悔悟かいご)” の例文
大へん悔悟かいごしたような顔はしていましたが何だかどこかき出したいのをこらえていたようにも見えました。しょんぼりだんに登って来て
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
彼女が「おもはゆげに」罪を謝したと云う「道阿弥話」の記事は、いかに此の夫人が己れの悲しむべき過失を悔悟かいごしたかを語っている。
重治はよろいのたもとを探って、べつに一通の書面を取出した。そして、凝然ぎょうぜん悔悟かいごに打たれている官兵衛の手へそれをそっと渡して告げた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この機会を失うことに惜しからざらんや。幕府初めは墨夷を借りて諸夷を制し諸侯を抑えんと欲す。しこうして今は何となく悔悟かいごの色あり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
このおんなもすぐさまそれとがついて、んだ心得違こころえちがいをしたとこころから悔悟かいごして、ぬることをおもいとどまったのでございました。
で、貴方の悔悟かいごされたのは善い、これは人として悔悟せんけりやならん事。けれども残念ながら今日こんにちに及んでの悔悟はすでおそい。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そしてそれが人間の心境しんきょうに影響すれば、悪人あくにん善人ぜんにんになるであろう。すさんだ人もみやびな人となるであろう。罪人ざいにんもその過去を悔悟かいごするであろう。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「さようさ」と老師は打ち案じたが、「悔悟かいご致して善道につくと、もし誓言致すようなれば放逐ほうちくなされてもよろしかろう」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「何も悔悟かいごしているものに罪をきせることはないのだからね。死ぬ者貧乏だよ。それにあいつは希代の悪党なんだから」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
妾も覚えず慄然りつぜんたりしが、さりながら、と鋭敏の性なりければ、く獄則を遵守じゅんしゅして勤勉おこたらざりし功により、数等を減刑せられ、無事出獄して、大いに悔悟かいごする処あり
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
こっちは悔悟かいごして、坊主にでもなろうと云うんだ。……いずれ精進には縁があります。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「兄は十分にこのうえもない誠意をもって、あなたに悔悟かいごの念を表わすはずです。あの広場で膝をついてまでも……無理にそうさせます。でなかったら、もう僕の兄じゃありません!」
どこやらの溝池どぶいけでコロコロとかわず鳴音なくねを枕に、都に遠い大和路の旅は、冷たい夜具やぐの上——菜の花の道中をば絶望と悔悟かいごつ死の手に追われ来た若者……人間欲望の結局に泣いて私は
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
これ以上の折檻は、お前のためにもわしのためにもいたずらに空腹を覚えさせるだけのことだ。それゆえ折檻はこれだけにしてやめる。そこへ坐れ。三郎は泣く泣く悔悟かいごをちかわされた。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
たちま輪回応報りんえおうほうして可愛い我子を殺し、あゝ悪い事をしたと悔悟かいごして出家になるも、即ち即心即仏じゃ、えゝ他人を自分の身体と二つあるものと思わずに、欲しい惜しいの念を棄てゝしまえば
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼等が向上進歩すべき唯一の望みは、ただ悔悟かいごと、高級霊の指導と、又一歩一歩に、罪深き悪習慣から脱却すべき永遠の努力とより以外には絶対にない。そう言った未発達の霊魂の数は実に多い。
不埓の所業仕候段慚愧ざんきに堪えず候間、重なるわが罪悔悟かいごのしるしに、出家遁世仏門しゅっけとんせいぶつもん帰依きえ致し候条、何とぞ御憐憫ごれんびんを以て、家名家督その他の御計らい、御寛大の御処置に預り度、右謹んで奉願上候。
博士の悔悟かいご
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「一に、先帝の高徳をしのび、それの報恩のためと、またみずからの悔悟かいごをなぐさめんとする念も、正直、ないではありません」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悪魔そのものがひそんででもいない限り、一目この姿を見たならば、立所たちどころ悔悟かいご自白すべき筈である。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ただ神の正義を伝えんが為にここに来た。諸君、諸君は神を信ずる。何がゆえに神に従わないか。何故に神の恩恵おんけいこばむのであるか。すみやかにこれを悔悟かいごして従順なる神のしもべとなれ。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この上はみずから重井との関係を断ち翻然ほんぜん悔悟かいごしてこの一身をば愛児のためにささぐべし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
