好奇ものずき)” の例文
して此箱もわし好奇ものずきの玉村侯爵の申込により、あの淋しい森林中に置いて、和女等三人の内、誰が一番勇ましいかを試したもの
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
縮緬ちりめん小片こぎれで叔母が好奇ものずきに拵えた、蕃椒とうがらしほどの大きさの比翼の枕などがあった。それを見ても叔母の手頭てさきの器用なことが解った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
或いはそれにしんにゅうをかけた程度のものが集まっていると見れば差支えないが、さりとて、相当堅気のものも好奇ものずきで寄って来ている。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「どんなものか、一つ其の妖怪ばけものに逢ってみたいものじゃないかと」、権八は云いだした。平太郎も好奇ものずきらしいまなこを輝かした。
魔王物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
塀の外は町内の野次が一パイ、無遠慮なのは庭先まで入つて來て、死體はもう取りおろしたのに、未練らしく好奇ものずきの眼を輝かして居るのです。
一隅かたすみには行き倒れや乞食の死んだのを埋葬したところもあった。清三は時には好奇ものずきに碑の文などを読んでみることがある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「これが好奇ものずきというのでしょう、後をつけたのでございますよ、人殺しをした侍が、どこへ落ち着くかと思いましてね」
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
尾鰭をひれを付けて人は物を言ふのが常、まして種牛の為に傷けられたといふ事実は、些少すくなからず好奇ものずきな手合の心を驚かして、いたる処に茶話の種となる。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
好奇ものずき統計家とうけいか概算がいさんに依れば小遣帳こづかいちやう元禄げんろくひね通人迄つうじんまで算入さんにうしておよ一町内いつちやうないに百「ダース」をくだる事あるまじといふ。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
「いや、好奇ものずきから、かように下らぬ服装なりをしておるため、何かは知らぬが、あらぬ嫌疑けんぎをこうむり、えらい人さわがせを致したな。まま許せ、許せ」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
彼女は彼があまりに好奇ものずきだと言った。そしてただ、自分がその話の女主人公ではないということだけを打ち明けた。
おまけにこっちは、応援の青年団やら好奇ものずき弥次馬やじうまやらでやたらに人数が多いから、ざわめくばかりでも先はいちはやく物音を聞きつけて逃げてしまう。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
かくして海港においては、それらの戦いと航海との驚くべき機械のまわりに、自らなぜかをもよく知らないで多くの好奇ものずきな人々が集まって来るのである。
何も好奇ものずきで注意人物を使用するにもあたらん、と、こういうようなわけで、ハハハハ、尤もなことを云うよ。
罠を跳び越える女 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
見學の人達は好奇ものずきな眼をあげて彼れの顏に表はれる感情を竊かに讀まうとした。彼れの隻眼かためは、いつものやうに鋭く輝く外には、容易に自餘ほかの意味を語らなかつた。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
ウィインでは大型輸送自動車の陸軍飯場キャンティンが街上に出張して、通行人と好奇ものずきな外国人の旅行者に羊の脂肪肉と麺麭パン屑と上官の命令とを煮込んだ熱湯汁を無料分配していた。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
それを、貴方は何故そう好奇ものずきの眼をみはって、新しい悲劇を待っておられるのでしょう?
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
こはかかる有様を見せしめなば妾の所感如何いかがあらんとて、磯山が好奇ものずきにもことに妾を呼びしなりしに、妾の怒り思いのほかなりしかば、同志はいうもさらなり、絃妓げんぎらまでも、衷心ちゅうしん大いにずる所あり
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
不具者を愛する好奇ものずきな女なぞが、所詮、この世のどこに住んでいようものぞ! いわんや女との交際には、昔のフロールとの世界に学芸会があったように、舞踏と社交との及び難き二つの世界がある。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
一草亭は好奇ものずきの目を光らせた。
神尾主膳は遠くから、皮肉のような好奇ものずきのような眼をかがやかして、その美しい女房の現われた桟敷にとくと目を注ぎました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
我輩は好奇ものずきの人間なので、こういう蔦吉といったような、やくざな芸人には知己しりあいがあり、手なずけることも出来たのさ。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
玉村侯爵とは松浪伯爵の兄君で、三人の娘には伯父君おじぎみに当ってる、余程面白い人で、時々いろいろ好奇ものずきな事をする。
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
老人はこんなことを言いながらやっとこさと腰をあげ、すこしくずれて時おり隣の灯の漏れてくる壁の処へ行って顔をぴったりつけて好奇ものずきに覗いて見た。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
