妖怪ようかい)” の例文
美しいレオノーラ姫をさらっていった妖怪ようかい騎士の話をして、婦人たちのきもをつぶし、いく人かはヒステリーをおこさんばかりだった。
変化へんげの術ももとより知らぬ。みち妖怪ようかいに襲われれば、すぐにつかまってしまう。弱いというよりも、まるで自己防衛の本能がないのだ。
臆病者の特権として、余はかねてより妖怪ようかいう資格があると思っていた。余の血の中には先祖の迷信が今でも多量に流れている。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのために生物はその祖先の定型を保存し、できそこないの妖怪ようかいはできない。すなわちここで初めて遺伝の問題に触れている。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
坂の途中の電信柱にもたれてみる。しんしんと四囲に湯茶の煮えるような音がする。真昼の妖怪ようかいかな。私はおなかが空いたのよ。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
隠れ座頭はひろく奥羽・関東にわたって、巌窟の奥に住む妖怪ようかいと信ぜられ、相州の津久井つくいなどでは踏唐臼ふみからうすの下に隠れているようにもいっていた。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
妖怪ようかいにしてまた悪童である彼は、自然の声とパリーの声とで一つの雑曲を作っていた。小鳥の調子と工場の調子とを一つにい合わしていた。
同時に天使の姿は炎の頭をした無意味な妖怪ようかいとなってしまい、彼らからはなんの救いも得られないということがわかった。
落穴と振子 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
父ステツレルの怪異が——、あの妖怪ようかい的な夢幻的な出現が、時を同じゅうして、いつも、れ果てたときの些中さなかに起こるのは、なぜであろうか。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
出先で、妖怪ようかい這々ほうほうの体で自分の家に逃げ帰ると、その恐ろしい魔物が、先廻りして、自分の家に這入はいり込んでいる。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
れでは充分に探検したものとわれない、彼女はこの場合にも父君との約束を胸に浮べ、妖怪ようかいであれ幽霊であれ、是非その正体を見届けねばならぬと決心し
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
今の世に妖怪ようかいを信じることはできないが、やはり妖怪の仕業とでも考えるほかには解釈のくだしようがなかった。頼みに思う名探偵さえ病床の人となってしまった。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
骸骨がいこつ妖怪ようかいせみ蜻蛉とんぼ蜘蛛くもの巣、浴衣ゆかた、帷子、西瓜すいか、などいろいろと控えていて夏を楽しんでいる。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
眠っていても目覚めていても、奇怪な姿に、精神から出てくる妖怪ようかいに、悪鬼に、彼はとりかこまれた。
よしや我身の妄執もうしゅうり移りたる者にもせよ、今は恩愛きっすて、迷わぬはじめ立帰たちかえる珠運にさまたげなす妖怪ようかい、いでいで仏師が腕のさえ、恋も未練も段々きだきだ切捨きりすてくれんと突立つったち
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おそろしい妖怪ようかいを確実にこの眼で見たいと願望するに到る心理、神経質な、ものにおびえ易い人ほど、暴風雨の更に強からん事を祈る心理、ああ、この一群の画家たちは
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
歴史の必然などという妖怪ようかいじみた調味料をあみだして、料理の腕をふるう。生きてる奴の料理はいやだ、あんなものは煮ても焼いてもダメ、鑑賞に堪えん。調味料がきかない。
金具かなぐがピカピカ光る複雑な測定器や、頑丈がんじょうな鉄のフレイムかこまれた電気機械などが押しならんでいて、四面の鼠色ねずみいろ壁体へきたいの上には、妖怪ようかいの行列をみるようなグロテスクきわまる大きい影が
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
悪鬼、妖怪ようかい雷神らいじん風神ふうしんなどの実在を、貴族も一般人も、疑わない時代であった。
「肩へ手がかかった時、おのれ妖怪ようかいござんなれと、臍下丹田せいかたんでんに満身の力をこめて」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかも叔父は「武士たるものが妖怪ようかいなどを信ずべきものでない」という武士的教育の感化から、一切これを否認しようと努めていたらしい。その気風は明治以後になってもせなかった。
半七捕物帳:01 お文の魂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのしの突くような強烈な勢い、あとはすぐ晴れるというような軽快な心持が主として人の心を支配しますから、もとこの家に妖怪ようかいが住んでいたというような陰気な感じは鈍ってしまいます。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
