猛者もさ)” の例文
直義のそばに付いて離れぬ桃井直常や強硬なるほかの猛者もさどもが、和議をよろこばず、事ごとに話をくつがえしてしまったものである。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ネブカドネットの大虐殺でさえ、恐らくこの惨状には及ばぬだろう……さすがに海の猛者もさたちも、この凄絶な光景には眼を外向そむけた。
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
甲州の教良石は信濃の諏訪すわ郡に接する釜無かまなし川の岸にある。教良石民部は『甲陽軍鑑』時代の猛者もさであるからその在名は新しいものではない。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
浪人組の猛者もさをはじめ心ある武士は怪しんだが、いずれ深い理由わけがあるのだろうと思い返しては諫言いさめも出来ず、そのまま出発の用意をした。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
かれらが生い立った武蔵野のすすきをそのままという髭面ひげづらをそらせて、坂東声を遠慮会釈えしゃくもなしに振り立てるいわゆる「猛者もさ」の巣窟である中に
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
剣を取る時は平青眼ひらせいがんにじっとつけて、相手の眼をみつめながらジリリと進む、それに対するといかなる猛者もさも身の毛がったそうであります。
その他、有名な闘牛士にはガリト、マチャキト、リカルド・トレスなんかの猛者もさがいて、すこし古いところではアントニオ・フュエンテがある。
そのときは二日酔いの薬というY君式の伝授で、社の猛者もさ連中が宿酔ふつかよいに用いて霊顕あらたか、という効能がついていた。
反スタイルの記 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
武器は武器でも、念流、一刀流などの猛者もさの手を経たものではない。流儀の名の、しずかも優しい、婦人の奉納に違いない。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先頭は大橋要人、殿りは鈴木倉之進、その中に挾まれた五つのつり台は、深々と油単を掛けられ、五人の猛者もさに護られて、静々と中ノ橋に掛ります。
反言すれば強い男の猛者もさなどがかね草鞋わらじなどで踏みにじるのならば濁るのももっともであるが、あの足弱が渡っても濁るところはどうしてもやさしい春の水である。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
長与君は何しろ柔道何段と云ふ猛者もさであつたからたまらない、忽ち後藤は砂利の上に組み敷かれて拳骨を見舞はれ、カラーや眼鏡をふつ飛ばすと云ふ惨めな目に遭つた。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
菅谷君のほうは、その後観測所から山頂小屋まで、三回も歩いて往復したくらいの猛者もさであるから、あまり慌てない。しかし足手まといがあっては、まことに閉口であろう!
黒い月の世界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
その中で自分はいかにも最猛者もさのように云いふらした。だがどうやらその連中の中でも「足らず者」という意味で、半兵衛と呼び捨てにされているらしいのはすぐに分った。
光の中に (新字新仮名) / 金史良(著)
と、事の真相を測りかねた各社の猛者もさ連が、翌朝折竹の宿へ目白押しに押しかけてきた。
人外魔境:10 地軸二万哩 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
佐藤などの猛者もさが来ており、外に神川、管野、小暮、大須賀などの婦人連も来ていた。
赤旗事件の回顧 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
孤独を愛する奇人伊志田氏も、この恐怖には抗しかねたとみえ、邸内にはにわかに屈強な書生の数がふえた。一人であった書生が五人に増した。腕に覚えの猛者もさどもが、狩り集められたのだ。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
柔道四段の猛者もさの山形巡査が、奥の方から手をあげてよろこぶ。古島老刑事は
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おお、おれは今夜、かわいそうな人を、生みの家へ届けてやって来たのだが、何しろ先きも、名だたる猛者もさ、ことによると、これがきっかけで、こっちの秘密を、ハッと推量するかも知れぬ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
いにしへの猛者もさたちのやう
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
蜂須賀はちすか名物の猛者もさ原士はらしの者や若侍の面々。曲者くせものがお船蔵の方へ駈け抜けたときいて、天堂一角をまッ先に、今、ここへ殺到した。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八重やえ汐路しおじという言葉は、歌や物語にこそしばしば用いられるが、それが如何いかなる力をもつかを考えてみた人は、名もなき海上の猛者もさばかりであった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と、真っ先に進んだは、狩野下野前司かのうしもつけのぜんじの郎党、衣摺助房きぬすりすけふさという猛者もさであったが、鉢附けの板まで矢先白く射ぬかれ、馬から真っ逆さまに落ちて死んだ。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
縁のすぐわきに居て、ぐるりと毛脛けずねまくったなりで、真三に声を掛けたものがある。ことばつきで、軍人の猛者もさか、田舎出の紳士かと思われるが、そうでない。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼等は十杯ぐらゐづゝ連日飲んでゐる猛者もさぞろひだから、それで死なゝければ安全にきまつてゐるといふ次第
ちかごろの酒の話 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