型の小さい安いオルガンで、音もそうたいしてよくはなかったが、みずから好奇ものずきに歌などを作って、覚束おぼつかない音楽の知識で、譜を合わせてみたりなんかする。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ホテル・アムステルダムの十四号室に昨夜ゆうべ誰か泊って、しかもその好奇ものずきな人間は朝になってもまだ生きている、という愕くべき報知は、瞬くうちに近処に拡がって
ロウモン街の自殺ホテル (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
その好奇ものずきさ加減も、気が知れねえ……と、打てばひびくというところから、つづみの名ある駒形のあにい与吉、ひとり物思いにふけりながら、ブラリ、ブラリやってくる。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
好奇ものずきな彼女は、後が手紙を書いてる間に、その肩越しに読んでしまっていたのである。)
五時間目には、国語の教科書の外に、かねて生徒から預つて置いた習字の清書、作文の帳面、そんなものを一緒に持つて教室へ入つたので、其と見た好奇ものずきな少年はもう眼を円くする。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その翌日、好奇ものずきな人々は民約議会員ゼー氏のことについて彼と話そうとした。が彼はただ天をすのみであった。その時いらい、彼は小児や苦しめる者に対する温情と友愛とを倍加した。
これまでちょいちょい人に貸したりなどしている部屋を、この夫婦のために長くふさげておくのも惜しかった。細君があるじ好奇ものずきを喜ばない気振りが、お庄には見えすくように思えて来た。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
また信書をしたたむる時などには、若き看守の好奇ものずきにも監督を名として監房に来りては、楽書らくがきなどして、妾の赤面するを面白がり、なお本気の沙汰さたとも覚えぬ振舞に渡りて、妾をもてあそばんとするものもあり
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
好奇ものずきなのは、美しい順に、十七娘を數へました。
或る好奇ものずきなお大名が、相馬の古御所もどきの趣向をして、医者を誘拐して来てもてあそんだというようなこともないではない。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「何も好奇ものずき、屋敷の様子を、こっそり探ってみてやろう。うまく賭博場でも目つかったら、とんだ面白いことになる」
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
伜をれて往かれましたのを、この岩本さんが、好奇ものずきにつけて来て、裏門からたしかに入るのを見たと申しますから
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
アフリカ西岸に古代の文明を集めたる瑠璃岸国のある好奇ものずきなる国王が、世界を経めぐらんとの望みを起して一大巨船を造り、百人の勇士と百人の美人と
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
好奇ものずき半分に余計なこころを動かしたばっかりに、ああして飛んでもないことになって終う。
斧を持った夫人の像 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
気の弱い柔和な好奇ものずきな彼は、優雅は欠けていないが堅固さが欠けてるその世界を、楽しげに観察してみた。そしてしだいにその色に染められてることにはみずから気づかなかった。
通行の旅人の中の屈強で好奇ものずきなのが、うしろから駕籠かきを押したり、時には、駕籠舁きが息を入れるあいだ、代わってかついで走ったり……こんなことはなかったなどと言いっこなし
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
好奇ものずきなのは、美しい順に、十七娘を数えました。
さるお金持の好奇ものずきなお医者さんが来て、この関ヶ原にあんぽつをとどめ、道中の雲助のあぶれをすっかりき集め、それにこのあたりの人夫をかり出して
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
許宣は心当りはなかったが、好奇ものずきに門口へ出てみた。門口にはの白娘子と青い上衣を着た小婢じょちゅうが立っていた。許宣は驚きといかりがいっしょになって出た。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
源氏となって益々衰えただ実朝がその好奇ものずきから京師の風俗を取り入れた時、一緒に造顔師も呼び迎えたが、その実朝は夭折ようせつし、造顔師はほとんど途方に迷い
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此林中には立木と草のあるばかり、流星が此処ここで消えたとて何んの不思議な物が落ちて居るものか、好奇ものずき此様こんな気味の悪い森林に入るよりは此儘このまま此処から家に帰り
黄金の腕環:流星奇談 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
五月末ごろから江戸中をおびやかしているこの一円の神隠し騒ぎ、腕自慢の目明しや好奇ものずき半分の若い衆が夜を日に継いでの穿鑿せんさくも絶って効ないばかりか、引き続いてさらわれる者が後を絶たないので
許宣は心当りはなかったが、好奇ものずきに門口へ出てみた。門口にはかの白娘子と青い上衣を着た小婢が立っていた。許宣は驚きと怒りがいっしょになって出た。
雷峯塔物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ようやくこのごろ、人の臭いがするようになったらしいが、土地柄だけに、それほどに新たに移って来た主人の好奇ものずきを注意してみようという者もありません。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そしてそのまま旅人はその土地へ留まろうと決心し、壊れていた牧師館を修繕し、其処に住んだのでございます……その好奇ものずきの旅人というのは実は私でございます
むし好奇ものずきではあるが暗夜あんや甲板かんぱんでゝ、暫時しばし新鮮しんせんかぜかれんとわたくしたゞ一人ひとり後部甲板こうぶかんぱんた。