さきに叡山えいざんを焼き払って、自分の態度は、厳然と示してある。よって、しばらく彼らの反省と悔悟かいごをわしは待っていたのだ。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
或は飜然ほんぜん悔悟かいごして、和製女ヴィドックとなるか。それとも又、江川蘭子は忽然姿を消し去って、全く別の人物が舞台を占領するか。凡て凡て、この作者は何も知らないのである。
江川蘭子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
もはや人道の大義を説くの必要なし、ただ一死以て諸氏に謝する而已のみと覚悟しつつ、兄に向かいてかばかりの大事にくみせしは全く妾の心得違いなりき、今こそ御諭おんさとしによりて悔悟かいごしたれ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
とのさまがえるはホロホロ悔悟かいごのなみだをこぼして
カイロ団長 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
彭義は大いに後悔して、獄中から悔悟かいごの書を孔明へ送り、どうか助けてくれと、彼の憐愍れんびんに訴えた。玄徳もその陳情を見て
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あなた方は、では、私が今その恐ろしい罪悪を悔悟かいごして、懺悔ざんげ話をしようとしているかと早合点なさるかも知れませんが、ところが、決してそうではないのです。私は少しも悔悟なぞしてはいません。
赤い部屋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
傷は、日にましてくなって行ったが、お信も、それを心にむらしかった。兄に対して、何か、悔悟かいごと、叱責しっせきを、恟々おどおどと待つ気ぶりも見える。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一滴いってき悔悟かいごのなみだの後には、法然上人と師の親鸞から、そのままのすがたですぐ往生おうじょう仏果が得られるものだと説かれたあの時のことばを思い出して——
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ただ、慚愧ざんきでござります、悔悟かいごの念でござります。そして一時もはやく、自責の苦悶からのがれたいために」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
迂作、この一篇も、悔悟かいごの古塔を巡礼しながら、古典に曳く鐘の余韻に、今日は末世か創世か、もいちど、無常の真理を聴こうと思うものであります。(二五・九・三)
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、老先生は、ちと、むずかしい顔をしたが、羅門の悔悟かいごが、偽りではないらしいと見て
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
汝、それほどに自己の行状おこないを恥じるならば、なぜ、ここへ出て、両手をつかえ悔悟かいごの真実を示すなり、世上へ謝罪の法を執るなりせぬか。それとも、異論あらば、論議するか。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と見なし、また尊氏兄弟は、それへの悔悟かいごと罪ほろぼしのために、ここに、恒久の平和を祈って、人類の苦悩迷妄を救うべき一大寺の建立こんりゅうを思い立ったものであると、宣誓していた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「願わくば、悔悟かいごの兵らに、王威の恩浴を垂れたまえ」と、軍門に降ってきた。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お綱が悔悟かいごした真情にたれて、思わずこう共鳴してしまったが、そうなるといよいよかれは、お綱がスリの足を洗うためにも、あの約束を固く守ってやらなければならない負担を強く感じる。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この急速なはからいはまた、もちろん藤井紋太夫の悔悟かいごの実証と、夜来からの奔走を明らかに語るものだった。夜前やぜんさんとして、老公の前を去ってからおそらく紋太夫は一睡もしなかったであろう。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「わかりません、まったくわからぬ女です。……が、察しまするに、これまで自分が考えていた足利の大殿というものと、目に見た殿とは、まったくちがっていたと、いたく悔悟かいごねんに打たれたものと思われまする」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宅助はまず九分までお米の悔悟かいごを信じた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悔悟かいごのいろが、ばばのおもてには溢れていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)