用向ようむき)” の例文
「その用向ようむきの大体は」というから「実はラサ府に容易ならぬ病人があってその病人にませる薬を急いで買いに行かなければならぬ。 ...
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
田口氏の用向ようむきは、自分の社で近々きん/\青年画家の作品展覧会をするから、麦僊氏にもその選者の一にんになつて欲しいといふのだつた。
彼はあんにこの老先生の用向ようむきと自分の用向とを見較みくらべた。無事に苦しんで義太夫の稽古けいこをするという浜の二人をさらにそのかたわらに並べて見た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ロレ はれ、それは物怪もっけ不運ふうんの! 眞實しんじつ重大ぢゅうだい容易ようゐならぬ用向ようむきその書面しょめん、それが等閑なほざりになったうへは、どのやうな一大事だいじ出來でけうもれぬ。
用向ようむきは一大事があつて吉見九郎右衛門の訴状そじやうを持参したのを、ぢきにお奉行様ぶぎやうさまに差し出したいと云ふことである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
見し由にて心にかゝる旨申に付吉凶きつきようとはんと存じ夕七つ時分に宿やどを出しに途中とちうにて先年懇意こんいになりし細川家の藩士はんし井戸ゐと源次郎げんじらうに出會しゆゑ如何なる用向ようむきにて此地へ來られしやととひしに妻を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
きらきらと光って見える、俯向うつむちに歩むその姿は、また哀れが深くあった、私はねんごろに娘をへやに招じて、来訪の用向ようむきを訊ねると、娘は両手を畳につきながらに、物静かにいうには
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
彼は神中がこっちへ来たのは県庁の用向ようむきで出張して来たものだと思った。
雀が森の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
はなはだ簡単な用向ようむきであるから平生ならばどうとも挨拶あいさつができるのだけれども、声量を全く失っていた当時の余には、それが非常の困難であった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ほかに非常に大切な用向ようむきびて居るので、実は一日もここに止まって居ることが出来んのであるから、どうか私が今日ここに来て願書を出したという書付かきつけだけ下さい。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
はなし変って、私は丁度ちょうどその八月十九日に出発して、当時は京都から故郷なる備中連島びっちゅうつらじま帰省きしょうをしていた薄田泣菫すすきだきゅうきん氏の家を用向ようむきあって訪ねたのである、そして、同氏の家に三日ばかり滞在していた
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
かくて藤八はお節を同道どうだうして島田宿の我が家へ歸り宿場しゆくば用向ようむき萬事の儀は弟岡崎屋藤五郎へ頼みおき寄場よせばへ人を走らせ雲助がしら信濃しなのの幸八を呼寄よびよせ駕籠かごちやう人足三人づつ尤も通し駕籠なれば大丈夫だいぢやうぶな者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
神戸かうべまゐつたのも、まつた其方そのはう用向ようむきなので。石油發動機せきゆはつどうきとかなんとかふものを鰹船かつをぶねけるんだとかつてね貴方あなた
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
誘引さそひに來たれども夫は用向ようむきもあればゆかれぬとことわりしに其時貴殿おまへ扇子あふぎを落して來たからかしくれろと云ふ故てつあふぎかしつた其日鴻の巣の金兵衞が金五百兩かちしを見ておのれは先へ廻り金兵衞が歸りを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかし掛る暇どるだけの用向ようむきがあって暇の掛るのは仕方がない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
父が旅先で急に病気にかかったので、これから自分も行かなければならないと思うが、それについて旅費の都合は出来まいかというのが母の用向ようむきであった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お延がなぜこういう用向ようむきを帯びて夫人をたずねるのをきらったのか、津田は不思議でならなかった。黙っていてもそんな方面へ出入でいりをしたがる女のくせに。と彼はその時考えた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれどもそこへ折れ曲って行く事は彼の主意にそむいた。彼はただ夫人対お秀の関係を掘り返せばよかった。病気見舞を兼た夫人の用向ようむきも、無論それについての懇談にきまっていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かれうしてあたらしいところつて、あたらしいものせつするのが、用向ようむき成否せいひかゝはらず、今迄いままでかずにぎたきた世界せかい斷片だんぺんあたまやうがしてなんとなく愉快ゆくわいであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)