)” の例文
かくべつどこにきつけられたというのでもないその男を見ているだけで、なにやらゆたかにおおらかな気持が感じられたのである。
薯粥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
こちらの姫君に心をおかれすることになって、今ではもう世間のうわさにも上っているだろうと思われるまでになっているのですから
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
お登和嬢ひそかに兄の袖をき「そうすると大原さんは二、三日内に御出発なさるようになりましょうか」と今更別るるを本意ほいなく思う。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
現に白装束も髻が切れたのも、お種の注意をく喜三郎の細工だったとすれば、犯人は喜三郎ときめてしまって文句はないようです。
二人とも内容を関知せざる由にて、前記銅像の件と共に森栖氏の失踪にからまる不可思議の出来事として、関係者の注意をいている。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と知りつつも、つい竹の下にとどまったのは、足柄明神や民家の屋根もあるので、宮以下の陣座の便宜についかれての処置だった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしは、この間の言い合い以来、この男がいささかけむたくなったと同時に、しん底から彼にきつけられるような気持もしていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
少し大袈裟おおげさに云うならば、彼女を東京から関西の方へき寄せる数々の牽引力けんいんりょくの中に、この鮨も這入っていたと云えるかも知れない。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
波斯軍がアラビヤを過ぎ、いよいよ埃及の地に入ったころから、このパリスカスの様子の異常さが朋輩ほうばいや部下の注意をきはじめた。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
自暴半分に唯だ奇兵を用いて国民の耳目じもくこうとし、この度の不信任案提出は実にその奇兵の功を奏したものに外ならないのですが
選挙に対する婦人の希望 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
柔らかくみ合っている。前肢でお互いに突張り合いをしている。見ているうちに私はだんだん彼らの所作にき入れられていた。
交尾 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
いたに相違ありませんが、その認められ方、注意の惹き方というのが、到底、法然上人のそれと、比較になるものではありません
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
湖春の句は擬人法を用ゐし処に巧妙を感じたれど、半ば蓮につきての理想を描き出だせし処に、我嗜好をきし者ありしなるべし。
俳句の初歩 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
その時の僕のなごんできた気持はこの絵にかれたのです。値段も安かったので買って帰りました。箪笥の上に飾ってあるのがそれです。
わが師への書 (新字新仮名) / 小山清(著)
それから或る時はまた御前揮毫ごぜんきごうを致したこともあり、次第に人の注目をくようになって、親の身としては喜ばしく思っておりました。
梅の樹の、最も私達の美的情緒びてきじょうちょくのは、なんといっても、やはりその樹形じゅけいの節くれだってひねくれているところだと思います。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
脚本と批評はこれに次ぐべき重要の因数ファクトーに相違ないが、分量からいっても、一般の注意をく点からいっても、遂に小説には及ばない。
文芸委員は何をするか (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
でもあたしは、ここの湖にきつけられるの、かもめみたいにね。……胸のなかは、あなたのことでいっぱい。(あたりを見回す)
随って『国民之友』の附録は著るしく読書界の興味をき、尋常小説読者以外の知識階級者の注目をも集めて世評の焼点となった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
或日、東金君は鼻に膏薬を張って出勤して、皆の注目をいた。交通事故に引っかゝって、大難が小難で済んだという説明だった。
村一番早慶戦 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
この「てれめん」の轆轤首ろくろくび問題は、あまりわたしの興味をかなかったが「妹背山」と「膝栗毛」とは大いにわたしを喜ばせてくれた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
打ち解けたときの女の様子や口の利き方には心をかれるところがあったが、温かい感情の融け合うようなことはあまりなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「アヽ楽や」の句は一応人を驚かすに足るけれども、再三読むに及んでは、蚊帳の中を光弱げに飛ぶ元禄の蛍の方に心がかれて来る。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
『少將は心弱き者、一朝事あらん時、妻子の愛にかされて未練の最後に一門の恥をさらさんもはかられず、時頼、たのむは其方一人』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
杉野子爵の長男直也なおやは、父に似ぬ立派な青年だった。音楽会で知り合ってから、瑠璃子は知らずらずその人にき付けられて行った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その署名には、恐ろしい力できつけるようなものがあった。しばらく釘付けになっているうちに、まず直情的な熊城くましろが気勢を上げた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