なお本陣の方には幾多の猛者もさが養うてあるのだから、出合え、出合えと呼びさえすれば、お代官自身が手を下すまでもないはずになっているのに——その声が出ない。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おそばの猛者もさたち、タスキ十字のおっとり刀。縁がわをふみならして、あたりの障子唐紙を、バタバタとたおし八方からふたりのニセ家光のいる、上段の間になだれこみました。
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
坂東育ちの猛者もさと誇るかれらも、眼に見えない怖ろしい礫にはひどくおびやかされたらしく、不安ながらに再びあゆみ出すと、そこに脳天を砕かれたのや、真っ向を割られたのが四、五人も倒れていた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その隣に、幽霊助手を拝命した猛者もさ山形巡査が、これは古島老刑事とは反対に、大入道であれモモンガアであれ何でもでてこい取押えてくれるぞと、肩をいからしひじをはって課長の机をにらんでいる。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ひとりとひとりなら、どんな猛者もさにもひけをとるものじゃない。
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いにしへの猛者もさたちのやう
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
ところが、宋江は急に、かねを打たせて、味方の猛者もさをひきとらせてしまった。さあ、彼の身辺は、不平、ごうごうである。中には
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鍋焼饂飩うどん江戸児えどっこでない、多くは信州の山男と聞く。……鹿児島の猛者もさが羅宇の嵌替すげかえは無い図でない。しかも着ていたのが巡査の古服、——家鳴やなり震動大笑おおわらい
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
苗木の城内の天主の間には浪人組の猛者もさを始め、城内の有名な勇士の面々綺羅星きらぼしの如く居流れていた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼は『義経記』においては合戦の最初に、首の骨を射られて一矢で死んだとあり、堀河夜討の際のごとき花々しい働きはなかったのを、この本では大変な猛者もさにしてしまった。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
うるしのような髪の毛を、紫紐できりりと結び、直垂ひたたれを着て、袴をつけ、小刀は差して太刀たちき、中啓様ちゅうけいようのものを手に持って、この道場へ走り込むと、さしもの猛者もさどもの中を挨拶もなく
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
千束守はその道の猛者もさではあり、歌よりも恋の狩人ラヴ・ハンターとして有名でしたが、伊太利イタリーから帰って間もなく、フトした機会にこの素晴らしい幼な馴染なじみの志津子婦人にめぐり逢ってからは、身も世も忘れた姿で
「これはお京さんも。そうそう、矢代先生と御結婚の由、うけたまわっていましたよ。先生も見かけによらない。そうなんだな、文士なんて、おとなしそうで、やっぱりその道は猛者もさぞろいなんだな。恐れ入りました。今後よろしく御指南願いますよ」
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
柳剛流りゅうごうりゅう猛者もさ湧井わくい道太郎と、悪鬼のように斬ってかかる孫兵衛の死にもの狂いに、さしもの弦之丞、刻一刻と苦闘に迫っている。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつまたおな一國一城いつこくいちじやうあるじるにも猛者もさ夜撃朝懸ようちあさがけとはたちちがふ。色男いろをとここなしは、じやうふくんで、しめやかに、ものやさしく、にしみ/″\としたふう天晴武者振あつぱれむしやぶりであるのである。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
黄泉よみの岩根」の「獣人」酋長しゅうちょう荒玉梟帥あらたまたけるという猛者もさであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ほか、歴戦の猛者もさが、幾十隊の部将となってくりだしたが、中にはこう一点の女頭領おんなとうりょう、一丈青の扈三娘こさんじょうも、こんどは一軍をひきいて行った。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勘六は、討入の時、吉良方きらがた猛者もさと出会って、泉水に落ち、その時、小手に怪我をしたので、白布で左の腕を首にっていた。
べんがら炬燵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、それらの猛者もさの家来どもを宮から遠くひき離すためにも、この御座ぎょざにも間近な鈴の間の大廊下が、あえて用いられたに相違なかった。
まちがえば、ここの猛者もさは不平にうごいて、いつ味方が味方を制裁に出る両刃の剣戟とならぬかぎりもない。——まして殺気満々な戦時下だ。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あり余る若さとうつのやりばとして、宮はよく洛外へ狩猟かりに出た。供にはいつも吉野、十津川いらいの猛者もさを大勢つれていた。
彼女はまた、久米之丞に組み敷かれながら、目を閉じて念じましたが、高麗村郷士きっての猛者もさ、この男の力には、さすがの月江も及びません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前田方の士、半田半兵衛は、槍をふるって、敵の猛者もさばかり目がけ、当る者をみな仆していたが、敵の部将、桜甚助に
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「貴様たちも覚えておけ。燕人張飛という名を、おびの端、えりの裏にも書いておけ。そういう超人的な猛者もさに逢ったら、ゆめゆめ軽々しく戦うなよ」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで重蔵に頼みというは当日の試合に福知山方の藩士の列にまぎれこんでいてもらって、見事傲慢ごうまんな宮津藩の猛者もさを撃ち込んでもらいたいことだった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)