可哀相かわいそう)” の例文
「うん、あいつも可哀相かわいそうだけれども仕方がない。つまりこんなやくざな兄貴あにきをもったのが不仕合せだと思って、あきらめて貰うんだ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「永田の紙屋なんか可哀相かわいそうなものさ。あの家は外から見ても、それは立派な普請だが、親爺おやじさん床柱をでてわいわい泣いたよ」
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
も近づけませんでしたの。ここで本ばかり読んでいましたの。冬の夜なんか咳入せきいる声が私たちの方へも聞こえて、本当に可哀相かわいそうでしたわ。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
嬰児が、二つ三つ、片口をきくようになると、可哀相かわいそうに、いつどこで覚えたか、ママを呼んで、ごよごよちゃん、ごよちゃま。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは随分時間のない負担の重い生活をしていたので、可哀相かわいそうだったが、彼女はそこから自分でグイと一突き抜け出ようとする気力や意識さえもっていなかった。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
真白のおとなしそうな犬で、おどおどしながらも、うれしそうにヒョコヒョコと森君の傍に寄って来た。見ると、可哀相かわいそうにびっこを引いている。森君も直ぐ気がついた。
贋紙幣事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
一体日本の子供ほど可哀相かわいそうなものはあるまいかと思う。我国には憲法があって、国民は自由である。
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
その人が人手をらなくってはどうする事も出来ない、可哀相かわいそうな人だもんだから、わたしはその人に世話をしてやって、その人のためには、わたしがいなくなっては
この謎を解いてやれ。そしてあのおやじに現れた若さと家霊の表現の意志を継いでやりなさい。それでなけりゃ、あんまりお前の家のものは可哀相かわいそうだ。家そのものが可哀相だ
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あなたは労働者ですか、あなたが労働者だったら、私を可哀相かわいそうだと思って、お返事下さい。
セメント樽の中の手紙 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
そう一概いちがいなことも出来ないよ。この先一年もつか二年もつか知れないが、おれの寿命はきまっているのだし、そこへ持って来て母親までなくしては、あんまり子供が可哀相かわいそうだからね。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「折角だがお任かせ出来ねえね。この向うきずは承知してもはた奴等やつらが承知出来ねえ。可哀相かわいそうと思うんなら早くあの小僧をおろしてやっておくんなさい。つらを見ても胸糞むなくそが悪いから」
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
近在の人らしい両親に連れられた十歳くらいの水兵服の女の子が車に酔うて何度ももどしたりして苦しそうであるが、苦しいともいわずに大人しく我慢しているのが可哀相かわいそうであった。
雨の上高地 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「ねえ、おばあさまって、何んだかお可哀相かわいそうな気がするの。」
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
「そうか。可哀相かわいそうな事をした。」
月世界競争探検 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
(ええ、旦那様は私が居なくってもいけれど、千ちゃんは一所に居てあげないと死んでおしまいだから可哀相かわいそうだもの。)
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まさか冗談じょうだんに貰やしません。いくら僕だってそうふわついたところばかりから出来上ってるように解釈されちゃ可哀相かわいそうだ」
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから妻は入院中の体験から死んでゆく人のうめき声も知っていた。それは、まるで可哀相かわいそうな動物が夢でうなされているような声だ、と妻は云っていた。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
可哀相かわいそうな青年の額から、鼻の頭から、見る見る玉の膏汗あぶらあせがにじみ出して来た。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そしてこの魔力を持つ人間は、女をいとしみ従える事は出来る。しかし、恋に酔うことは出来ない。あわれなわが子よ。そしてそれを知っているのは母だけである。可哀相かわいそうなむす子と、その母。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
入ると決まるとさすがに可哀相かわいそうだった。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「貸してくれってんだぜ、……きっと返すッてえに。……可哀相かわいそうじゃないか、雪女になったなりで裸で居ら。この、お稲さんに着せるんだよ。」
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
