仰有おっしゃ)” の例文
頼まれれば禁酒会会長でも憲兵少将でもイヤとは仰有おっしゃらずに、オデン屋の開店祝いの招待と同じように馳せ参じるにきまってるから
戦後文章論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
ちょいと皆様に申上げまするが、ここでどうぞ貴方がたがあッと仰有おっしゃった時の、手附、顔色かおつきに体の工合ぐあいをお考えなすって下さいまし。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「あなた! あなた! 早く何とか仰有おっしゃったらいいでしょう! 早く何とかこの者共に仰有ったら! 言語道断な……言語道断な!」
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
お書きになって、あたしに、速達にして出してくれと仰有おっしゃったのでよく覚えていますわ。上書は、たしかにあなたの名前でしたもの
葉子ようこは、学校から帰ると大急ぎで野原へ出て、いつぞや森先生が仰有おっしゃった、お好きな花を抱えきれないほどたくさんに摘みとった。
先生の顔 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
紀介様のお顔はやはり平明な落着きを見せていられ、わたくしに言いたいことを仰有おっしゃったあとの満足さでかがやいていられました。
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
が、またひるがえって考えますと、これも御無理がないと思われるくらい、中御門の御姫様と仰有おっしゃる方は、御美しかったのでございます。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「わしが逃げるものか。お前はわしが金を取ったものと勘違いをして、しきりに山分けにしようと仰有おっしゃったが、どう云うものじゃ」
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「たいして御心配も要らないと、先生が仰有おっしゃっていましたわ。でも暫く我慢して、安静にしていらっしゃるようにとのことですわ」
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とお祖父さんは口癖のように仰有おっしゃる。家のものばかりでなく、碁の客謡曲うたいの相手までが三度に一度は愛孫の逸話いつわを拝聴させられる。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「それはそうと、あなたはむす子さんのいいつけ通りの着物の色や柄を買って着ると仰有おっしゃったね。その襟の赤と黒の色の取り合せも?」
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
女々めめしいからよ。君前くんぜんであのざまは何のことかい。なぜ泣いたか殿はお気付き遊ばしておられるぞ。あの時も意味ありげに仰有おっしゃった筈じゃ。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
本当ほんとさぞ御不自由でございましょうねえ、みんな気の附かない者ばかりの寄合よりあいなんですから。どうぞ何なりと御遠慮なく仰有おっしゃって下さいまし。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「そんな大きな声で仰有おっしゃらないで下さい、当分この研究は秘密にして置きたいと思いますから、決して他言なさらないように」
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「お母さんは、人間は恐ろしいものだって仰有おっしゃったがちっとも恐ろしくないや。だって僕の手を見てもどうもしなかったもの」
手袋を買いに (新字新仮名) / 新美南吉(著)
将軍は私にそのように仰有おっしゃられました。特に私をその役にえらばれたのも、私が中尉殿のもとの部下であったということかららしいのです。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
ええ、無論そのばち形の刃先に着いていた砂は、顕微鏡検査に依って、貴方あなた仰有おっしゃった通り、あちらの屍体の傷口の砂と完全に一致しました。
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
それァもう仰有おっしゃるまでもなく承知いたしております。つまらない饒舌おしゃべりをして掛替かけがえのない首でも取られた日にゃ御溜小法師おたまりこぼしが御座いませんや。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
或いは、これがオツだと仰有おっしゃって、天ぷらを載っけたお茶漬、天茶という奴を食べる。そりゃあ、結構なもんに違いないさ。
下司味礼賛 (新字新仮名) / 古川緑波(著)
「ハイ、二郎様と仰有おっしゃいまして、矢張り手前共にお泊りで、只今お留守でございますが、母屋の方にお部屋がございます」
火縄銃 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
マルセーユの石山のノートルダム寺院の尖塔せんとうの黄金像にもまして、自分は、日本女優花子の美は自分にとって尊いなどと、お世辞を仰有おっしゃるのです。
バルザックの寝巻姿 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
「ハア……舶来の飛び切りのリネンのカーテンが掛かって、何十円もするチューリップの鉢が、幾つも並んでいるのが不思議と仰有おっしゃるのでしょう」
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「女中三人に下僕が二人、閑静な生活くらしをしているよ、だから遊びに来るがよい。——などと仰有おっしゃったお言葉も、あてにならないようでございますね」
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あなたがいなくなると仰有おっしゃるのは、あなたが危害を加えられた場合のことを仰有るのだろうと思いますが、あなたが危害を受けられて悪いときなら
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「お母さんの仰有おっしゃるのももっともです。それなら都にいさえしなければ、こんないやな目にもあわずに済むんですもの」
「※さんがそれを間違えて、『何だ、これは、水瓜すいかなら食え』なんて仰有おっしゃって、船の中でほどいて見ましたッけ……」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お婆様はやがてきっとなって私を前にすえてこう仰有おっしゃいました。日頃ひごろはやさしいお婆様でしたが、その時の言葉には私は身も心もすくんでしまいました。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「はい。北条新蔵と仰有おっしゃいまして、北条安房守あわのかみの御子息——兵学を御修行なさるために、小幡先生のお手許に、長年お仕えをしているお方でございます」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冗談じょうだんじゃアない。あの方はA嬢と仰有おっしゃる私共の大切なお客様ですよ。お父様の病気見舞にいらしって、今日でう一週間も御滞在になっているのですよ。」
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
もう追っつけ、お戻りになるだろうと仰有おっしゃゆえ、そのままにしましたが、何か途中で、変ったことでも——?
