しりえ)” の例文
と、言葉少なに仰せられ、やおらしとねからお立ちになり、蓬生の案内に従って、しりえに八人の従者を連れ、戸野兵衛の寝室へ入られた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あたかも欧州戦前のバルカンの如く、日露戦前の竜岩浦りゅうがんぽの如く、如何なる名外交家といえどしりえ瞠若どうじゃくたらしむるていの難解問題となっているのであるが
謡曲黒白談 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼は、乱れた髪を微風に吹かせながら、馬上にこうべをめぐらして、しりえにののしり騒ぐ人々の群れを、誇らかにながめやった。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
見渡す青葉、今日しとしと、窓の緑に降りかかる雨の中を、雲は白鷺しらさぎの飛ぶごとく、ちらちらと来ては山の腹をしりえに走る。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寄手よせて丘の下まで進みて、けふの演習をはり、例の審判も果つるほどに、われはメエルハイムとともに大隊長のしりえにつきて、こよひの宿へいそぎゆくに
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
仕方なしに、もう出鱈目で、「前に聳えしりえに望む、一夫関に当れば、万夫も通さず、かくこそありけめ往時の武夫」
箱根の山 (新字新仮名) / 田中英光(著)
騎馬の上手は、天稟てんぴんだった。市川大介が師範であったが、近頃は独り乗りこなして、むしろ大介をしりえに見ていた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人もしかしらたらんと思わば、すべての人のしりえとなり、すべての人の役者えきしゃとなるべし。おおよそわが名のためにかかる幼児の一人を受くる者は我を受くるなり。
吉原冠りに懐ろ手、——何処どこいざなう風であろうと、吹かれて行こうといったような闇太郎をしりえに従えた、門倉平馬、土部三斎隠居屋敷、通用門の潜りを叩いて
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
日本語をくする事邦人に異らず、蘇山人そさんじん戯号ぎごうして俳句を吟じ小説をつづりては常にわれらをしりえ瞠若どうじゃくたらしめた才人である。故山こざんかえる時一句を残して曰く
きず持つ身のたちまち萎縮して顔色を失い、人のしりえ瞠若どうじゃくとして卑屈慚愧ざんきの状を呈すること、日光に当てられたる土鼠もぐらの如くなるものに比すれば、また同日の論にあらざるなり。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しりえふりかえりて見れば、真白なる猟犬かりいぬの、われを噛まんと身構みがまえたるに、黄金丸も少し焦燥いらつて
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
暫らくして昇も紳士のしりえに随って出て参り、木戸口の所でまた更に小腰をかがめて皆それぞれに分袂わかれ挨拶あいさつ、叮嚀に慇懃いんぎんに喋々しくべ立てて、さて別れて独り此方こちらへ両三歩来て
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その時予のしりえにあって攩網たま何時いつか手にしていた少年は機敏にとその魚をすくった。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「吾、大夫のしりえに従うをもってなり。故にあえて言わずんばあらず。」無駄とは知りつつも一応は言わねばならぬおのれの地位だというのである。(当時孔子は国老の待遇たいぐうを受けていた。)
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
? 茶釜ちゃがまでなく、這般この文福和尚ぶんぶくおしょう渋茶しぶちゃにあらぬ振舞ふるまい三十棒さんじゅうぼう、思わずしりえ瞠若どうじゃくとして、……ただ苦笑くしょうするある而已のみ……
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
木鹿は大きくうなずいて、例の如く蔕鐘ほぞがねを打ち鳴らし黒風を呼んで、しりえなる猛獣群を敵軍へけしかけた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すべての人のしりえとなり、すべての人の役者えきしゃとなることが私どもの生活態度であるべきごとく、偉人崇拝でなく、弱者に対する憐憫が私どもの人間観でなければなりません。
不意の救いに驚いたのであろう、阿濃あこぎはあわてて、一二けんいのいたが、老人のしりえへ倒れたのを見ると、神仏かみほとけをおがむように、太郎の前へ手を合わせて、震えながら頭を下げた。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
箱根の山は、天下の険、函谷関も物ならず、万丈の山、千仭の谷、前に聳えしりえに支う。
箱根の山 (新字新仮名) / 田中英光(著)
われはメエルハイムとともに大隊長のしりえにつきて、こよいの宿へいそぎゆくに、中高なかだかにつくりし「ショッセエ」道美しく切株残れる麦畑の間をうねりて、おりおり水音の耳に入るは
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
万一のため、市の附近に、あちこち立っていた御小人おこびとたちも集まると、かなりな人数になり、縄目の法師四人を、列のしりえにつれて、やがて稲葉山の城門へかくれて行った。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
がらりと閉め棄てに、明のせな飛縋とびすがった。——真先まっさきへ行燈が、坊さまの裾あたり宙を歩行あるいて、血だらけだ、と云う苦虫が馬の這身はいみ、竹槍がしりえおさえて、暗がりを蟹が通る。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして、その息を——一息抜くまに、五郎左衛門の駒は、鮮やかに彼を追い越し、ぱっと、砂塵をしりえに浴びせて、なお、馬場を半廻りも先まで、馬の余勢なりで跳んで行った。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小宮山は論が無い、我を忘れてしりえどうと坐りました。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして、客殿の前まで来ると、いて来た道空、丹後の二家老を、しりえに見
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一礼をして、ずっと通り抜けると、人々の眼をしりえに、裏門から出て行った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ところで、もと東京とうけい殿司でんす制使楊志ようしが、流されて一兵卒に落され、今日も余の供としてしりえに来ておる。彼は近衛このえの一将として、武芸十八般にひいでた男。——彼とここにて、槍術を競べてみせい」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)