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沁々
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しみじみ
ふりがな文庫
“
沁々
(
しみじみ
)” の例文
自分と徳川どのとが、どうして、戦いを決せねばならぬ理由があるのか——秀吉にはとんと分らぬ、と
沁々
(
しみじみ
)
、
御述懐
(
ごじゅっかい
)
なすっておられた
新書太閤記:11 第十一分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
おっとりとそんな説明をする時の規矩男の陰に、いつも規矩男から聞いたその母の古典的な美しい
俤
(
おもかげ
)
も
沁々
(
しみじみ
)
とかの女に想像された。
母子叙情
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
二人は
沁々
(
しみじみ
)
とした心持で笑いました。が、事件はこれがほんの
端緒
(
いとぐち
)
で、この後に続く恐ろしい発展は、全く笑いごとではなかったのです。
銭形平次捕物控:074 二度死んだ男
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
いや寧ろ、その悪夢のように繰りひろげられた、醜悪な写真が眼にはいると、足早に近寄り、
厭
(
あ
)
かず
沁々
(
しみじみ
)
と見詰めるのであった。
魔像
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
一首は、これまでまだ
沁々
(
しみじみ
)
と逢ったこともない女に偶然逢って、その後逢わない女に対する恋の切ないことを歌ったものである。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
▼ もっと見る
きょう、おだやかな天気を
沁々
(
しみじみ
)
感じる道理です。あああ眠ったと云う心持。この間うち体がこわばったりしていたのが大分ましになりました。
獄中への手紙:05 一九三八年(昭和十三年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
おとなしい人で、それに寝た切りの奥様に付いているのですもの。
沁々
(
しみじみ
)
話す暇もなかったわ。ええ、お子さんはなかったの。
ニッケルの文鎮
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
と、霜枯れた
風致
(
ふうち
)
の中に、同じ人生の暖かさ懐かしさを、
沁々
(
しみじみ
)
いとしんで咏むのであった。この同じ自然観が、芭蕉にあっては大いに異なり
郷愁の詩人 与謝蕪村
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
それと云うのが眼が潰れると眼あきの時に見えなかったいろいろのものが見えてくるお師匠様のお顔なぞもその美しさが
沁々
(
しみじみ
)
と見えてきたのは
春琴抄
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
壁
(
かべ
)
の小さい柱鏡に
疲
(
つか
)
れた僕の顔と、
頬
(
ほお
)
のふくれた彼女の顔が並んだ。僕は
沁々
(
しみじみ
)
とした気持ちで彼女の抜き
衿
(
えり
)
を女学生のように
詰
(
つ
)
めさせてやった。
魚の序文
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
と、
御叩頭
(
おじぎ
)
をして、二人の前へ、茶を置くと、
淑
(
しとや
)
かに出て行った。茶室好みの小部屋へは、もう夜が、
隅々
(
すみずみ
)
へ入っていて、
沁々
(
しみじみ
)
と冷たさが
沁
(
し
)
んだ。
大岡越前の独立
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
貧しかった実家の破れ障子をふと
想
(
おも
)
い出させるような
沁々
(
しみじみ
)
した幼心のなつかしさだと、一代も一皮
剥
(
は
)
げば古い女だった。
競馬
(新字新仮名)
/
織田作之助
(著)
「ああ、それにしても……」丘助手は、博士の門に入ることの出来た喜びを
沁々
(
しみじみ
)
と感じたことだった。「この
憎々
(
にくにく
)
しく
聳
(
そび
)
え立つ殺人興奮の曲線?」
キド効果
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
私
(
わっし
)
なんぞが参りますと、にごり屋のかみさんが
沁々
(
しみじみ
)
愚痴をいいますがね、勘定はいうまでもなく悪いんです、——
連
(
つれ
)
を
引張
(
ひっぱ
)
って来りゃきっと喧嘩。
式部小路
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
平一郎は冬子にこのように
沁々
(
しみじみ
)
と物語られるのははじめてであった。彼は冬子と彼との間にあった「大人と子供」の隔てが全くとれてしまったのを感じた。
地上:地に潜むもの
(新字新仮名)
/
島田清次郎
(著)
彼は初めてそうした華やかな群の中へ入ったのだが、何というわけもなく、
沁々
(
しみじみ
)
寂しさと
遣瀬
(
やるせ
)
なさを感じた。
孤独
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
