小火ぼや)” の例文
小火ぼやで済めば、発見者として、辰公の鼻も高かったのに、生憎、統々本物になったばかりに、彼にとっても、迷惑な事になって了った。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
いつかの小火ぼやのあった晩も、藪のなかに赤ん坊が捨ててあった。この辺の地形は、捨子をしたくなるようにできているのかもしれない。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
寺の男共はたらいを冠って水桶を提げて消して廻った。村で二三軒小火ぼやを起した家もあった。草葺くさぶき屋根にも出来るだけ水をいた。
宝永噴火 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
小火ぼやで済んだに相違ない。渡し船には人が一杯である。橋にも通る人が一杯である。物売りの声々が充ちている。江戸の夕暮れは活気がある。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あの丘へ駆上ると、もう、その煙は私の立った背より低くなって、火も見えないで消えたんですもの。小火ぼやなんですね。
れないものはおそれるために、小火ぼやうちにこれをおさけることが出來できずして大事だいじいたらしめることがおほい。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
大黒屋の小火ぼやはそれだよ。二度目の小熊屋も同じ店造り、同じ炭薪だ。これは思ふ通りに燃えた。そしていよ/\三軒目に、目的の三村屋を燒いたのさ。
起きて見ると、眼の前の阪下から、ぬっと提燈ちょうちんが出る、すいと金剛杖が突き出る。それが引っ切りなしだから、町内の小火ぼやで提燈が露路ろじに行列するようだ。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
あっちこっちの小火ぼやをけすそうどうにまぎれて、さしもきびしい城内ではあるが、ここに、天からふったひとりの怪童かいどうありとは、夢にも気のつく者はなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして去年の春さきに小火ぼやが一度、それも藁火が離納屋に燃え移つただけのことで、それだのに殆ど町中がいや近在からも山を越して人が集り、提灯ちやうちんが集り、大変な騒ぎだつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
自分の頭蓋骨ずがいこつの内部でも凝視しているように、じっと据えて、熱に浮かされてるように、早口に、熱心に、そして、一人ひとり小火ぼやを消しでもしてるようにあせって、あわてて話した。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
附近の者が駈けつけて小火ぼやのうちに消し止めた事実がある。
消えた花婿 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「どうしたんです、あっしの留守のまに小火ぼやでも出たんですか」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小火ぼやだ!」という声が何処からかした。
群集 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「ときに、ひょろ松、お前、あの前の晩の四ツごろ、金座の川むこうの松平越前のうまや小火ぼやがあったことを知っていたか」
顎十郎捕物帳:07 紙凧 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
大黒屋の小火ぼやはそれだよ。二度目の小熊屋も同じ店造り、同じ炭薪だ。これは思う通りに燃えた。そこでいよいよ三軒目に、目的めあての三村屋を焼いたのさ。
しかしながら、もしそこに火災かさいおこおそれがあり、また實際じつさい小火ぼやおこしてゐたならば、問題もんだい全然ぜんぜん別物べつものである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
積込んで、小火ぼやのあった日から泊りがけに成田へ行っていた男だけれど、申訳を脊負しょって立って、床屋を退散に及ぶというなら、可々よしよし心得た。御近所へ義理は済む。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると、この頃になって、毎夜のように、山には出火が頻々ひんぴんと起った。ゆうべは、横川よかわの大乗院の薪倉まきぐらから、おとといの夜は、飯室谷いいむろだにの滝見堂から、小火ぼやがあった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さいはひ小火ぼやのまゝでめ、下敷したじきになつた六十五名中ろくじゆうごめいちゆう五十八名ごじゆうはちめい無事ぶじたすされたが、のこりの七名しちめい遺憾いかんながら崩壞物ほうかいぶつ第一撃だいいちげきによつて即死そくししたのであつた。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
れて、近来はそうまでもなかった処に、日の今日は、前刻城寄の町に小火ぼやがあって、煙をうかがいに出たのであるが、折から小春凪こはるなぎの夕晴に、来迎の大上人の足もとに
「昨日は、どうもご丁寧に。小火ぼやぐらいのことで、あんなにしてもろては、すまんな」
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
最初は小火ぼや首縊くびくくりを嗅ぎ廻ったり、すりやかっ払いを追い廻したり、それが次第に手に入って来ると初めて大きな犯罪事件や、文化芸術の記事や、名士の訪問や、政治経済の方面や
その段は大出来だったが、時に衣兜かくしから燐寸マッチを出して、鼻の先で吸つけて、ふっと煙を吐いたが早いか、矢のごとく飛んで来たボオイは、小火ぼやを見附けたほどの騒ぎ方で
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「親方、小火ぼやか何かあったそうだね。町内で聞込んで来たが」
通ったはその小娘ばかりで、やがて床屋から小火ぼやが出て、わッという紛れにそれなりけり。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「濱町の大黒屋の小火ぼやでも、それが見つかつたんだらう」
このときも、さいはひ何處どこまど閉込とぢこんでたから、きなつくさいのをとほして、少々せう/\小火ぼやにほひのするのが屋根々々やね/\ゆきつてげて、近所きんじよへもれないで、申譯まをしわけをしないでんだ。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「浜町の大黒屋の小火ぼやでも、それが見つかったんだろう」
ちと仰山なようだけれど、お邸つき合いのお勝手口へ、この男が飛込んだんじゃ、小火ぼやぐらいには吃驚びっくりしたろう。馴れない内は時々火事かと思うような声で怒鳴り込むからな。こりゃ世話を
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
殊に小火ぼやを出した物語。その時の焼っ焦、まだ脱ぎえず、と見て取る胸に、背後うしろに炎を負いながら、土間に突伏つっぷして腹をひやした酔んだくれのおもかげさえ歴々ありありと影が透いて、女房は慄然ぞっとする。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
上下うえしたかえしまして、どどどど廊下をけます音、がたびし戸障子の外れるひびき、中には泣くやら、わめくやら、ひどいのはその顛倒てんどうで、洋燈ランプひっくらかえして、小火ぼやになりかけた家もござりますなり。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いくらか、飲代どころなら構いはしないけれど、お前さんの話しぶりでもその今の愛吉とかいう若いしゅが、火の玉だの、火柱だの、炎だの、小火ぼやだの、と厭にこだわッているから心配なんだよ。はてな、」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)