ひか)” の例文
たれも爲るものるまじと思ひしきりかなしく心は後へひかれながら既に奉行所ぶぎやうしよへ來り白洲しらす引居ひきすゑられたり此日伊勢屋三郎兵衞方にては彼旅僧を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
父と下町へ行くのはいつも私の楽しみにして居たことで、此日もかういはれるとうれしくてたまらず、父の手にひかれてイソ/\行升ゆきました。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
女房は暗がりの路次に足をひかれ、穴へ掴込まれるやうに、頸から、肩から、ちり毛もと、ぞッと氷るばかり寒くなつた。
夜釣 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
若し母と寧児さえ無くばわらわかゝる危き所へ足蹈もする筈なけれど妾の如き薄情の女にも母は懐しく児は愛らしゝ一ツは母の懐しさにひかされ一ツは子の愛らしさに引されしなり
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
なが大河おほかはみづしづ覺悟かくごきわめしかどひかれしうしがみ千筋ちすぢにはあらで一筋ひとすぢふといふ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかいくらもたがやさぬうちにちてにはかにつめたくつた世間せけん暗澹あんたんとしてた。おしな勘次かんじしてひど遣瀬やるせないやうな心持こゝろもちになつて、雨戸あまどひかせてくらはうむいぢた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
二郎はその言葉を聞き、何となく悲しく感じて、姉に手をひかれて林の裡から出た。……
稚子ヶ淵 (新字新仮名) / 小川未明(著)
お島はとぼとぼと構内を出て来たが、やっぱり後髪うしろがみひかるるような未練が残っていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
はかのよるの悪女と相並びて、手をひかるゝまゝに、見も如らぬ裏街を歩み居り候。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
私もよもやにひかされて、今にあなたが良くなるだろう、今に良くなるだろうと思っていても、何時まで経ってもよくならないのだもの。それにあなたぐらい猫の眼のように心の変る人は無い。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
茶に染返そめかへしたる布子ぬのこなり是は取置とりおけと申付られやがて火もしづまりしかば皆々火事場をひかれけり扨又喜八はあやふくも袖を切て其の場を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
女房にようばうくらがりの路地ろぢあしひかれ、あな掴込つかみこまれるやうに、くびから、かたから、ちりもと、ぞツとこほるばかりさむくなつた。
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
徳蔵おじに手をひかれて、外へ出た時、初めて世はういものという、習い始めをしました。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
胎毒たいどくですか、また案じられた種痘うえぼうそうの頃でしたか、卯辰山うたつやまの下、あの鶯谷うぐいすだにの、中でも奥の寺へ、祖母に手をひかれては参詣をしました処、山門前の坂道が、両方森々しんしんとした樹立こだちでしょう。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
宰領さいりやうす供には常樂院大膳左京等皆々附隨がふほどなく伊豆守殿御役宅に到るに開門かいもんあれば天一坊の乘物は玄關げんくわん横付よこつけにしたり案内の公用人にひか廣書院ひろしよゐんへ通り上段じやうだんなる設の席に着す常樂院伊賀亮等はつぎへ着座す又此方に控へらるゝ御役人方おんやくにんがたには御老中筆頭ごらうちうひつとう松平伊豆守殿を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)