神業かみわざ)” の例文
ハッと唇の色を変えて、錦子はふるえあがったが、いたずらものが忍び込んだ形跡もないので家の者たちは神業かみわざだと、わざわいのせいにした。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
なんだか神業かみわざとでもいうような気がして、子供の私には、珍らしくもあり、怖くもあったのです。思わずそんなふうに聞き返しました。
鏡地獄 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
取リ敢エズ杉田氏ノ意見ヲ叩クト、「ヘーエ、ソンナ器用ナコトガ出来ルモンデスカナア、出来タラマルデ神業かみわざミタイナモンデスナア」
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そこをさかのぼると、自分のうつっている血をとおして、遠い大祖おおおやたちの神業かみわざと、国体のしんが、いつか明らかに、心に映じてくる。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、遠慮なさることはいらない。何しろあの場合の、咄嗟の撮影の早業はやわざなんてものは、人間業じゃなくて、まず神業かみわざですね」
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
法水はいったんかすかに嘆息したが、なおも気魄をらして、神業かみわざのような伸子の失神に絶望的な抵抗を試みた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
かかる場合ばあいにのぞみて、人間にんげんたのむところはただ神業かみわざばかり……。わたくしは一しん不乱ふらんに、神様かみさまにお祈祷いのりをかけました。
たとえ身分は駕籠かごかきであれ、病魔を払った今回の大功、人間業と申すよりむしろ神業かみわざとでも申すべきか、戦場における一番鎗より遥かに秀でた立派な働き。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
即ち天の人に与えたもうた神業かみわざである。しかし、同じ「人」ではあるが、極めて低い美にしか生きることを許されていない人々がある。天の恵みが薄いのである。
雅美ということ (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
神業かみわざと思うにや、六部順礼など遠くきたりてさいすとて、一文銭二文銭の青く錆びたるが、円きの葉のごとくあたりに落散りしを見たり。深く山のかいを探るに及ばず。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そんなことはないとは百も承知して居りながら、何となく神業かみわざのやうな気がして為方がなかつた。偶然にしても、あまりに不思議な偶然と言はなければならなかつた。
迅雷 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
白日の幽霊を見たような恐ろしい恐怖から解放されると、不思議な神業かみわざ——こんなにもよく似た双生児ふたごの妹の思わぬ出現に、すっかり度胆を抜かれてしまったのです。
火山かざん噴火ふんか鳴動めいどう神業かみわざかんがへたのは日本につぽんばかりではないが、とく日本につぽんにおいてはそれがなり徹底てつていしてゐる。まづ第一だいゝちに、噴火口ふんかこうかみたまへる靈場れいじよう心得こゝろえたことである。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
さては天の助くる処か。心は神業かみわざ。運命は悪魔のわざとこそ聞け。一か八かと思ふ間あらせず。背後の上りかまち立架たてかけたる錫杖取る手も遅く、仕込みたる直江志津の銘刀抜く手も見せず。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
六日の神業かみわざを自分の胸に体験し
六日の神業かみわざを自分の胸に体験し
そして、約束どおり半月後に、西の丸裏御門の内のえんじゅの下へ、あつらえたように、けておくなどということは、神業かみわざでもなければ、なしうる筈のものではない。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
傷害ヲ与エツツ、利得ヲほしいままニセシ形跡アリ、即チ、古来伝ウルトコロノ「狐ヲ使ウ」「真言秘密ノ呪法じゅほうニカケル」又ハ「生霊、死霊ヲケル」「神罰、仏罰ヲ当テル」等ノ霊験、神業かみわざ
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「冗談言つちやいけません、神業かみわざですよ。大晦日の次に元日が來るほど確かで」
膝下ひざもとへ呼び出して、長煙草ながぎせる打擲ひっぱたいて、ぬかさせるすうではなし、もともと念晴しだけのこと、縄着なわつき邸内やしきうちから出すまいという奥様の思召し、また爺さんの方でも、神業かみわざで、当人が分ってからが
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
答『イヤこれは最初さいしょ人類じんるい創造つくときの、ごくとお大古たいこ神業かみわざであって、今日こんにちでは最早もはやその必要ひつようはなくなった。そなたもるとおり人間にんげん男女だんじょ立派りっぱ人間にんげんんでるであろうが……。』
神業かみわざめいた兇器が、はたして現実あり得るものだろうか。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「仁兵衛夫婦が、あえて主命もものとせずに、わしの母を力づけ、ひそかにわしを産み落させてくれたのじゃが……ひとの心は、たまたま、神業かみわざをするものかもしれぬ」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何か見馴みなれません綺麗な鳥が、種をこぼして行ったと申して、熱海中の吉瑞きちずい神業かみわざじゃと、みんなが、大抵めでたがりました事でござりますが、さてこうなってみますると、それが早や魔のわざ
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「兄殺しは重罪だが、自分の家へ入つても泥棒は泥棒に違ひない、それを暗闇の中で成敗したのは神業かみわざだ。此處でお前を縛つちや、少しばかり十手冥利みやうりが惡からう。なア、八、どうしたものだ」