東京ではいくらかボカして考えていた「ふるさと」もこうやってみると、今更ながら
嘘
(
うそ
)
ッ八だと
沁々
(
しみじみ
)
わかる。
冬枯れ
(新字新仮名)
/
徳永直
(著)
腕力をもってくるなら、反抗する決心もあるが、
沁々
(
しみじみ
)
と訴えられるのは
愁
(
つら
)
い。自分の思想を守るのに、そんなことで屈伏したり、陥落は出来ないとも思った。
遠藤(岩野)清子
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
尾形に俺の目が負けてはなるものかと力みつつ
沁々
(
しみじみ
)
歓びを感じた。支那人は分らんと云う連中は愚の骨頂だ。
天馬
(新字新仮名)
/
金史良
(著)
几帳
(
きちょう
)
の蔭に悲しみの天女をやすませて、大納言は縁へでた。静かな月の光を仰いだ。はじめて彼は、この世に悲しみというもののあることを、
沁々
(
しみじみ
)
知った思いがした。
紫大納言
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
絶壁には横に大きな襞が幾つかあって、そこにはギボウシの花が咲いているのを見た。河原伝いの気楽さを
沁々
(
しみじみ
)
味いながら、二町も遡ると対岸で餓鬼谷が合流している。
黒部川を遡る
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
その温情を譲吉は、
沁々
(
しみじみ
)
と感じて居るのであった。学資ばかりでなく、譲吉は、衣類や
襯衣
(
シャツ
)
や、日用品の
殆
(
ほとん
)
ど
凡
(
すべ
)
てを、近藤夫人の厚意に依って、不自由しなかったのである。
大島が出来る話
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
今日、三人の子の父となった私には、今さらながら、亡くなった父の慈愛、母の情が
沁々
(
しみじみ
)
と感ぜられるのです。「子を持って知る親の恩」とは、あまりにも、古い言葉です。
般若心経講義
(新字新仮名)
/
高神覚昇
(著)
筒井は息もつかずに
詫
(
わ
)
びた。「その折、あまりのおなさけ深く身に余りまして無断で立ち去りましておわびの致しようもございませぬ。」と筒井は
面
(
おもて
)
をぬらして
沁々
(
しみじみ
)
いった。
津の国人
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
山楽は山楽でなければならないはずのものだ——永徳は
早死
(
はやじに
)
をしたが、山楽は
長生
(
ながいき
)
をした、およそ長生すれば恥多しということを、
沁々
(
しみじみ
)
と体験したもの山楽の如きはあるまい。
大菩薩峠:31 勿来の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
その時、半身を雪に圧されて救助隊の来るまでの一昼夜を動かれぬままに観念してすごした苦しさを思い出しながら、
沁々
(
しみじみ
)
と語る。喜作はかすかに、ウーンと
唵
(
うな
)
っただけだった。
案内人風景
(新字新仮名)
/
百瀬慎太郎
、
黒部溯郎
(著)
夜番の鳴らす拍子木の音が、屋敷を巡って聞こえるのさえ、今夜は
沁々
(
しみじみ
)
と身に浸る。
正雪の遺書
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
或しぐれた夕方、尼は女のところに来ると、いつものように
沁々
(
しみじみ
)
と話し込んでいた。
曠野
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
落つるに早い楓、朴、
櫨
(
はぜ
)
の類は、既に赤裸々の姿をして夕空寒く突き立って見える。彼の蘇子瞻の「霜露既降木葉尽脱 人影在
レ
地仰見
二
明日
一
」というような趣きが
沁々
(
しみじみ
)
と味われる。
茸をたずねる
(新字新仮名)
/
飯田蛇笏
(著)
相手は急に
間誤間誤
(
まごまご
)
し出して、と、と、飛んでもねえ、と、ムキになって否定しましたが、
不図
(
ふと
)
パセティックな調子となり、でも、
沁々
(
しみじみ
)
考げえりゃあ
他人事
(
ひとごと
)
じゃ御座んせん、と
滾
(
こぼ
)
しました。
陳情書
(新字新仮名)
/
西尾正
(著)
鈍帳芝居の卑しさと
惨
(
みじ
)
めさとが
沁々
(
しみじみ
)
思い知られるようであった。
明治劇談 ランプの下にて
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
と
沁々
(
しみじみ
)
言う彼の顔には
明
(
あきらか
)
に絶望の影が動いて
居
(
い
)
た。
運命論者
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
そして
沁々
(
しみじみ
)
、わが児の成長をながめ、また、
垢
(
あか
)
のついていない小袖や、髪の結いぶりや、刀、脇差などを見て、ほろほろと涙をながした。
新書太閤記:01 第一分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
作曲も実に善良な、邪念のない、美しいものを書いているが、その演奏もまた邪念のない、
沁々
(
しみじみ
)
と行き届いたものであった。
名曲決定盤
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
