比叡ひえい)” の例文
いとまぢかき所のやうに読みし人あり、辛崎は比叡ひえいの東阪本にて志賀郡、浅妻は筑間つくまに隣りて坂田郡か、湖を中に隔てあはひ十里余やあらん
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
眼に、比叡ひえい四明しめい大紅蓮だいぐれんを見、耳に当夜の惨状を聞かされていた京洛きょうらくの人々は、信長が兵をひいて下山して来ると聞くと
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前の方に逢坂おうさか比叡ひえい、左に愛宕あたご鞍馬くらまをのぞんだ生絹は、何年か前にいた京の美しい景色を胸によみがえらせた。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
松島を旗艦として千代田ちよだ厳島いつくしま橋立はしだて比叡ひえい扶桑ふそうの本隊これにぎ、砲艦赤城あかぎ及びいくさ見物と称する軍令部長を載せし西京丸さいきょうまるまたその後ろにしたがいつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
摩耶まや霧島きりしま榛名はるな比叡ひえい竜城りゅうじょう鳳翔おうしょうの両航空母艦をしたがえ、これまた全速力で押し出し、その両側には、帝国海軍の奇襲隊の花形である潜水艦隊が十隻
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
東山の暗い緑の上に、霜に焦げた天鵞絨びろうどのやうな肩を、丸々と出してゐるのは、大方、比叡ひえいの山であらう。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
西の比叡ひえいに対する東の東叡山の存在が、ある意味に於ては、柳営以上の位にいるという頭があるからです。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
長く願っていたが比叡ひえいで法事をした次の晩、ほのかではあったが、やはりその人のいた場所はそれがしの院で、源氏がまくらもとにすわった姿を見た女もそこに添った夢を見た。
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
雪の深い関ヶ原を江州ごうしゅうの方に出抜けると、平濶へいかつな野路の果てに遠く太陽をまともに受けて淡蒼うすあお朝靄あさもやの中にかすんで見える比良ひら比叡ひえいの山々が湖西に空に連らなっているのも
黒髪 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それにると、将門が在京の日に比叡ひえいの山頂に藤原純友すみともと共に立つて皇居を俯瞰ふかんして、我は王族なり、まさに天子となるべし、卿は藤原氏なり、関白となるべし、と約束したとある。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
と、比叡ひえいおろしの吹きすさぶ中を逢坂山おうさかやまへかゝりながら涙を流した。そうかと思うと
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大政おほまつりごとしげくして、西なる京へ君はしも、御夢みゆめならでは御幸みゆきなく、比叡ひえいの朝はかすむ共、かもの夕風涼しくも、禁苑きんゑんの月ゆとても、鞍馬の山に雪降るも、御所の猿辻さるつじ猿のに朝日は照れど
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
青い絨毯じゅうたんを敷き詰めたように、広がっている比叡ひえいの山腹が、灰色に蒼茫と暮れむる頃になると、俺はいても立っても、堪らないような淋しさにとらわれる。俺は自分で、孤独を求めてきた。
無名作家の日記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
戦艦『長門ながと』『陸奥むつ』『日向ひゅうが』『伊勢いせ』『山城やましろ』『扶桑ふそう』『榛名はるな』『金剛こんごう』『霧島きりしま』。『比叡ひえい』も水雷戦隊にかこまれているぞ。『山城』『扶桑』は大改造したので、すっかり形が変っている。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
此上は比叡ひえい座主ざすの秋を待つ
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
旦那だんなさま旦那さま。まアはやくでてごらんなさいまし、とてもすばらしい大鷲おおわしが、比叡ひえいのうしろから飛びまわってまいりました。お早く、お早く」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わが本隊のうち比叡ひえいは速力劣れるがため本隊に続行するあたわずして、大胆にもひとり敵陣の中央を突貫し、死戦して活路を開きしが、火災のゆえに圏外に去り
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
胆吹いぶき、比良、比叡ひえい、いずれにある。先に目通りに水平線を上げた琵琶の水も、ほとんど地平線と平行して、大野につづく大海を前にして歩いているような気分です。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかれども春雨はるさめかさ、暮春に女、卯花うのはなに尼、五月雨さみだれに馬、紅葉もみじに滝、暮秋に牛、雪に燈火ともしびこがらしからす、名所には京、嵯峨さが御室おむろ、大原、比叡ひえい三井寺みいでら、瀬田、須磨、奈良、宇津
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
比叡ひえい全山の伽藍がらん仏塔も、僧俗のおびただしい生命も、火中に見て、冷然たるものだった信長の眼に、いまは涙がある。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この前のが多景島たけじまで、向うに見えるのが竹生島ちくぶじまだ——ずっと向うのはての山々が比良ひら比叡ひえい——それから北につづいて愛宕あたごの山から若狭わかさ越前えちぜんに通ずる——それからまた南へ眼をめぐらすと
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
敦賀ノ津からは、陸路近江に入って、はや比良ひら比叡ひえいを望み、京の口へはもう一歩と、ほっとしたのが九月末。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
(範宴——、よう見えるか)と、ある時、比叡ひえいの峰から、京都の町を指さしていう。範宴が、うなずいて
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
湖水の色や、比叡ひえいの雲の行きかいを見るに、もう一降りドッとこなければ、この天候はれあがるまい、というので、旅籠はたごかどには、だいぶ逗留とうりゅう延ばしのはきものが見える。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
比叡ひえい根来ねごろ霊山れいざんきはらってしまぬ荒武者あらむしゃのわらじにも、まだここの百合ゆりの花だけはふみにじられず、どこの家も小ぎれいで、まどには鳥籠とりかごかきには野菊のぎく、のぞいてみれば
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
孤雲は、谷間に下り、水にそって、比叡ひえいの山から里へと、いっさんに逃げて行った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
の釈尊の信願をもって自分の信願とし、雪の比叡ひえいへ三度目にのぼったのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大鷲の神経しんけいは、かかる火花をちらす活闘かっとうが、おのれの背におこなわれているのも、知らぬかのように、ゆうゆうとしてつばさをまわし、いま、比叡ひえいみね四明しめいたけの影をかすめたかとみれば
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三つの提燈あかりはしきりに揺れ、しきりに明滅する。夕方、比叡ひえいのうえに見えた笠雲はもういっぱいに洛内の天へ黒々とひろがって、夜半よなかには何に変じるか、怖ろしい形相をきざしている夜空だった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
姓はたわら、名は一八郎、三十四、五の男ざかり、九条村の閑宅かんたくにこもって以来、鳩使いとなりすまし、京の比叡ひえい飾磨しかまの浜、遠くは丹波あたりまで出かけて、手飼てがいの鳩を放して自在に馴らしている。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
相模入道高時の夢に、数千の猿が、比叡ひえいのお使い猿として現われた。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)