斡旋あっせん)” の例文
凡兆の句複雑というほどにはあらねど、また洒堂らと一般、句々材料充実して、かの虚字をもって斡旋あっせんする芭蕉流とはいたく異なり。
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
(私たちは史料をかかえて再び下部へと降りました。私は特にこの借用について石部惟三氏と小宮山氏との斡旋あっせんを忘れ難く思います)
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
彼は公卿の中では裕福であり、権勢も持っている姉小路卿に取り入り、多くの公卿衆方に入り込もうとし、その斡旋あっせんを勘解由に頼んだ。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
同時に、取巻共がしきりに伊太夫に向って斡旋あっせんした山科の光悦屋敷なるものも、こうしてお銀様の有に帰してしまったものらしい。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お駒ちゃんが気分がわるいことで宴はちょっと腰を折られたが、久助とおんなたちは、何ごともなかったようにそこらを斡旋あっせんした。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
出どころの判らないにおいと笑いとうたとを引き切るようにき分けて、物売りと、分別顔のギャルソンが皿を運んだり斡旋あっせんしたりしている。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかし、それにしても、死んだ爺さんは一体院長に斡旋あっせんした私の親切(もしもそれが親切といえるならばだが)に対して報いたのだろうか。
南島譚:03 雞 (新字新仮名) / 中島敦(著)
桟橋に繋留する外国船の荷揚げとか、石炭食料の補給、貿易品の商社斡旋あっせん、何でもといったような建てまえの事業らしかった。
若子さんが出て来て、例によって下にも置かないように斡旋あっせんしてくれる。但し見せつける意味もあるから、安達君は恐れ入る。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
幕末のころには、彼のもとをたよって来る勤王の志士も多かったが、彼はそれを懇切にもてなし、いろいろと斡旋あっせん紹介の労をいとわなかった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
酒間の斡旋あっせんは鶴子以下の姉妹が当る筈であったが、従姉妹いとこたちやお春や庄吉の妻などが働いてくれたので、姉妹たちはほとんど動かないで済んだ。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もっともアメリカには国際協力のための機関が別にあるから、その方へ斡旋あっせんしてみようという。どうなるかわからないが、一寸面白い話である。
エスキモーの国から (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
慶長六年(一六〇一)には彼はオルガンチノに対してキリシタンをほめ、その解禁のために尽力した。同十二年にも、パエスのために斡旋あっせんしている。
東湖を介してなにか水戸家に斡旋あっせんしていてそれがうまくいかぬとみえ、秀之進をつかまえては慷慨をもらすのだった。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
こちらの胸のうちをのぞきこんだような堀の斡旋あっせんを考えると、あんなに好都合に行ったことが腹立たしく、むしろ敵愾心てきがいしんが刺激され、彼はうずうずした。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
晩は天春君あまかすくん斡旋あっせんですでに準備のできている宴会を断った。そうして逃げるように汽車に乗った。乗る時橋本にこの様子じゃ千山せんざん行は撤回だと云った。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
近衛家このえけに縁故のある津軽家は、西館孤清にしだてこせい斡旋あっせんに依って、既に官軍に加わっていたので、路の行手ゆくての東北地方は、秋田の一藩を除く外、ことごとく敵地である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
するとさいわい私の変人だと云う風評はつとにこの地方にも伝えられていたものと見えて、やがて私が向うへ行くと、その団体の会長たる大垣町長の斡旋あっせんによって
疑惑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
善美を尽した御座船が中流に浮んで、貴顕きけん淑女雲の如く斡旋あっせんする中に、ジョージ一世は玉杯を挙げて四方の風物を眺めながら、水と共にテームズを降った。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
大いに覚悟する所あり、ついに再び流浪るろうかくとなりて東京に来り、友人の斡旋あっせんによりて万朝報社よろずちょうほうしゃの社員となりぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
よく斡旋あっせんしたからとて、抱月氏の死後、彼女が未亡人や遺孤いこに対して七千円を分割し、買入れた墓地まで、心よく島村家の人たちに渡してしまうはずはない。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
青島は列国の眼の光っている国際的海港であるからして、もしも日本が支那革命のために武器の斡旋あっせんをしておると知れた場合は、たちまち列国間の問題になる。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
二葉亭を海軍編修書記に推薦したはやはり旧友の一人たる鈴木某(その頃海軍主計大監)の斡旋あっせんであった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
その一つは俗語を自由に斡旋あっせんしたことで、たとえばこの句の如きも「これがまあ」という如き極めて鄙近ひきんな言葉を使って「つひの住家」という雅語に結びつけ
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
斡旋あっせん方を懇請した。しかし、この思慮深い政治家は、青年の取りのぼせた希望を、おだやかに、否定した。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
