣ひけつがある、それは難球を打ってやらぬことである、だれでも取れるような球を打ってやれば過失がない、過失がなければ気がおちつく
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
長い巻紙にたらに沢山数字を書きつらねたのを高く頭上にさしあげて記憶術の秘訣ひけつとやらを滔々とうとう弁じている角帽の書生を取り巻いた人だかりの中に、私は長男の後姿を見かけた。
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
「木山さんには私淑ししゆくしてゐます。時々会うて世渡りの秘訣ひけつを拝聴してゐますよ。」
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
これ技工をもって天然の風景とその徳を争うものなり音曲おんぎょく秘訣ひけつもここにりと。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これ、九星によりて人の性質を憶定する秘訣ひけつにして、これを年に配するときは
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
男は少女にあくがれるのが病であるほどであるから、むろん、このくらいの秘訣ひけつは人に教わるまでもなく、自然にその呼吸を自覚していて、いつでもその便利な機会をつかむことをあやまらない。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そうすれば、人間のやること、人間の考え出したことなら、たいがいわかって来るものさ、こいつは僕の秘訣ひけつで、英夫君だから伝授してやるが、他人には口外無用ってところなんだ、はっはっは
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
しかしさすがに西洋人は、人生を享楽することの秘訣ひけつを知ってる。
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
 と、けだしこれ題詠の秘訣ひけつなり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
宝船たからぶね以上の夢見る秘訣ひけつ
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
彼らは皆、深い感情をいだきそれを表現した。しかし彼らの用いた言葉の秘訣ひけつは、彼らとともに死んでしまったのである。
そこで、この少年は上り口に腰をおろして、七兵衛を相手に、近くきたるべき天下の大乱によって、大金持になるべき秘訣ひけつを説き出して、七兵衛をけむにまく。
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
化粧しているのやら、していないのやら、ちょっとわからないのが、いわゆる「化粧の秘訣ひけつ」かと存じます。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
この花園のしき美の秘訣ひけつを問わば、かの花作りにして花なるひとり、一陣の秋風を呼びて応えん。「私たちは、いつでも死にます。」一語。二語ならば汚し。
驚くようなところを捜し出すことがときどきあるのだよ、はだし女やすべたには、初手にまずびっくりさせてやるのだ——これがこういう手合いに取りかかる秘訣ひけつなのさ
よく見ると、どうもその秘訣ひけつの一つは、歩脚の先の指節にあるらしく、針のように細いしかし強い線で描かれた指節の突端が、石にい入っていた。それがいているらしい。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ことに犯罪には常軌じょうきいっした馬鹿馬鹿しい事がつきものです。そういうものを馬鹿にしないことが犯罪を解く者の秘訣ひけつです。……こんなことを外国の有名な探偵家がいいのこしていますよ
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そもそも一技芸の起らんとするや、そが創始時代の制作には必ず原始的なる粗野の精力とこれを発表する簡朴かんぼくなる様式とのあいだ後人こうじんの見て以て窺知うかがいしるべからざる秘訣ひけつを蔵するものあり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
物のつりあいを保って、おのれの地歩を失わず他人に譲ることが浮世芝居の成功の秘訣ひけつである。われわれはおのれの役を立派に勤めるためには、その芝居全体を知っていなければならぬ。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
アパートでも、部屋をよい趣味で整えて食事をする。そういう心掛けが、料理を美味くする秘訣ひけつだ。ただ食うだけというのではなく、美的な雰囲気ふんいきにも気を配る。これが結局はまた料理を美味うまくする。
味覚馬鹿 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
常態は皮相にして、変態は蘊奥うんおうなり。前者は思議すべきものにして、後者は思議すべからざるものなり。ゆえに、妖怪学は宇宙の玄門を開き、事物の秘訣ひけつを究め、諸学の奥義を示す学なりと知るべし。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
遊ばせてやるのだと心得れば好かれぬまでもきらわれるはずはござらぬこれすなわち女受けの秘訣ひけつ色師いろしたる者の具備すべき必要条件法制局の裁決に徴して明らかでござるとどこで聞いたかうじも分らぬ色道じまんを
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
よろい隙間すきまを、魂の秘鑰ひやくたる欠点弱点を、たちまちのうちに見出し、秘訣ひけつを握ることを、よく知っていた。
「どうして殿下あなたは、今日のような御身分になられましたか。何か立身出世の秘訣ひけつでもございますか」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
政治家の秘訣ひけつはなにもないよ、ただ誠心誠意の四字ばかりだよ——内政のことにしろ、この秘訣を知らないから、どうも杓子定規しゃくしじょうぎで、さっぱり妙味というものがない。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あの雨の日に、初老の不良文士の口から出まかせの「秘訣ひけつ」をさずけられ、何のばからしいと内心一応は反撥はんぱつしてみたものの、しかし、自分にも、ちっとも名案らしいものは浮ばない。
グッド・バイ (新字新仮名) / 太宰治(著)
随分独断的な話であるが、南画の秘訣ひけつはここにあるということに決めた。
南画を描く話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
しかし彼女は女だったから、友の愛を落胆させることなく、冷淡な言葉がひき起こす内心の失意を、すぐにやさしい言葉でいやしてやるだけの秘訣ひけつを、知らないではなかった。