、
野村長一
(著)
なほ子は母の老いたことを
沁々
(
しみじみ
)
感じ、さっき彼女自身、祖母について云った口うらから、母が飽きず思い出話をするのが、水のように淋しかった。
白い蚊帳
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
東北の山間などにいてはこういうものは決して見ることが出来ないと私は子供心にも
沁々
(
しみじみ
)
とおもったものであった。
三筋町界隈
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
一郎はジュリアの美しさを
沁々
(
しみじみ
)
と見たような気がした。ただ美しいといったのではいけない、
悩
(
なや
)
ましい美しさというのは
正
(
まさ
)
にジュリアの美しさのことだ。
恐怖の口笛
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
だが、失恋というものが、こんなにも感傷的な気持を誘うものだろうか——中田は今、
沁々
(
しみじみ
)
とそれを体験した。
自殺
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
こちらから望んで世話に乗り出したくらいだから、利用されたというような
悪毒
(
あくど
)
く
僻
(
ひが
)
んだ気持ちはしないまでも、ただわけもなく寂しい感じが
沁々
(
しみじみ
)
と襲った。
河明り
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
と、
沁々
(
しみじみ
)
として人生のうら寒いノスタルジアを思うのだった。そうした彼の郷愁は、遂に無限の時間を越えて
郷愁の詩人 与謝蕪村
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
「帰りたいか。お待ち、お前はまだ
沁々
(
しみじみ
)
おれの顔を見ないだろうが、ようく見て御覧……
唇
(
くち
)
を貸して……もっと思いきって前へ出せよ……どうだ怖かアないか」
暗中の接吻
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
気の毒がるのをいじらしそうに
沁々
(
しみじみ
)
といったが、
軽
(
かろ
)
く立った。酒と聞いて、気もそぞろで、この(先生様)といった
言
(
ことば
)
は、この時愛吉の耳には入らなかったのである。
式部小路
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
すぐ痩ぎすな甲武信の頂上にひょこりと出た南日君と自分とは、登山の目的を遂げた快さを
沁々
(
しみじみ
)
と味う余裕も無かった程、この予期していなかった山の出現に気を奪われて
了
(
しま
)
った。
秩父の奥山
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
私の外貌は悠々と読書に専念してゐたが、私の心は悪魔の国に住んでをり、そして、悪魔の読書といふものは、聖人の読書のやうに冷徹なものだと私は
沁々
(
しみじみ
)
思ひ耽つてゐたのである。
魔の退屈
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
十日と経ち、二十日と経つうちに、大尉はゼラール中尉と交情を保っていくことは、自分の意志を中尉の意志の奴隷にするのと、あまり違わないことを
沁々
(
しみじみ
)
と悟ってしまったのである。
ゼラール中尉
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
低い
灰空
(
はいぞら
)
だ——雪になるか? 雨になるか?
沁々
(
しみじみ
)
と冷たさの
沁
(
し
)
む
黄昏
(
たそがれ
)
だ。
大岡越前の独立
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
却って、上野介の身に急迫を感じさせて、米沢城の奥深くでも追いこんでしまうのが落ちではないか。——
沁々
(
しみじみ
)
そう感じながら、又之丞が
新編忠臣蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
旅人は、
讃酒歌
(
さけをほむるうた
)
のような思想的な歌をも自在に作るが、こういう
沁々
(
しみじみ
)
としたものをも作る力量を持っていた。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
そしてチャイコフスキーの愛情の
濃
(
こま
)
やかさが、あの前人未踏の涙の芸術を生み、すべての人の心に、
四沢
(
したく
)
を
潤
(
うる
)
おす春の水のように
沁々
(
しみじみ
)
と行きわたるのであろう。
楽聖物語
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
(著)
肉体も
魂
(
たまし
)
いもしっくりと融け合って、細君であると同時に情婦らしい感じのする女、つまり理性と享楽を兼ねていて、
沁々
(
しみじみ
)
と話がわかって、夜は
温々
(
ぬくぬく
)
とした
室
(
へや
)
で
孤独
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
沁
漢検1級
部首:⽔
7画
々
3画
“沁”で始まる語句
沁
沁出
沁込
沁透
沁入
沁骨
沁徹
沁拡
沁沁
沁渡