歳月さいげつ)” の例文
昔どおりのみさきの子の表情である。十八年という歳月さいげつ昨日きのうのことのように思い、昨日につづく今日のような錯覚さっかくにさえとらわれた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
とかくするうちに十年の歳月さいげつがすぎました。みなさん十年といえば実にながい年月です。そのあいだのジェンナーの気持ちを考えてみてください。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
そして永劫えいがふの或期間だけ蓋の形を保續して來た、要するにあつまツた人の力が歳月さいげつたゝかツて來たのだ。雖然戰ツた痕跡こんせきは、都て埃の爲に消されて了ツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
彼らの生活は広さを失なうと同時に、深さを増して来た。彼らは六年の間世間に散漫な交渉を求めなかった代りに、同じ六年の歳月さいげつげて、互の胸を掘り出した。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まったく十余年の歳月さいげつは、うかうかと夢のごとくに過ぎていった。紅唇こうしんいずれの日にか恋愛のためにるるべき、——と冗談口をたたいた娘は早くも二十一歳になっていた。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
それにしても、第五部を書くために五年の歳月さいげつはあまりに永過ぎるのではないかとあやしむ人も多いだろう。事実、多数の読者からは、ずいぶん怠慢たいまんだというおしかりもうけた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
わしはあなたをめる気は少しもない。あなたはあまりに痛ましい。困苦寂寥こんくせきりょう歳月さいげつがあなたの忍耐にんたい力を奪ってしまったのだ。あなたは心の平衡へいこうを支える勇気をくだかれてしまったのだ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
この一年有半ゆうはん歳月さいげつに、そなたはいまの世相せそうをよくながめたであろう。どうであった戦国の浮世うきよは。わけても百姓ひゃくしょう町人ちょうにん——いやそれよりもっと貧しいたみたちのくるしみはどうであろう。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さら大佐たいさみちびかれて、いますでに二ねん有餘いうよ歳月さいげつつひやして、船體せんたいなか出來上できあがつた海底戰鬪艇かいていせんとうてい内部ないぶり、つぶさ上甲板じやうかんぱん下甲板げかんぱん、「ウオター、ウエー」、「ウ井ング、パツセージ」、二重底にじゆうそこ
かまどの灰や、歳月さいげつに倦みつかれ來て
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
しかし先生はわざとそれに乗らず、とりかこまれた青年の姿をあおぐようにしてながめまわした。八年の歳月さいげつは、小さな少年を見あげるばかりのたくましさに育てている。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
彼等かれら生活せいくわつひろさをうしなふと同時どうじに、ふかさをしてた。彼等かれらは六ねんあひだ世間せけん散漫さんまん交渉かうせふもとめなかつたかはりに、おなじ六ねん歳月さいげつげて、たがひむねを堀ほ》りした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かれが四十七さいのときすなわち西暦せいれき一七九六年のことです、数えてみれば研究にとりかかって二十年近くの歳月さいげつを経ましたが、その年の春ごろから天然痘てんねんとうが流行しましたので
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
かまどの灰や、歳月さいげつつかれ来て
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
だが二十年近い歳月さいげつは、もうだれも若い日の彼女をおぼえてはいまい。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
宗助そうすけはたゞ惘然ばうぜんとした。自己じこ根氣こんき精力せいりよくらないこと齒掻はがゆおもうへに、夫程それほど歳月さいげつけなければ成就じやうじゆ出來できないものなら、自分じぶんなにしにこのやまなかまでつてたか、それからがだい一の矛盾むじゆんであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)