こご)” の例文
右馬うまかみ菟原うばら薄男すすきおはとある町うらの人の住まない廃家の、はや虫のすだいている冷たいかまどのうしろにこごまって、かくれて坐っていた。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
お鳥を初め多くの婦人連がちよこ/\とこごんでは歩み、歩んでは屈み、順ぐりに同じ切れをいぢつては行く樣子を傍觀してゐた。
屋根の上の無頼漢ならずもの身体からだは、一寸ちょっとこごんだと思うと、ピンと跳ねて、頭の上の橋桁へサッと飛付きます。実に間髪を入れざる恐ろしい放れわざ
悪人の娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
こごんでて悪けりゃ、こう立ったらいかがなもの、ここんところをすっぽりおやんなすっちゃ」と言わぬばかりの姿勢です。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
門の外まで出て来て、『おりきい、お力い。』と体をこごめねばならぬ程の高い声を出して友達を呼んでゐる女の子もあつた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
自分があまり手間取るんで、初さんがこごんでこっちをのぞき込んでるところであった。この一間をどうして抜け出したか、今じゃ善く覚えていない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぼとっ——と、時折、中庭の闇で青梅のの落ちる音がする。武蔵は、一すいに向ってこごみこんだまま顔も上げない。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一寸ちょっとお尻をでてから、髪をこわすまいと、低くこごんでそっと門をくぐって出て行くが、時とすると潜る前にヒョイとうしろを振向いて私と顔を看合せる事がある。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
真暗で足元が悪くて心細いことゝいったら! おまけに天井の針金には電流が通っていますから成るべくこごんで歩いて下さい等と案内の男が驚かすんだもの。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「おう!」吉川が斬り込んだが、老人はさっと身をこごめて、低い鴨居のある違い棚の方へ身を引いた。
仇討禁止令 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
町内にももう灯のかげはまばらであった。佐兵衛は下腹をおさえながらこごみ勝ちにあるいていた。
半七捕物帳:06 半鐘の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
で、本文ほんもん通り、黒革縅くろかわおどし大鎧おおよろい樹蔭こかげに沈んだ色ながらよろいそで颯爽さっそうとして、長刀なぎなたを軽くついて、少しこごみかかった広い胸に、えもののしなうような、智と勇とが満ちて見える。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
行くがね。しかし君のところの細君は闘球盤なんか絶対に駄目だよ。あんなこごんで胸を
汽笛 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
姫は身をこごめて、白玉を拾う。拾うても拾うても、玉は皆、たなそこに置くと、粉の如く砕けて、吹きつける風に散る。其でも、玉を拾い続ける。玉は水隠みがくれて、見えぬ様になって行く。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ランゲナウびとは誰にも訊ねなかつたが、將軍が分かつた。彼は馬から跳び下りると、埃の雲のなかで身をこごめた。彼は伯に手渡さなければならぬ信書を携へて來た。しかし、伯は命じた。
それからもう一度、前へこごみかけて、また後退あとすざりをした。にんじんは、そのほっぺたをと思ったのだが、それも、だめだった。鼻の頭をやっとかすったぐらいだ。彼は、空間に接吻をした。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
おとよさんは少しこごみ加減になって両手を風呂へ入れているから、省作の顔とおとよさんの顔とは一尺四、五寸しか離れない。おとよさんは少し化粧をしたと見え、えもいわれないよい香りがする。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
一月ひとつきも冠った冠物かぶりものが暑い夏の日にけ、リボンも砂埃に汚れていた。お島はその冠物の肩までかかった丸い脊をこごめて、夕暗のなかを、小野田についていてもらって、ハンドルをることを学んだ。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
なんだってこごんだり、びく附いたりするのだ。11710
母は机の下をのぞき込む。西洋流の籃製かごせい屑籠くずかごが、足掛あしかけむこうほのかに見える。母はこごんで手をのばした。紺緞子こんどんすの帯が、窓からさすあかりをまともに受けた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こごんで煙草盆の火をつけないで、火をつけるたびに煙草盆の方を鼻の先までつるし上げるのがこの男の癖と見えます。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
少し前にこごんだ中背の、齢は二十九で、髯は殆んど生えないが、六七本許りも真黒なのがおとがひに生えて五分位に延びてる時は、其人相を一層険悪にした。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
棒立ちになって、そこに小首をかしげておりますと、その姿を見つけたらしく、石屋のわきの石置場を抜けて大股に急いで来た秦野屋九兵衛が、こごみ加減に、さぐり声をひそめて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はずしてなるものか、というような気になって、必死になって武者震いを喰止めて、何喰わぬ顔をして、呼ばれる儘に雪江さんの部屋の前へ行くと、こごんでいた雪江さんが、其時勃然むっくりかおを挙げた。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
が、其の笑ひを中途で罷めて、遺失物おとしものでもしたやうに体をこごめた。見ると衣嚢かくしから反古紙ほごがみを出して、朝日に融けかけた路傍の草の葉の霜に濡れた靴の先を拭いてゐた。
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
こごんでいた小野さんはようやく沓脱くつぬぎに立った。格子がく。華奢きゃしゃ体躯からだが半分ばかり往来へ出る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ここで、「叱ッ、叱ッ」と小さな口で叱ってみたところで、辟易へきえきする相手ならば、ここまで狼狽ろうばいして逃げて来るがものはないではないか。茂太郎は下へこごんで、右の手で石を拾い
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私は急に気が改まって、小腰をこごめて、遠慮勝に中へ入った。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
と、渠は烈しい身顫ひをして、またしても身をこごませ乍ら、大事々々に足をつり出したが、遽かに腹が減つて来て、足の力もたど/\しい。喉からは変な水が湧いて来る。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あによめは席に着いた初から寒いといって、猫背ねこぜの人のように、心持胸から上を前の方にこごめて坐っていた。彼女のこの姿勢のうちには女らしいという以外に何の非難も加えようがなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、右側の或室から、さらでだに前こごみの身体を一層屈まして、垢着いた首巻に頤を埋めた野村が飛び出して来た。広い玄関には洋燈の光のみ眩しく照つて、人影も無い。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
自分は、胸が水にひたるまで、こごんで洞の中をのぞき込んだ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
十間許り前を行く松蔵の後姿は、荷が重くてこごんでるから、大きい鞄に足がついた様だ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)