料簡りょうけん)” の例文
一度は話の種に見物しておこうぐらいの料簡りょうけんで、ともかくも劇場の前に立って見ると、その前には幾枚も長い椰子やしの葉が立ててある。
マレー俳優の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこでまあ十一月二十五日が来るまでは構うまいという横着な料簡りょうけんおこして、ずるずるべったりにその日その日を送っていたのです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お前の料簡りょうけんは充分に判ったけれど、よく聞けおとよ……ここにこうして並んでる二人ふたりは、お前を産んでお前を今日まで育てた親だぞ。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
一体余り器量も無い小身の木村父子を急に引立てて、葛西、大崎、胆沢いさわを与えたのはちと過分であった。何様も秀吉の料簡りょうけんが分らない。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あまつさえ「物惜しみをするな」とまで云われたのがぐっと答えて、左大臣が所望しょもうとあらば、どんな物でも差出す料簡りょうけんになったのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私もしゃくにさわりましたから、「君がそういう料簡りょうけんなら僕にも考えがある。僕は人道上、花嫁に事情を告げるだけだ」と申しました。
暴風雨の夜 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
『できても、できなくても一おう神様かみさま談判だんぱんしていただきます。これくらいねがいがゆるされないとあっては、わしにも料簡りょうけんがござります……。』
「何だか知らねえが、縛られるくらいなら身を投げて死んだ方がいいという料簡りょうけんだ。若い娘というものは、兄哥の前だが付合いにくいね」
しかし、わたしは、うまいものを自分一人で食おうという料簡りょうけんの男ではないから、パリの友達に持って行ってやりたいと答えた。
たとえばご三男様と相撲すもうを取る場合、遠慮なくほうり出してやるようならよろしい。しかしもしご機嫌きげんを取る料簡りょうけんでいくようなら大反対です
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
小説などよりも比較的古い匂いのするものであるということはまず頭においておかないととんだ料簡りょうけん違いをするようになります。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
こう、親方の前だがね、ついこないだもこの手を食ったよ、料簡りょうけんが悪いのさ。何、上方筋の唐辛子だ、鬼灯ほおづきの皮が精々だろう。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仏頂寺の心では、この奴等を痛めて片輪にしてやるまでのこともなかろう、ただ後来の見せしめに、裸にしてやろうという料簡りょうけんだけらしい。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それは確かな証拠もある事ゆえに、それに相違はなかろうけれど、出世したところでこの家の娘を嫁に引取る料簡りょうけんでは、拙尼の方が丸潰れじゃ。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「なんじゃと? 野郎がおふくろを連れに帰ってきたって。とんでもねえこったわ。何で極道ごくどう野郎にそんな殊勝な料簡りょうけんが」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いっぽう彼の方では、心ひそかに妻のことを、浅薄で料簡りょうけんの狭い野暮な奴だと思って、煙たがって家に居つかなかった。
我ながらなんと云うけちな事を考えたものだろう。まるで奴隷のような料簡りょうけんだ。この様子では己はまだ大いに性格上の修養をしなくてはならない。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
思いきや! 鈴川源十郎の腰巾着こしぎんちゃく、つづみの与吉が、どういう料簡りょうけんか旅のしたくを調えて、今や自分の袖口に何か手紙ようのものを押し入れようとしている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
己たちぁどうも料簡りょうけんがいけねえようだ、お前も己もな。で、仲直りしなけりゃなるめえ。船があんなによろけせえしなけれぁ、己はお前をつかめえたんだがな。
お作はただの一度も、自分の料簡りょうけんで買物をしたことがない。新吉は三度三度のおかずまでほとんど自分で見繕みつくろった。お作はただのろい機械のように引き廻されていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
三十まえの、なま若い、料簡りょうけんのきまらない、たじれ切ったわたしにはあたまで無理なところだった。
春深く (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
よく、まるでなんの理由もないのに身辺の者を傷つけるという、けちな料簡りょうけんの人間があるものだ。
お父さん達の料簡りょうけんでは、未納か美伃か、どっちかをあの人に呉れてやるつもりだった。ところが須貝さんは美伃を選んだ。その他の事はあの人には関係の無いことですよ。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
平三郎、話はそこで聞いていたが、死ぬというのは悪い料簡りょうけんだ。おれは六十二だが、命のあるかぎりは、生きて行くのがつとめだと思っている。また、帰国の望みも捨てない。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「そうじゃあるめえ。おめえは、お春にそそのかされて、太え料簡りょうけんを起こしたんだろう?」
