大浪おおなみ)” の例文
温泉場ゆば御那美おなみさんが昨日きのう冗談じょうだんに云った言葉が、うねりを打って、記憶のうちに寄せてくる。心は大浪おおなみにのる一枚の板子いたごのように揺れる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大きな椰子やしや、橄欖かんらんや、ゴムの樹の植木鉢の間に、長椅子だのマットだの、クッションだの毛皮だのが大浪おおなみのように重なり合っている間を
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「なんという自然しぜんおそろしさをらぬばかじゃ。大浪おおなみよ、ちょいとひとのみにしてしまえ。」と、男神おがみは、いいました。
海の踊り (新字新仮名) / 小川未明(著)
白帆が二つみっつそのふもとと思われるところに見えました。じっと見つめていると、そこから大風おおかぜが吹き起り、山のような大浪おおなみが押し寄せて来そうな気がしました。
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
円福寺の方丈の書院の床の間には光琳こうりん風の大浪おおなみ、四壁の欄間らんまには林間の羅漢らかんの百態が描かれている。
そのたいそうな大船に押しまくられた大浪おおなみが、しまいには大きな、すさまじい大海嘯おおつなみとなって、これから皇后がご征伐になろうとする、今の朝鮮ちょうせんの一部分の新羅しらぎの国へ
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
と、千鳥ちどりを追いたつ大浪おおなみのように、逃げるに乗って、とうとう、裾野すそのたいらまでくりだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
風もまた吹きつのって来た。天から降る雪と地に敷く雪とが一つになって、真白まっしろ大浪おおなみ小波こなみが到る処に渦を巻いて狂った。の凄じい吹雪ふぶきの中を、お葉は傘もさずに夢中で駈けた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大浪おおなみ、いかずち、白滝、青鮫あおざめなど、いずれも一癖ありげな名前をつけて、里の牛飼、山家やまが柴男しばおとこ、または上方かみがたから落ちて来た本職の角力取りなど、四十八手しじゅうはってに皮をすりむき骨を砕き
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
アンドレイ、エヒミチはアッとったまま、緑色みどりいろ大浪おおなみあたまから打被うちかぶさったようにかんじて、寐台ねだいうえいてかれたような心地ここちくちうちには塩気しおけおぼえた、大方おおかたからの出血しゅっけつであろう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そのリズムは大浪おおなみのうねりのように澎湃ほうはいとしてき起って来るような力をもっていた。何かしら自分もその波の上に乗ってどこか広々としたところにつれて行かれるような気に私は襲われた。
その声につれてだんずるびわの音は、また縦横じゅうおうにつき進む軍船ぐんせんの音、のとびかうひびき、甲胄かっちゅうの音、つるぎのり、軍勢ぐんぜいのわめき声、大浪おおなみのうなり、だんうら合戦かっせんそのままのありさまをあらわしました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
其のあわい遠ざかるほど、人数にんずして、次第に百騎、三百騎、はては空吹く風にも聞え、沖を大浪おおなみの渡るにもまごうて、ど、ど、ど、ど、どツと野末のずえへ引いて、やがて山々へ、木精こだまに響いたと思ふとんだ。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
大浪おおなみがくるたびに、方船はこぶねは、顛覆てんぷくしそうになる。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
大浪おおなみ 小浪に ゆれながら
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
「そんなことは覚えていないけれど、恐ろしい大浪おおなみが立って、浜の石垣いしがきがみんなこわれてしもうた。」
少年と海 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
そうして大浪おおなみを打つ患者の白いタオル寝巻の胸に、ムクムクムクと散り拡がって行く血の色を楽しむかのように、紅友禅の長襦袢の袖を、左手でだんだん高くまくり上げて、白い
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
が、心は矢竹やたけはやっても彼女かれはり女である。村境むらざかいまで来るうちに、遂に重太郎の姿を見失ったのみか、我も大浪おおなみのような雪風ゆきかぜに吹きられて、ある茅葺かやぶき屋根の軒下につまずき倒れた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「それ! 若殿につづけ。」とお供の者たちにはげしく下知した。いずれも屈強の供の武士三十人、なんの躊躇ちゅうちょも無くつぎつぎと駒を濁流に乗り入れ、大浪おおなみをわけて若殿のあとを追った。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
(ほう、これは大浪おおなみだ。ただ暴風しけではないぞ)
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)