にがりに苦りて言葉なし。アアこの神経というものはおそろしきものなり。折にふれては鬼神妖怪ようかいの当りにおそいきたるかとみれば。いつしか嬋娟せんけんたるたおやめのかたわらに立つかと思うなど。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
非合理の事にて文学的には面白き事不少すくなからず候。生の写実と申すは、合理非合理事実非事実のいいにては無之候。油画師は必ず写生に依り候へども、それで神や妖怪ようかいやあられもなき事を面白く画き申候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「こいつア大の男が二人かかっても、この塔の上まではちょっと運べませんね……まして、外の海のほうから、三十メートルの高さのこのガラス窓を破って投げ込むなんて、正に妖怪ようかい仕業しわざですよ」
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
しかしその妖怪ようかいがそこから陸路を取ってのりこんでくるかもしれぬ、とヨオロッパがおののいていたあいだに、妖怪はシリアの商船で海上を引かれて行って、地中海の諸港にほとんど同時に出現し
あとで妖怪ようかいの本性を現わす美しい女郎のような気味悪さである。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
彼は近所のあらゆる曲がりかどや芝地や、橋のたもとや、大樹のこずえやに一つずつきわめて格好な妖怪ようかいを創造して配置した。
化け物の進化 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
世の常の妖怪ようかいとてもトッテカモ、またはクウゾというのは口ばかりでたいていはこちらが目をまわしてしまうだけであった。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あらゆる妖怪ようかいはその衣裳方となって彼を扮装ふんそうしてやったのである。はいつつ立っている。爬虫類はちゅうるいの二重の歩き方である。かくて彼はあらゆる役目に適するようになる。
こうして、尽きせぬ名残りと殺害者のなぞ——またフローラにとると、父ステツレルの妖怪ようかい的な出現に疑惑を残し、この片々たる小船が流氷の中を縫い進むことになった。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
どんなに折悪おりあしく、しかもどんなに妖怪ようかいのようなおせっかいをもって、私の野心の邪魔をしたことか! ウィーンでも——ベルリンでも——またモスコーでも! まことに
ベックリンという海の妖怪ようかいなどを好んでかく画家の事は、どなたもご存じの事と思う。
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ストーブのさかんに燃える父伯爵の居間に集り、いろいろ面白い談話だんわふけってる、その面白い談話と云うのは、好奇ものずきな娘達がしきりに聴きたがる、妖怪ようかい談や幽霊物語の類で、談話はなし上手の伯爵が
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
今自分のしている仕事(妖怪ようかいを退治するなり、三蔵法師さんぞうほうしを救い出すなり)
非合理のことにて文学的には面白きこと不少すくなからず候。生の写実と申すは合理非合理、事実非事実のいいにては無之候。油画師は必ず写生にり候えどもそれで神や妖怪ようかいやあられもなきことを面白く画き申候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
「何だろう? 人間かそれとも妖怪ようかいか?」
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
空を歩く妖怪ようかい
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そんな古来ためしの無い妖怪ようかいを射とめるには、こちらにも神通力が無くてはかなわぬ。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
最初この妖怪ようかい——というのは私にはそれ以外のものとは思えなかったからだが——を見たとき、私の驚愕きょうがくと恐怖とは非常なものだった。しかしあれこれと考えてみてやっと気が安まった。
黒猫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
悟空はかかる廃寺こそ究竟くっきょう妖怪ようかい退治の場所だとして、進んで選ぶのだ。
銅貨銀貨石片死骸妖怪ようかい、あるいは無を。
さなぎでも食って生きているような感じだ。妖怪ようかいじみている。ああ、胸がわるい。
愛と美について (新字新仮名) / 太宰治(著)
それをなんと言うのだ? わが道に立つかの妖怪ようかい、恐ろしき良心とは?
いまひとつ、これも妖怪ようかいの作った歌であるが、事情は、つまびらかでない。意味も、はっきりしないのだが、やはり、この世のものでない凄惨せいさんさが、感じられるのである。それは、こんな歌である。
懶惰の歌留多 (新字新仮名) / 太宰治(著)