其物そのもの)” の例文
内山君うちやまくん足下そくか此位このくらゐにしてかう。さてかくごとくにぼくこひ其物そのもの隨喜ずゐきした。これは失戀しつれんたまものかもれない。明後日みやうごにちぼく歸京きゝやうする。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
何でも芸術品はたれの作とも、どうして出来た作とも思わずに、作其物そのものとぴったり打附ぶっつかって、その時の感じを味いたいのです。
奮闘も差別も自然の法則であるといふ事を忘れた。美其物そのものも一種の「力」であり、又「力」の発現であるといふ事を忘れた。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
花を研究してその本性を明にするというは、自己の主観的臆断をすてて、花其物そのものの本性に一致するの意である。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
たいこの規則きそくでさせること規則きそく其物そのものそんしてゐるあひだすなは規則きそくにはまつてあひだはよろしいが、他日たじつ境遇きやうぐうはると、一方ひとかたならぬ差支さしつかへしやうずることがありませう。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
苦痛くつう輕蔑けいべつするとことは、多數たすうひとつたならば、すなは生活せいくわつ其物そのもの輕蔑けいべつするとことになる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
人には奇癖のあるものにて、この婦人をんないた蜘蛛くもを恐れ、蜘蛛といふ名を聞きてだに、絶叫するほどなりければ、して其物そのものを見る時は、顔の色さへあをざめて死せるがごとくなりしとかや。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかし又一方に於ては、山其物そのものが神として崇められたことも否めないであろう。
山の今昔 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
此邊このへんことは、本國ほんごくでもひと風評うわさのぼり、きみにも幾分いくぶん御想像ごさうぞういたらうが、はたして如何いかなる發明はつめいであるかは、其物そのものまつた竣成しゆんせいするまでは、たれつてものはない、わたくし外國ぐわいこく軍事探偵ぐんじたんてい
かような根本こんぽん相違そういがあるうへに、器械きかい大抵たいてい地面ぢめん其物そのもの震動しんどう觀測かんそくするようになつてゐるのに、體驗たいけんもつはかつてゐるのは家屋かおく振動しんどうであることがおほい、もし其家屋そのかおく丈夫じようぶ木造もくぞう平家ひらやであるならば
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
ロミオ ればときみじかうなるが、其物そのものられぬゆゑ。
其物そのものが光に包まれ
(新字新仮名) / 今村恒夫(著)
正義其物そのものも本来の意味から云へば平衡を得た「力」に過ぎないといふ事を忘れた。「力」の方が原始的で、正義の方はかへつ転来てんらい的であるといふ事も忘れた。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
勳章くんしやうだとか、養老金やうらうきんだとかふものは、徳義上とくぎじやう資格しかくや、才能さいのうなどに報酬はうしうされるのではなく、一ぱん勤務つとめ其物そのものたいして報酬はうしうされるのでる。しからばなん自分計じぶんばか報酬はうしうをされぬのでらう。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
この状態はなかば事件其物そのものの性質から出る事もついでに注意したい。煤煙の主人公が郷里きやうりへ帰つてから又東京へ引き返す迄に、遭遇したり回想したりする事件は、決して尋常のものではない。
『煤煙』の序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかし戦争其物そのものが面白くつて戦争をしたものが昔からあるだらうか。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それだつて、たゞ刺戟しげき方便はうべんとしてだけで、みち其物そのものとは無關係むくわんけいです
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)