どうして手にお入れになりましたね? こりゃラズーミヒン氏の斡旋あっせんですかね? おや! それはわたしの拳銃だ! 古い馴染なじみの拳銃だ! あの時わたしはそれを
均平はそれを口にも出さなかったが、物質に生きる人の心のさもしさが哀れまれたり、先輩の斡旋あっせんでうっかりそんな家庭に入って来た自身が、いとわしく思えたりした。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
亜細亜アジア局に多少知った人もありますから、外務省の手で何とか斡旋あっせんしてもらおうと思いますが……
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
彼(ヘザーレッグ)の友情的斡旋あっせんのおかげで、わたしの苦悩の物語はシムラの隅ずみまで拡がって、誰もみなわたしの立ち場に同情していてくれることなどを話してくれた。
れ象山先生は、天下の士なり、まさに天下の用を為すべし。今にして用いずんば、天下それこれを何とやわん」といい、以て彼が蟄居ちっきょを解放せんとの斡旋あっせんを促したりき。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そこで、荘太の斡旋あっせんで、そこの座敷の一つを時々編輯会議に借りることが出来たのである。
芝、麻布 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
この方面に多少明るい某というやはり伯爵の二男が昔学友であった因縁いんねんから、それに頼んで、よき名探偵の斡旋あっせんを乞うた、その結果、一人の探偵が、伯爵のわび住居に現われた。
尤も家康なんかの斡旋あっせんを頼りにして居たのだろうが、家康は其の実見捨ての神だ。北条家の肩をもって余計な口をきき、秀吉の嫌疑を受けるのを極度に戒心して居たからである。
小田原陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
陸軍省の斡旋あっせんによって長野県上田うえだ市より程遠からぬ××温泉の裏山にある某貴族の別荘が借り入れられ、老博士を首班とする秘密設計班の人々が、その広い建物を独占していた。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
尾公慶勝は大将軍慶喜よしのぶのまさに大政を奉還せんとするに際し、時の宰相越前の藩主松平慶永よしながと相議し、幕府と薩長諸藩との間を斡旋あっせんし平和に事を解決せしめんと力めたのである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
殊にこの大阪行きについて斡旋あっせんの労を取った一人であるというから、団十郎弁護は当然かも知れないが、さすがに劇場の内部を知っている人だけに、その議論は急所に触れていた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私の師匠もこの間にはさまって、いろいろ斡旋あっせんしましたことはいうまでもないが、何しろ、一方のお袋さんが、嫁を貰う時には貨一郎氏が何んといっても自分先に立ってめてしまい
それがし不学で未だ見及ばず聞及ばぬでござるが、と談話は実に斡旋あっせんの妙を極めた。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
周防すほうの大内家からして用脚ようきゃくを調達する時にも、また宗祇の斡旋あっせんを得ておった。
節約に節約を加えた経済法はだんだん成功して負債ふさいもすくなくなり、校長の斡旋あっせんで始めた頼母講たのもしこうにも毎月五十銭をかけることもできるようになった。午後の二時ごろにはいつも新聞が来た。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
家隆や源家長が第一それで、藤原秀能ひでよしなども出家して如願にょがんといっていた。隠岐島おきのしまで『遠島御歌合えんとうおんうたあわせ』のお企てのあったときも家隆が万事斡旋あっせんして、歌をまとめてお送りしたが、定家は加らなかった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
かつその語法句法の工夫は一段の巧を加え文字の斡旋あっせんはよくいいがたき新意匠を最も容易に言い得るに至れり。特にその中の傑作と称すべきもの幾首は優に古人を凌ぎて不朽に垂るるに足る。以下略
竹乃里人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
三州屋の集りの時は芳町の芸妓が酒間を斡旋あっせんした。
ヒウザン会とパンの会 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
凡兆の句複雑といふほどにはあらねど、また洒堂らと一般、句々材料充実して、彼の虚字を以て斡旋あっせんする芭蕉流とはいたく異なり。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ところでこの十一月、たまたま民藝館で恒例の新作展が開催されるに際し、田中さんの斡旋あっせんで更に色々の品が出品されました。
多々良の雑器 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
典膳がその姓、神子上氏を変えて、小野姓になったのは、師一刀斎とわかれ、北条安房守の斡旋あっせんで、幕府へ禄仕するようになってから後である。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思いまして、及ばずながら斡旋あっせんの労を執りたい考えで同道してまいりました。わたしたちは三人とも平田篤胤あつたねの門人です。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それが拓本老職人の古風な着物やはかまを仕立て直した衣服を身につけて座を斡旋あっせんするさまも趣味人の間には好もしかった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
老校長と教頭はこの間を斡旋あっせんしている。二人とも創立以来だから、皆五年間お世話になって深い親しみを持っている。
母校復興 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そこの委員である一人の優秀な物理学者が、関係官庁の要路の人のところまでわざわざ出かけて来て、その研究に必要な資材の入手かた斡旋あっせんわれた。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)