強力ごうりき)” の例文
体重はないし、あいては有名な強力ごうりき足軽、ずるずるッと酒屋の軒下まで持ってゆかれた。あたりに見ていた近所界隈かいわいの老若男女は
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何となれば若かった昔は強力ごうりきで容易にその棒を振り廻わすことが出来たけれど、今は、それを振り廻すだけの力がないのである。
薔薇と巫女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
我が同類を殺しはせぬかとうたぐっての事であろう、もっとも千万、しかわれ強力ごうりきに恐れてか、温順おとなしくなったとは云うものゝ、油断はならぬわい
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
かつて弥兵衛さんという人は一人も無いから、これは、このたびの山道に、臨時にやとった山の案内者か、強力ごうりきかなにかであろうと思われます。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
船長ノルマンは、有名な強力ごうりきだったから、巨人ハルクのうでをかたにかけ、彼の巨体を、ひきずるようにして、どんどん埠頭ふとうの方へいそいだ。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのあとからりにった強力ごうりき犯専門ともいうべき屈強の刑事が三名と、その上に熱海検事、古木書記までも出かける準備をして降りて来た。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
鉄槌かなづちで叩いたのでなければ、恐ろしい強力ごうりきです、——どうして刺したろう——平次はフトそんな事を考えておりました。
塩原から雇って来た強力ごうりき殿の足の早いこと、およそ五、六貫位の重荷であるが、平気でドンドン行く。鉄脚自慢の我々もゴシゴシ引張られて閉口した。
田の原の宿を出たのは朝の四時、強力ごうりきともして行く松明たいまつの火で、偃松はいまつの中を登って行く。霧が濛々もうもうとして襲って来る。風が出て来た、なかなかにはげしい。
木曽御嶽の両面 (新字新仮名) / 吉江喬松(著)
測量部の測夫たちは多年こうした仕事に慣れ切っていて、一方では強力ごうりき人夫の荒仕事もすると同時にまた一方ではまめやかな主婦のいとなみもするのである。
小浅間 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
勢い込んで登る人もあったが、私は初めから覚悟をしていたので極めて大事をとって徐々として歩いた。荷物を脊負っている強力ごうりきも決して早くは歩かなかった。
富士登山 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
相手が父の妻であろうが、何であろうが、たゞ美しい女としか映らない男である。それに人並外れた強力ごうりきを持っている彼は、どんな乱暴をするかも分らなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そこは御嶽山おんたけさんにのぼる黒沢口からさらに一里ほどの奥に引っ込んでいるので、登山者も強力ごうりきもめったに姿をみせなかったそうです。さてこれからがお話の本文ほんもんと思ってください。
木曽の旅人 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
案内の強力ごうりきは佐平と云って、相当老年ではあったけれど、ひどく元気のよい男であった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
岩はななめに流れをいて、淙々そうそうとたぎる春の水に千年ちとせこけを洗わせていた。この大岩をもたげる事は、高天原たかまがはら第一の強力ごうりきと云われた手力雄命たぢからおのみことでさえ、たやすく出来ようとは思われなかった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
四合目となると、室も今までのように木造でなく、石を積み重ねた堡塁ほうるい式の石室となる。海抜二千四百五十米、寒暖計六十二度、ここで大宮口の旧道と、一つになるのだと強力ごうりきはいう。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
これで、関守富樫左衛門の疑も晴れ、通れ、と許しが出る。が、強力ごうりき姿の義経が、判官に似かよっている事から、一同は再び引きもどされる。弁慶はじめ、四天王の面々は、はっ、と驚く。
実際高野聖は行商か片商売かたしょうばいで、いつも強力ごうりき同様に何もかも背負うてあるいた。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
油部屋の者が駆けつけて来、こぶの清七がその強力ごうりきにものをいわせたのだ。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
逸早く彦兵衛が捜して来た物干竿の先に、御用十手が千段巻に捲きつけられて、足場を固めて立ちはだかった強力ごうりき勘次、みるみる内に竿の鍵へ手を引っかけて猫の仔みたいに男一人を釣り上げた。
自己をねらう九人目の男がある事を知りつつ、その悠然落ち付き払っておる剛胆、傲岸、沈着、普通人の出来ない芸当で、すべてこれ歴々たる勝算あるもののごとき態度は、強力ごうりき、不屈、剛気、闊達
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
知能犯掛りも強力ごうりき犯掛りも、額を集めて協議した。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
強力ごうりき
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「あッ!」ドタリと前へころんだところを、すかさずかけよってねじつけた、蔦之助の強力ごうりき。それには竹童ちくどうも泣きそうになった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁度いい塩梅あんばいに、帆村が向うの喫茶ギボンの女給に頼んだ電話によって、強力ごうりき犯係の一行が現場に到着したので危く難をのがれることができた。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何しろ太刀山たちやまみたいな強力ごうりきに押えられているんでゲスから子供に捕まったバッタみてえなもんで……ウッカリすると手足がげそうになるんです。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
