慳貪けんどん)” の例文
物言ふは用事のある時慳貪けんどんに申つけられるばかり、朝起まして機嫌をきけば不圖脇を向ひて庭の草花を態とらしき褒め詞
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
即ち慳貪けんどんそばから来たものであって、慳貪とは、吝嗇けちの事、引いては安直という意味になり、つまり御手軽に安直に食べられるそばの事である。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
その身振りをながめ、またその男の服装と荷物とを見て取って、テナルディエの上さんの愛想顔はまた慳貪けんどんになった。彼女は冷ややかに言った。
併し、御者のわざ/\斯う訊いたのは決して言葉通りの意味でないことを私は直ぐ感じた。此奴、驛前の宿屋で聞いて來たナ、と思ひながら慳貪けんどん
熊野奈智山 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
苦しいのはお互ひさまではないか! と斯う彼女の弱音に荒々しい批難と突つ慳貪けんどんな叱聲を向けないではゐられないエゴイスチックな衝動を感じた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
不機嫌ふきげんそうに勝手の間の入口に立って、何ですと慳貪けんどんに問懸けるを、秋元の女房は下から上へじろりと見て、お坐んなさいと自分の座を少しさがり
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
案に相違して、慳貪けんどんに、両袖を払った新九郎は顔を上に反向そむけて、わざと、言葉まで常より荒い伝法づかい。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから谷の深い処にはこまかなうすぐろい灌木かんぼくがぎっしり生えて光を通すことさえも慳貪けんどんそうに見えました。
マグノリアの木 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
と、如何にも慳貪けんどんにピシャリと障子を立て切って了った。面喰った苦学生はそこ/\に逃げて行ったが、親父はまだ眼を怒らし、せい/\息をはずませて
The Affair of Two Watches (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
妻は慳貪けんどんにこういって、ふところから塩煎餅しおせんべいを三枚出して、ぽりぽりと噛みくだいては赤坊の口にあてがった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
…………阿父さんは、晃兄さんには仕方が無いけれど、阿母さんに何故あゝ慳貪けんどんに物を被仰るんだらう。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
いわくマルサスのバラセ町へ貧僧来り、富家に宿を求めると、主婦無情で亭主慳貪けんどんの由言って謝絶した。
「奥に寝ている様子でしたが、親父があんまり慳貪けんどんなんで、気を揉んで起きて来ましたよ。少しやつれてはいたが、好い女ですね、あれは。親分のめえだが——」
世には大なる福分を有しながら慳貪けんどん鄙吝ひりんの性癖のために、少しも分福の行爲に出でないで、憂は他人に分つとも、好い事は一人で占めようといふが如き人物もある。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
彼は養父母の手前始終自分に対してにこにこしていた父と、厄介物を背負しょい込んでからすぐ慳貪けんどんに調子を改めた父とを比較して一度は驚ろいた。次には愛想あいそをつかした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
然らばかれ安助あんじょを造らば、即時にとがに落つ可きと云う事を知らずんばあるべからず。知らずんば、三世了達さんぜりょうだつの智と云えば虚談なり。また知りながら造りたらば、慳貪けんどんの第一なり。
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
荒物屋でも買物をしたことがあるが、店番をしていた小女は眠そうな顔をしていて、手の甲にあかぎれをきらしていた。私はなんとなくこの家の主人は慳貪けんどんなのではなかろうかと想像した。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
その時母が父にもいかりを移して慳貪けんどんに口をきいたことをも思い出し、父のこと母のこと、それからそれへと思をつらね、果は親子の愛、兄弟の愛、夫婦の愛などいうことにまで考え込んで
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
慳貪けんどんっぱらわれ、彼女も度を失い、すごすご台所へ立って行くのであった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
おのれ善をなして、おのれそのむくひの来るを待つはなほきこころにもあらずかし。又悪業あくごふ慳貪けんどんの人のさかふるのみかは、寿いのちめでたくそのをはりをよくするは、一〇四我にことなることわりあり。
怒りの絶項に達したような突っ慳貪けんどんな声をあげてふと背後うしろを振り向いた途端
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
お勢のいうことが、出戻りを叱るような慳貪けんどんになったので、がんりきが
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
短気の石山さんが、どんな久さんを慳貪けんどんに叱りつける。「車の心棒しんぼうかねだが、鉄だァて使つかるからナ、おらァ段々かせげなくなるのも無理はねえや」と、小男こおとこながら小気味よく稼ぐたつ爺さんがこぼす。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そんな時に何なんですかと突っ慳貪けんどんに言って自分の顔を見る細君などはたまらないではありませんか。ただ一概に子供らしくておとなしい妻を持った男はだれでもよく仕込むことに苦心するものです。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
『何處でも可いぢやないか!』と、聲は低く、然し慳貪けんどんだ。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
慳貪けんどんなる商人あきびと方形はうけいひら大口おほぐちなり
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
慳貪けんどんに云う。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
物言ふは用事のある時慳貪けんどんまをしつけられるばかり、朝起まして機嫌をきけば不図ふとわきを向ひて庭の草花をわざとらしきことば
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
夢窓国師は、尊氏公の長所三ツを賞めて、一は生死に超脱ちょうだつしている、二には慈悲心ふかく人の非もよくゆるす、三には無欲恬淡てんたんで物に慳貪けんどんの風がない——と。その通りでございましょうか
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吝嗇りんしよくで、慳貪けんどんで、恥知らずで、怠けもので、強慾で——いやその中でも取分け甚しいのは、横柄で高慢で、何時も本朝第一の絵師と申す事を、鼻の先へぶら下げてゐる事でございませう。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
立膝たてひざ煙管きせるくわえながら盛り方が無作法だとか、三杯目にはもういい加減にしておきなさいとか、慳貪けんどんはずかしめるのもいやだったが、病気した時の苛酷かこくな扱い方はことに非人間的であり
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
『何処でもいぢやないか!』と、声は低く、然し慳貪けんどんだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
慳貪けんどんなるをとこ方形はうけいひら大口おほぐちなり
そぞろごと (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
平次の間は少し慳貪けんどんでした。
彼女は慳貪けんどんに言葉を返した。
物言ものいふは用事ようじのあるとき慳貪けんどんまをしつけられるばかり、朝起あさおきまして機嫌きげんをきけば不圖ふとわきひてには草花くさばなわざとらしきことば
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
兄はわたしを見下しながら、不相変あひかはらず慳貪けんどんにかう申しました。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
慳貪けんどんなる黒奴くろんぼ曲馬きよくば師は
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)