潜伏せんぷく)” の例文
旧字:潛伏
「しかしまたことによると、このたち擒人とりことなっている咲耶子を助けだそうという考えで、この甲府こうふ潜伏せんぷくしているようにも考える」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
門外漢もんがいかんの僕には人体(試験材料は蛙でも人間の筋肉でもあまり変りあるまいと想像そうぞうする)の内に恐しき力の潜伏せんぷくしていることを思った。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
かれとほはたけつち潜伏せんぷくしてそのにくむべき害蟲がいちうさがしてその丈夫ぢやうぶからだをひしぎつぶしてだけ餘裕よゆう身體からだにもこゝろにもつてない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
というのは、変電所主任土岐健助宛の無名の手紙から足がつき、スタンプの消印で栃木県とちぎけん今市いまいち附近に国太郎が潜伏せんぷくしていると判ったのである。
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ビフテキには是非ジャガ薯を添えなければならん。ビフテキは中が生焼なまやけると血が出る位だから牛肉中に潜伏せんぷくする真田虫さなだむしの原虫がよく死なん。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
弟の琴二郎様へだけ内密ないみつに知らせて、園絵様には、まずまず、潜伏せんぷくの個所は耳に入れてないのではないかと、長庵め、愚考ぐこういたしまするでござりまする
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
教会内けふくわいない偽善者ぎぜんしや潜伏せんぷくし居るを知りながらその破壊はくわいおそれて之を排除はいぢよし得ざるものなり、教会けうくわい独立どくりつとなへながら世の賛同さんどうを得ざるが故に躊躇ちうちよ遁逃とんとうするものなり
時事雑評二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
「あ、潤ちゃん、お化けの正体はね、明智探偵なのよ。明智が、どうかしてこの船の中に潜伏せんぷくしているらしいのよ。さ、もう一度、探させてください。早く」
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
山田やまだ出嫌でぎらひであつたが、わたし飛行自由ひぎやうじざいはうであるから、四方しはうまじはりむすびました、ところ予備門よびもんないあまねたづねて見ると、なか/\斯道しだう好者すきしや潜伏せんぷくしてるので
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「いやいや、たとえ怨みがあろうとなかろうと、ここへおれが潜伏せんぷくしているということを知られた以上は、もうきさまも助けておけない」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうかするとくら木陰こかげ潜伏せんぷくしてよめくるまちかづいたとき突然とつぜんくるま顛覆てんぷくさせてやれといふやうな威嚇的ゐかくてき暴言ばうげんをすらくことがある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
話頭はなし岐路わきみちに入ったようであるが、自分の胸中に正しからざる種子たね潜伏せんぷくする以上は、いかに最初は勇敢なるも、いかに初対面のときに豪傑風を装うとも
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それは、喬之助の弟琴二郎をおびき出して、責めるなりだますなり、そこらは長庵の手腕うでだが、とにかく何とかして、兄喬之助の潜伏せんぷく個所を吐き出させること。それだった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかしこの諜報中継局が、アメリカの政治首都ワシントンと経済首都ニューヨークを含む地域内に潜伏せんぷくしていることだけは確言かくげんできる。そして局の位置は、たえず移動をつづけているようである。
諜報中継局 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「すると、賊はまだ邸内に潜伏せんぷくしているというのですね。」
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
驚怖きやうふあま物陰ものかげ凝然ぢつ潜伏せんぷくしてとりつぎあさやうやとりむれまじつてあるいたけれどいくらかまだ跛足びつこいてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
彼方此方あちこちに、各〻、ばいをふくんで潜伏せんぷくしている同志たちは、この一日、曾てない緊張を示して、石町の本拠ほんきょから
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひさしくおかみにおいて御探索たんさく中であったかの逆袈裟ぎゃくけさがけ辻斬りの下手人が当屋敷に潜伏せんぷくいたしおるとのことであるが、お前ら屋敷内にさよう胡乱うろんな者をみとめはしなかったか
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そもそも人生には明らかにあらわるる危険もあれば、両側あるいは地下に潜伏せんぷくせる危険もまた多い。この危険を幾分なりとも見得るものは、おそれざらんとしても怖れざるを得ない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
潜伏せんぷくしている彼の部屋へ、あるじの八蔵が来ての話しである。又四郎は、眼に歓びを見せて
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「日和佐の宿に潜伏せんぷくして、刀の手入れのできるのを待っているものとみえる」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、彼の死後に現われた刀の切銘きりめいには、「長州萩城ニ於テ作ル」としたものや「村田清風先生ノ為ニ鍛ツ」と切った作刀がかなり見られるので、長州に潜伏せんぷくしていた事は、想像に難くない。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山陰には尼子氏あまこしの一党が諸所に潜伏せんぷくして時到るを待っている。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)