恐ろしい強力ごうりきに締められたものと見えて、喉仏は砕け、顔色は紫色にれ上がって、二た眼と見られない悪相ですが
その五人の強力ごうりきというのはいったい何者なんでございます、それほど大事なものを持って、わざわざこんな道をくぐり抜けて甲府へ落着こうというのは
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼もまた死人を見たいと云う、人間に特有な奇妙きみょうな、好奇心にとらわれてしまった。彼は幾何いくばくかの強力ごうりきをもって、群衆の層の中へと、自分の身を割込わりこませて行ったのである。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「では、福島の方へ引っ返しましょう。そしてあしたは強力ごうりきを雇って登りましょう。」
木曽の旅人 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
右門は五右衛門の強力ごうりきを心ひそかに嘆じながら、今は遁がれぬ必死の場合、両手を岩に打ち掛けて、金剛力は出しても、地の中深く喰い込んだ苔蓬々ほうほうたる孕石はらみいしは、身弛みゆるぎ一つすればこそ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
翌朝強力ごうりきを雇って宿を出発したのが七時。これからいよいよ高原越え、元気はますます加わる。塩原古町ふるまちから一里ほど人里放れた山の中を行くと新湯あらゆに出る。ここらでチョイトひと休み。
頼んだ強力ごうりきのくるまで、欄干によって庭を見ている。枝振りのいい松に、頭を五分がりにした、丸々しいツツジや、梅などで囲んだ小池があって、かけひからの水がいきおい込んで落ちている。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
それがこの憐むべき強力ごうりきの若者の最期さいごであった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
強力ごうりきを頼んで、二日や三日は遅れてもかまわないから、あとから来て下さいと言って置いて、白骨を抜け出すには抜け出したが、お雪ちゃんの本心を言うと
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おびふえを抜くよりはやく、れいの合図あいず、さッと打ちふろうとすると呂宋兵衛が強力ごうりきをかけてうばいとり、いきなりじぶんの力で縦横じゅうおうにふってふってふりぬいた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
隣席の五十坂を越したと思う男が、年齢としの割には素晴らしい強力ごうりきで、弦吾の利腕ききうでをムズと押えた。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ある時、忠勝子息の忠朝と、居城桑名城のほりに船を浮べ、子息忠朝に、かいであの葦をないで見よと云った。忠朝も、強力ごうりき無双の若者であるが、櫂を取って葦を払うと、葦が折れた。
真田幸村 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
今にも運転手の強力ごうりきに押えられている両手を振り切って、黒い包みを相手にタタキ付けるかと、息を詰めて身構えていたが、ウルフは矢張り、そんな気振りをチットモ見せなかった。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
宿直とのいの侍どもは庭伝いにばらばらと駈けあつまって来た。そのなかでも近ごろ筑紫から召しのぼされた熊武という強力ごうりきの侍が、大きいまさかりを掻い込んで庭さきにうずくまったのが眼に立った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自動車はスケッチ帳入りの小嚢しょうのうを手に下げた茨木君と私と長男隼太郎外、強力ごうりき一人を大野原に吐き出して、見送りのため同乗せられた大山さんと、梅月の主人をさらって、影を没してしまう。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
実に非凡な強力ごうりき
羽織をつかんでいる間に、板絵図の割れた一方をどぶの中へ落してしまった。とがめた男は生憎あいにく強力ごうりきである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よく山方やまかたに見ゆる強力ごうりきたぐいが同勢合せて五人、その五人ともに、いずれも屈強な壮漢で、向う鉢巻に太い杖をついて、背中にはかなり重味のある荷物を背負しょっています。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鉄のこぶしを持っている強力ごうりきの機械人間が、もしあやまって、そのダイナマイトの箱をぽかんと一撃したら、たちまち大爆発が起こって、建物も人間も岩盤がんばんさえ吹きとんでしまうであろう。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あれが気違い力というものでしょうか、意想外の強力ごうりきで力を入れ切っておりますところへ不意に肩をすかされましたために思わぬ不覚を取りまして二度も気絶して面目次第も御座いません。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ふんじばってつれてきた、じゃおれは、梅雪とかけあいをつけるから、きさまが縄尻なわじりを持っていろ。なかなかわっぱのくせに強力ごうりきだから、ゆだんをしてがすなよ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが都合五人ともに、いつのまにか申し合せたように強力ごうりき姿に身をやつしています。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこの扉の前には、鬼をあざむくような強力ごうりきの警官が三人も立っていた。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
強力ごうりきに化けた軍の護衛兵は、いずれも屈強な猛者もさぞろいだ。それらがおのおの、一個ずつの重い行嚢こうのうをかついで勢揃いしたさまはいかにも物々しくまたたのもしい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)