成行き次第だなんぞという料簡りょうけんになられては困るよ。そんな態度は、第一君の柄にない。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
やい、どういう料簡りょうけんでやってきたのだ。変な気取った芝居は止せ。友達が懐しかったら正直に、懐かしいと言うがよし、友達に存在を認めて貰いたかったら、きざな芝居は止すがよかろう。
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
三日滞在することに料簡りょうけんを決めてしまいましたが、散歩から帰って来ると、パパのお部屋も見せて上げましょうか? とスパセニアが、初めて東はずれにある父親の書斎を見せてくれました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
が、人一倍強情な爺やの方はともかくも、婆さんの方はよくそれまで辛抱したものですが、それは女の料簡りょうけんですから、たまには愚痴の一つも出るでしょう。そうすると爺やは大へんにおこります。
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「よし、きさまがそういう料簡りょうけんなら、こっちにもこっちの料簡がある」
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ふだんならば僕も、こんな乱暴な料簡りょうけんは起さないのであるが、どうやら懐中の五円切手のおかげで少し調子を狂わされていたらしいのである。僕は玄関の三畳間をとおって、六畳の居間へはいった。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
料簡りょうけんのタガさ。——大村益次郎、きっと死ななかったぞ」
流行暗殺節 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
お蔦 その料簡りょうけんでみッちりおやり。名は何ていうのだい。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
須永はその叔父の力をりてどうしようという料簡りょうけんもないと見えて、「叔父がいろいろ云ってくれるけれども、僕はあんまり進まないから」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「お里のおふくろが死んだ時に顔を出したのがなんで悪い。顔を出そうと出すまいと俺の勝手だ。貴様たちにおれの料簡りょうけんがわかるか」
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
出しては読み出しては読み、差し上げる手紙を書く料簡りょうけんもなく、昨夜ひとばんらちもなく過ごしました。先夜はほんとに失礼いたしました。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
敢然として世に闘いをいどんでくれよう、という料簡りょうけんから、恰好かっこうな挑戦の相手として白樺派に白羽の矢を立てたのではあるまいか。
文壇昔ばなし (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ありゃお前悪い料簡りょうけんだぜ、巳之はあれから身を持ち崩して、泥棒、家尻切やじりきり、人殺しまでやるそうだ、言わば十二支組の面汚しさ。
「そういう料簡りょうけんではお相手が勤まらん。明日あすとはいわぬ、今日唯今ただいま、帰りなさい。さあ。帰りなさい。自分の家へ帰りなさい」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
第一、きさまのような間違った料簡りょうけんで、先生の心が解るのかよ! お前は不賛成でも己は賛成だか、お前は不服でも己は心服だか——知れるかい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つきあい仲間のインテリ連中は、誰も彼も、料簡りょうけんは狭いし、感じ方は浅いし、目さきのことしか何も見えない——つまり、どだいもうばかなんです。
だから源五としては、初めは処女のようでも、居直ッてしまったからには、時親の首に縄を付けてでも連れ帰る料簡りょうけんなのはいうまでもないのであった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仕方の無いもので、九尺梯子くしゃくばしごは九尺しか届かぬ、自分の料簡りょうけんが其辺だから家勝には其辺だけしか考えられなかった。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おいらの料簡りょうけんひとつで、雨が降るんだ。おまけに、蓮果はちすでも外してみろ。それこそ土砂降りさ。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
……といっても、それは、そうした事業家らしい料簡りょうけんの、そのなつかしいおもてつきの一部の改築して簡易な食堂をこしらえたり、湯滝ゆだきをはじめたり、花壇を設備したりした。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
おせんにゃもとより、内所ないしょしてわたした品物しなもの今更いまさらきゅうかえほどなら、あれまでにして、ってきはしなかろう。おかみさん。おまえ、つまらない料簡りょうけんは、さないほうがいいぜ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
兵馬を、さしまねいた仏頂寺弥助の気色きしょくなんとなく穏かならず、どういう料簡りょうけんか、近づく兵馬を尻目にかけて、腰なる刀を抜いて青眼に構えたのは、意外でもあり、物騒千万でもある。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「姉さんから、うちの人の料簡りょうけんを訊いて見て下さいよ。」と言った。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そこで死に身になって料簡りょうけんを逆に取りましてね。
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「うん、好い料簡りょうけんだ。」