たす)” の例文
かの時妾目前まのあたり、雄が横死おうしを見ながらに、これをたすけんともせざりしは、見下げ果てたる不貞の犬よと、思ひし獣もありつらんが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
農奴として斬らるべき運命の身をたすけられて、多景島までかくまわれ、ここで弁信に托して一命の安全を期し得たのは、つい先日のこと。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
洞窟の中に、大きながけくずれが起こり、その土砂の下から数百数千の魚人が血だらけになってたすけをもとめているのであった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
やがて行く手の岐阜へ迫れば、当然、家康めは、手兵をひッさげて、わがうしろをふさぎ、織田をたすけるに相違なかろう。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「非常な心配だナ」と、川地は冷笑しつゝ、「其れなら我輩も一ツ善根の為めに、貴様をたすけて篠田を一生娑婆しやばの風に当てないやうにしてらう」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それから船橋ブリッジの前にブラ下げて在った浮袋ブイ一個ひとつ引っ抱えて上甲板へ馳け降りた。船尾から落ちた連中をたすけて水舟に取付かせてやるつもりだった。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
作太郎は眼を瞑って人はどうしてこういうとき死なないのだろうと悔いながら何のたすけも見出されない今の自分を世の中のたった一人の孤独と感じた。
百喩経 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この三段の連絡がうまくとれて、クラニの監獄から、たすけにきてくれる手配がついたと、ウォーキー・トーキーが伝えてきた時には、やれやれと思った。
黒い月の世界 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「初めはあなたが殺そうとし、次に私が殺そうとしたのを、たすかって置きながら、とうとう三番目の強盗に殺されるとは、よくよく殺される運だったのね」
罠に掛った人 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「うむ……それはいかん。日本人であることが不幸だった。せっかくたすけてあげたが、このまま帰りたまえ」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
この住居をも含めて、とうてい人をたすけるような状態ではない。それなのに、おれをここまで背負って来て、少ない米の粥を作り、治るまで看病をしてくれた。
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
神がこの世にいますなら、どうかたすけてください、どうか遁路にげみちを教えてください。これからはどんな難儀もする! どんな善事もする! どんなことにもそむかぬ。
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
が、信一郎のそうした心遣いを、たすけるように、舞台では今丁度幕が開いたと見え、廊下には、遅れた二三の観客が、急ぎ足に、座席シートへ帰って行くところだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
『やア、大佐たいさ叔父おぢさんが、風船ふうせんたすけにたんだよ/\。』と日出雄少年ひでをせうねん雀躍じやくやくした。
「いや、今日は。私はこの地方の飢饉をたすけに来たものですがね、さあ何でもべなさい。」と云いながら、一人の目のするどいせいの高い男が、大きなかごの中に、ワップルや葡萄ぶどうパンや
「危い/\、そんなに走られては堪まらない。——雪さアん、たすけて呉れえ!」
ダイアナの馬 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
かんじんの諜報網ちょうほうもうがだらしがないですからな、あの支那人なんかどうです、もう一と息というところで、日本の子供にしてやられるなんて、あんなやつたすけてやる必要なんかなかったですよ
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
たすけ様とする事はよいことかもしれないけれ共実際に於て生存に堪えないものを一度一時的に救助したからと云って終生の幸福を計ってやることは出来ないのだから救わない方がよいのである。
この人は世馴れた知識を応用して、世馴れない人をたすける方のがわだと感心した。こいつを逆にして馬鹿にされつけていたから特別に感心したんだろう。そこで安さんの云う通り長屋へ上って見た。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「呼びましょう……たすけを呼びましょう。」
テン太郎さーん 早くたすけて下さい
「よく機をつかんで、予の急をたすけ、予に近づいたのも、一方の将たるに足る才能である。神妙のいたりだ。郷土にもどって、汝南の守りにつくがいい」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あの強い反動と、歯止めのきしる音は、今まで快速力を楽しんでいた乗客には、かなり不快なことに違いはありません。しかしそのため乗客は生命をたすかります。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
フイちゃんはまだ生きてたんです。多分、日本人のあっしをたすけるためにギャング仲間を裏切ったかどで、デックの配下てしたに拷問されて気絶していたものなんでしょう。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「人道上ほうっておけない、人々はだれも自由をうる権利があるんだ。ついては、だれがたすけに行くか」
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ソーントンがお父さんを連れて行く途中で、待ち伏せていた僕は、ソーントンにピストルをつきつけて、お父さんをたすけて、代りにソーントンを地下室に入れておいたのだ。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「まったくだ。こいつは、まるで革の船みたいだね」たすかったとおもったら、急に眠くなった。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
五郎、太刀の柄ばかり握って、既に危く見えけるを、弟六郎と宗六透間すきまもなくたすきたる。
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ひそかにたすけ得させべくばたすけも得さすべきを、われも汝をかくすべきえにし持つ人間なればぞ、哀れなるものよ、むしろ汝は夜ごとの餌に迷ふよりは、かくてこのままこの係蹄わなに終われ。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
騎士はそのうちの一つの窓に、間もなくともるであらうランプの光りを待たなければならなかつた。ブラツク・キングと称する化物に囚はれの身になつてゐる恋人を、騎士はたすけ出しに来たのである。
鸚鵡のゐる部屋 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
かつはこのほどより乳房れて、常ならぬ身にしあれば、おっと非業ひごう最期さいごをば、目前まのあたり見ながらも、たすくることさへ成りがたく、ひとり心をもだへつつ、いとも哀れなる声張上げて、しきりにえ立つるにぞ
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
駒井能登守の手にたすけられたことがある。
彼としては、この城には、なお守将の荒木村重がいるものとのみ思っていたし、たとえ織田勢が攻め入っても自分をたすけに来るわけもないと考えていたのである。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「せっかく、たすけて頂いたようなものの、行先の覚束おぼつかなさ、途中とちゅう難儀なんぎ、もう一足も踏み出す勇気はございません。いっそこの川へ身を投げて死にとうございます」
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「いいえ、たしかに、あの大渦巻に捲き込まれていたのです。僕等は、その幽霊船の甲板から、風船で脱れたのです。博士たちは、船に残っているンです。たすけて下さい」
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
行きなり放題に飛込んで、たすけを求めるかと思うと、進行中の電車や汽車に飛び乗りかけて、跳ね飛ばされたりするので、トテモ剣呑けんのんで仕様がないのです。……ええ……そうなんです。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「いやァ、たすけて下さい」政は、ポロポロなみだを出して、わめくのであった。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
御身がかつてたすけたる、彼の阿駒おこまこそ屈竟くっきょうなれど。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
たすけてやれ、おい船頭!」
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
それに丹羽長秀の三千人もそれをたすけている。いかに、藤田伝五やその骨肉どもがみな豪勇であっても、到底、刀槍をもって掻き分けられるような薄手な線ではない。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なんとしても僕らはこの島からたすかるチャンスにめぐまれたんだ」
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「知らずにおたすけしたのでございますが、ここへ連れて来てみると、わたくしのお出入り先で、わたくしの最も尊敬している甲州流の軍学者、小幡おばた先生の御門人ではございませんか」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「た、たすけて! で、電気、電気だ。感電だ!」
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「じゃセキストン伯爵をたすけに出発ですか」
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)