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「トマトのお料理のこと仰有おっしゃるんでしょう。とても酢っぱくて、貴方のお口に合いそうもありませんわ。」
罠を跳び越える女 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
爾々そう/\全く所天に随て行たのです余「では馬車に乗ても矢張其後に随て行く様に仕込で有ますか、何でも太郎殿はリセリウまちから馬車に乗たと仰有おっしゃッた様でしたが」
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
何事についても、滅多に間違ったことを仰有おっしゃらぬお兄様だったけれど、今度の正確さだけは恨みに思います。こんなにまで、言い中てて下さらなくともよかったのに。
偽悪病患者 (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
、と仰有おっしゃったあなたのお言葉はこの手紙を書いている時でさえ弱いわたしの心に鳴り響いています。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
「……いま、なにか仰有おっしゃったのはあなたでしたか。……あたしはいったい、どうしたのでしょう」
顎十郎捕物帳:01 捨公方 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「まあ、その、ちょっとね。へへへへ、夜目が利くと仰有おっしゃいましたので……どうも相済みません」
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「そう改まって仰有おっしゃるほどの金じゃアありませんが、街へ出た時にでもお役に立てて下さい」
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
全く女史の仰有おっしゃる如く、問題の適不適を考えて持って行くべきでしょうが、此の問題ならあの人は熱をもって話すだろうと思っても、決して然うはゆかぬ場合もあるのですもの。
職業の苦痛 (新字新仮名) / 若杉鳥子(著)
あかつきの夢のいまだめやらぬほどなりければ、何事ぞと半ばはうつつの中に問いかえせしに、女のお客さんがありますという。なんという方ぞと重ねて問えば富井さんと仰有おっしゃいますと答う。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「まあ、我慢したまえ。地獄は永久につづくぞよ」と平気で仰有おっしゃっているようにみえる。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
水熊のご馳走は一にお登世、二に料理と人様が仰有おっしゃるくらいだ。早く顔を出しといで。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
「このお父さまは何を仰有おっしゃるんです。何も別にそれより外のことはないのですよ。」
恭三の父 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
何にも知らぬ女たちにとつてはその御親切は却つて迷惑なものではないでせうか? 公娼廃止と云ふ事は成程あなたの仰有おっしゃるやうな理由で出来るかもしれませんが売淫と云ふ侮辱から多くの婦人を
青山菊栄様へ (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
「奥さんは起きるのがお厭なんです。旦那、起きるのは厭だと仰有おっしゃるんです。どうぞ堪忍かんにんしてあげて下さい。奥さんは、嘘でもなんでもございません、それはそれはお可哀相なかたなんですから——」
狂女 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
そんな野暮は仰有おっしゃるまいと実は気にする者がないということだ。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
仰有おっしゃって、少しだまっていらっしゃると思ったら泣出して
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
と、仰有おっしゃったのでございました。
両面競牡丹 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
お父様……何にも仰有おっしゃらないで! と娘はひしと私の手にすがり付きました。今は真夜中で侍女たちはみんな昼の疲れで眠っております。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
せっかく天皇様が日本国を下さると仰有おっしゃるのですから、と、道家は日本国をもらった、もらった、とウワゴトみたいに言っている。
織田信長 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
お呑みになりまして、『おやすみ』と仰有おっしゃいましたので、私はお部屋を出ました。それっきり今朝まで、私はお部屋に這入りませんでした