可哀相かわいそうだのと云う私情は学問に忠実なる吾輩ごときものの口にすべきところでないと平気で云うのだろう。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さも欲し相にのぞいている装身具の類を見ても、「あれ、いいわねえ」などと、往来の町家ちょうかの娘達の身なりを羨望せんぼうする言葉を聞いても、可哀相かわいそうに彼女のお里は、すぐに知れて了うのであった。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「そんなに考え過ぎても奥様やお子さんがお可哀相かわいそうね。」氏
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「君、君、その異形いぎょうなのを空中へあらわすと、可哀相かわいそうに目を廻すよ。」と言いながら、一人が、下からまた差覗さしのぞいた。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
迷亭は銭に不自由はしないが、あんな偶然童子だから、寒月にたすけを与える便宜べんぎすくなかろう。して見ると可哀相かわいそうなのは首縊りの力学を演説する先生ばかりとなる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
可哀相かわいそうな緑さんは、彼の巖乗な両手の中で、青くなってふるえていた。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
けれども余りにいたわしい。ひとえに獣にとお思いなすって、玉のごときそのお身体からだを、砕いて切ってもてたいような御容子ごようすが、余りお可哀相かわいそうで見ておられん。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あなたは父母ふぼ膝下しっかを離れると共に、すぐ天真の姿をきずつけられます。あなたは私よりも可哀相かわいそうです
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
母様おっかさん。だって、おおきいんだもの、そして三角なりの冠を被ていました。そうだけれども、王様だけれども、雨が降るからねえ、びしょぬれになって、可哀相かわいそうだったよ。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
可哀相かわいそうにヴァイオリンを買うのが悪い事じゃ、音楽学校の生徒はみんな罪人ですよ」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
馬鹿な人間は困っちまいます——うお可哀相かわいそうでございますので……そうかと言って、夜一夜よっぴて、立番をしてもおられません。旦那、お寒うございます。おしめなさいまし。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
可哀相かわいそうに、いいえ、それでも、全く、貴下が戸をお叩き遊ばしたのは、うつつでございましたの。」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また何も働かずとも可いことを、五両二人扶持ににんぶちらしいのが、あら、可哀相かわいそうに、首が飛びます。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
姉さんどうしたんだッてね、余り可哀相かわいそうだから声を懸けてやりましたが、返事をしません。疵処きずしょにばかり気を取られて、もううつつなんだろうと思いました、わかいのに疼々いたいたしい。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私が見ましてさえ、何ですか、いつも、ものおもいをして、うつらうつらとしていらっしゃるようじゃありませんか。誠にお可哀相かわいそうようですよ。ミリヤアドもそういいましたっけ。
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんな、お腹をして、可哀相かわいそうに……と云うと、熱いたまが、はらはらと私のくびへ落ちた。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ね、だからそれが記念かたみなんだ。お君さん、母様おっかさんの顔が見えたでしょう、見えたでしょう。一心におなんなさい、私がきっと請合うけあう、きっと見える。可哀相かわいそうに、名、名も知らんのか。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
稲妻を浴びせたように……可哀相かわいそうに……チョッいっそ二人で巡礼でも。……いやいや先生に誓った上は。——ええ、俺は困った。どうしよう。(倒るるがごとくベンチにうつむく。)
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
烏瓜からすうり、夕顔などは分けても知己ちかづきだろうのに、はじめて咲いた月見草の黄色な花が可恐こわいらしい……可哀相かわいそうだから植替うえかえようかと、言ううちに、四日めの夕暮頃から、っと出て来た。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
堂にお供物の赤飯でもありはしないか、とそう思ってのぞいて、お前を見たんだ、女じゃ食われない、食いもしようが可哀相かわいそうだ、といって笑うのが、まだ三十前、いいえ二十六七とも見える若い人。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
引手繰ひったくるや否や、ふとっているから、はだかった胸へわきの下まで突込つっこんだ、もじゃもじゃした胸毛も、腋毛わきげも、うつくしい、なさけない、浅間しい、可哀相かわいそうおんなみくたにして、捻込ねじこんだように見えて
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ちょいと、痛むかい。痛むだろうね、可哀相かわいそうに。」
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
可哀相かわいそうに、お見せな。」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)