女のもといたあたりに何となく心がかれるのでそちらへ廻って行って、横町を歩いていると、向うの建仁寺けんにんじの裏門のところを、母親が
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
それ程その女は私の心をいたのだ。彼女は青白い顔をしていたが、あんなに好もしい青白さを私はつて見たことがなかった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
まだ何やら訊いてみたいような気もしたが、人目をくのがいやさに、小平太は茶代を払って、そこそこに茶店を出てしまった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
章一はちょと咳をして女の注意をくなり、その時発車しようとしている電車の前の方へ乗ると、女はすましてその電車のうしろから乗った。
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
伸子の心はモスクヷ暮しの第一日から、ここにある昼間の生活にも夜の過しかたにも、親愛感と緊張とできつけられて行った。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その上、美しい少年のおもては満員の乗客の注目をいて、乗客たちは言い合せたようにジロジロと少年の姿ばかりに視線を送った。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
実際思兼尊の言葉は、真面目とも不真面目ともつかない内に、蜜か毒薬か、不思議なほど心をくものがひそんでいたのであった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いったい日本人は花のにおいに冷淡れいたんで、あまり興味をかないようだが、西洋人と中国人とはこれに反して非常に花香かこう尊重そんちょうする。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
刀自たちは、初めは、そんなから技人てびとのするような事は、と目もくれなかった。だが時が立つと、段々興味をかれる様子が見えて来た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
それは嵐のような拍手をき起した。手を夢中にたたきながら、眼尻を太い指先きで、ソッとぬぐっている中年過ぎた漁夫がいた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
絞染が心をくのは、やはりその多くが漬染つけぞめの道を守るからではないでしょうか。それにどこか日本味のあらわなもののように感じます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
唯、岸田と云ふ、これは強敵だと思ふ男が現れたのは何とも不愉快だ。ひよつとすると、彼女はかれてゐるんぢやないか。疑へば疑へる。
現代詩 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
石坂家は、この地方では有数の豪農で豊かに生活し、城郭のような屋敷を構えていることも世間の思慕をいている理由であるに違いない。
岩魚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
この輝く虫は花には降りずに、ベアトリーチェに心をかれてか、やはり空中をさまよって彼女の頭のまわりを飛びまわった。
所も時もともに一変し、わたしは最もわたしをきつけた、宇宙のうちのある部分、歴史のうちのある時代に、より近く住むようになった。
それはまずよかったけれど流石さすがの元気男の弥太郎も苦労したと見え、また永年の酒のたたりもあって中気をき起してしまった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
近世においては原因は結果(ドイツ語では Wirkung)に対してこれをき起す、働き出す(wirken)という意味をもっている。
科学批判の課題 (新字新仮名) / 三木清(著)
が、それだけにまた一層、いましがたそういう人達の中にまじっていった二人のポオランドの少女が私達の心をいたくいた。
木の十字架 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
額の広い割に、眼が細く、色の白い娘だつたが、愛嬌にとぼしく、何処どことなく淋しみのある顔立ちが人の眼をかなかつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
彼は自分の弱味によってき起した醜さ悲惨さを意識し得る強さをも持っているのだ。そしてその弱さを強さによって弥縫びほうしようとするのだ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
我はくすしき物ありてわが目をこれにけるところに着きゐたり、是においてかわが心の作用はたらきをすべて知れる淑女 二五—二七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ただわけもなくきつけられて、ちょうどあの黙々とした無心に身体をがしつづけている螢の火にじっと見入っている時と同じ気持になり
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
それは奇妙な装置でもあったが、私の興味をいたのは、それが奇妙なことよりも、むしろ生々なまなましい感じがしたからだった。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
愛嬌あいきょうしたたるような口もと、小鹿が母を慕うような優しい瞳は少くとも万人の眼をいて随分評判の高かっただけに世間の嫉妬ねたみもまた恐ろしい。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)