磁石じしゃく)” の例文
風景画家は洋服の袖隠かくしから磁石じしゃくを取出した。引いた図の方角をよく照らし合せて見て、ある家相を研究する人のことを三吉に話した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
みんなが、いつもあそはらっぱへもどってきてから、磁石じしゃく試験しけんをしてみたけれど、そのちからには、まえとすこしのわりもなかったのです。
白い雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ところが長い間そこにたたずんでいたものと見えて、磁石じしゃくで吸い付けられたように、両足は固く重くなって一すんも動きそうにはなかった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
この簡単な答は、あたかも磁石じしゃくに吸われた鉄のくずのように、自分の口から少しの抵抗もなく、何らの自覚もなく釣り出された。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
木乃伊の顔に注いだ視線を、もはやらすことが出来なくなった。彼は、磁石じしゃくに吸寄せられたように、凝乎じっと身動きもせず、その顔に見入った。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
重い、ほう、天びんぼうがひとりでに、磁石じしゃくのようにきみの手へいて行った。太陽たいようマジックなんだほんとうに。うまい。
イーハトーボ農学校の春 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
四人は四日分の食料しょくりょう準備じゅんびした、めいめい一ちょうの旋条銃せんじょうじゅうと、短じゅうをたずさえ、ほかにおの磁石じしゃく望遠鏡ぼうえんきょう毛布もうふなどを持ってゆくことにした。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
とうとうこらえきれなくなって、わたくしはいつしか切株きりかぶからはなれ、あたかも磁石じしゃくかれる鉄片てつきれのように、一良人おっとほうへとちかづいたのでございます……。
かれはその壮時そうじにおいて加賀かが銭屋内閣ぜにやないかくが海軍の雄将ゆうしょうとして、北海ほっかいの全権を掌握しょうあくしたりし磁石じしゃく又五郎またごろうなりけり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
心ゆくまで吸い込んでゆく——新九郎の総身の血は磁石じしゃくに触れたように荒れ狂った。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
つまり、大きな磁石じしゃくに鉄片が吸い寄せられるように磁力で鋼鉄の潜航艇が引きつけられて来るんだ。僕たちの乗った潜航艇についていたボタンはそういう作用をおこさせるスイッチだったんだね
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
磁石じしゃくうごかし具合ぐあいで、人形にんぎょうどうしは、たちまちチャンバラをはじめるのです。小山こやまは、先生せんせいのおはなしなど、みみれようともしないのです。
白い雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
葉子の神経は磁石じしゃくに吸い寄せられた砂鉄のように、堅くこの一つの幻像の上に集注して、車内にあった時と同様な緊張した恐ろしい状態に返った。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
まゆとそれから濃い眸子ひとみ、それが眼に浮ぶと、蒼白あおしろい額や頬は、磁石じしゃくに吸いつけられる鉄片てっぺんの速度で、すぐその周囲まわりに反映した。彼女の幻影は何遍も打ちくずされた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこで、私たちは、にわかに元気がついて、まるで一息にその峠をかけ下りました。トルコ人たちはあしが長いし、背嚢はいのうを背負って、まるで磁石じしゃくに引かれた砂鉄とい〔以下原稿数枚なし〕
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「どっちを向いても、わからねえや。俺の頭の磁石じしゃくが狂ったのか」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「たくさんれたね。ぼく磁石じしゃくは、だめだ。」と、としちゃんは、自分じぶん磁石じしゃくが、ただおおきいばかりだというのが、なんとなくがゆくなりました。
白い雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
富貴ふうきを愛するものは必ずこの色を好む。栄誉をこいねがうものは必ずこの色をえらむ。盛名を致すものは必ずこの色を飾る。磁石じしゃくの鉄を吸うごとく、この色はすべての黒き頭を吸う。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが磁石じしゃくに吸いつく鉄屑てつくずのようにあうらにささりこんだようでもある。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
このちいさな、一つの磁石じしゃくによって、自分じぶん息子むすことが、おなじように父親ちちおやたいして、なつかしい記憶きおくのあることをふしぎにおもい、なんということなく
般若の面 (新字新仮名) / 小川未明(著)
若者わかものは、時計とけいして、主人しゅじんせました。小型こがた銀側時計ぎんがわどけいで、ぎんのくさりがついて、それに赤銅しゃくどうでつくられたかざりの磁石じしゃくが、べつにぶらさがっていたのでした。
般若の面 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それは時間中じかんちゅうに、砂場すなば採取さいしゅしてきた砂鉄さてつかみうえにのせて、磁石じしゃくかみうら摩擦まさつしながら、すなをぴょんぴょんとおどらせていたのを、先生せんせいつかったからです。
二少年の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし、あの時計とけいについている、磁石じしゃく般若はんにゃめんは、子供こども時分じぶんから父親ちちおやむねにすがって、見覚みおぼえのあるなつかしいものだ。いまも、あのかざりだけはのこっている。
般若の面 (新字新仮名) / 小川未明(著)