不肖ふしょう)” の例文
賢と不肖ふしょうともなる。正と邪ともなる。男と女ともなる。貧と富ともなる。老と若、長と幼ともなる。その他いろいろに区別ができる。
写生文 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
不肖ふしょうじゃございますが、この近江屋平吉おうみやへいきちも、小間物屋こそいたしておりますが、読本よみほんにかけちゃひとかどつうのつもりでございます。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
我身わがみ不肖ふしょうながら家庭料理の改良をもととして大原ぬしの事業を助けばやと未来の想像は愉快にみたされて結びし夢もあたたかに楽しかりき。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
不肖ふしょう羅門塔十郎、不才をもって、老公のお眼鑑めがねを身にうけ、ここ数年来、寝食を忘れて苦心はしておりますなれど、何せよ……」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よって不肖ふしょうわたくしが家老の職につき、御養育に専念いたしておりましたところ、この春ごろから慮外りょがいな風説を耳にいたすようになりました
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
不肖ふしょうは河野久と申す者でございますが、これからお弟子になされてくださいませ、一体ここは何と云う処でございましょう」
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
主人側は、かく朝野の名流の御来場を賜わりましたことは、不肖ふしょう身にとって光栄とするところでございます、テナことを言うのであります。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
余が如きは不肖ふしょうながら、一旦外患の迫るにおいては、一死以て君にむくい、武門の面目をはずかしめざるべし。この心日光廟も、弓矢八幡も照覧あれ
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「身不肖ふしょうながら狩野宗家、もったいなくも絵所預り、日本絵師の総巻軸、しかるにその作入れられずとあっては、家門の恥辱にござります!」
北斎と幽霊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
諸君! 不肖ふしょう久保井克巳くぼいかつみが当校に奉職してよりここに六年、いまだ日浅きにかかわらず、前校長ののこされた美風と当地方の健全なる空気と
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
あらゆる意味に於て不肖ふしょうの子である私は、父の生前に思わしい孝行を尽し得なかった。これからは父の死後の父に、心の限り孝行をして行きたい。
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その場へ呼んで遣るのだ。万一間に合わぬ事があったら、それはお前が女に生れた不肖ふしょうだと、あきらめてくれるより外ない
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それではなはだ迷惑であるからご免をこうむりたいといって再三辞退を申したけれども、是非ぜひ何か述べる様にというので不肖ふしょうかえりみず一言述べようと思います。
国民教育の複本位 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
そしてそれがまた父をして私を、この上もない不真実な生意気な傲慢ごうまんな「不肖ふしょうの子」だと思わせたに相違なかった。
不肖ふしょう黒田勇は興国塾生一同を代表して、友愛塾の諸兄に初対面のごあいさつを申し述べる光栄を有します。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
それが思わぬ伽藍がらんの焼失を招いたのは、この身の不肖ふしょうでござりましょう。昔のことを顧みますれば、かつては源平共に朝家のお守りとして活躍したものでした。
不肖ふしょう栄三郎といえどもかかるそらごとは真に受けぬぞ! 小策をろうす奸物めッ! いずれそのうち参上してつるぎにかけて申し受くるからさよう心得ろ——はっはははは
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「大丈夫です。不肖ふしょうながら大辻おおつじがこの大きい眼をガッと開くと、富士山の腹の中まで見通してしまいます。帆村荘六の留守のうちは、この大辻に歯の立つ奴はまずないです」
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これ然しながら不肖ふしょう私の語ではない、実にシカゴ畜産組合の肉食宣伝のパンフレット中に今朝拝見したものである。終に臨んで勇敢ゆうかんなるマットン博士に深甚しんじんなる敬意を寄せます。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
僕は大佐で、まだ司令官になる柄でない、しかし、今や命令によって、不肖ふしょうながら昭和遊撃隊の司令官になったんだ。まあ、どこまでやれるか、生命のあるかぎり、やって見よう。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
不肖ふしょうながら学資を供せんとの意味を含みし書翰しょかんにてありしかば、天にも昇る心地して従弟いとこにもこの喜びを分ち、かつは郷里の父母に遊学の許可を請わしめんとて急ぎその旨を申し送り
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
勿体なくも平林殿の後役を不肖ふしょう文治に仰付おおせつけられました、一同左様心得ませえ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかし日頃のよしみを以て、御辺の首は某がつないで上げたのだと、重ねて申されましたので、兵部殿は顔色を変えられ、何と云われるぞ、不肖ふしょうながら某のことを御前に於いて悪様あしざまに申すような者は
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
疑いもなく不肖ふしょうこの私を頭においてのことであります。
火夫 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
不肖ふしょうの眼では、あの男を敵方にまわしておいては、将来の大計にも不利と考えたので、礼を執って、今日の来訪を約しておいたのです。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、予が前で神仏しんぶつの名は申すまい。不肖ふしょうながら、予は天上皇帝の神勅を蒙って、わが日の本に摩利まりの教をこうと致す沙門の身じゃ。」
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
不肖ふしょうなりといえども軽少ながら鼻下にひげを蓄えたる男子に女の自転車で稽古けいこをしろとは情ない、まあ落ちても善いから当り前の奴でやってみようと抗議を申し込む
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
老女の言葉の裏には、我々を三千石以下と見ているものらしい。不肖ふしょうながら我々、未来の大望たいもうを抱いて国を去って奔走する目的は、三千や一万のところにあるのではない。
「一つ競作をやりましょうかな。これから尊家が一作、不肖ふしょうが一作、ともに敵討の新作を書き下ろして、どっちが世に受けるか競作というのをやってみましょう。いかが。」
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
法名ほうみょう孤峰不白こほうふはくと自選いたしそろ。身不肖ふしょうながら見苦しき最期も致すまじく存じおり候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私如き不肖ふしょうの者には推量おしはかることさえ出来ぬほどの大計略をお胸の中に絶えず蔵されておいでのはずゆえ、その父上のされた所業の善悪是非の批評など、どうして私に出来ましょうや。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
不肖ふしょうなりといえどもわが子はわが手にて養育せん、誓って一文いちもんたりとも彼が保護をば仰がじと発心ほっしんし、そのむね言い送りてここに全く彼と絶ち、家計の保護をも謝して全く独立の歩調を
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
旦那様わたくしは身不肖ふしょうにして、あだたるお國源次郎に𢌞めぐり逢わず、未だ本懐は遂げませんが、丁度旦那様の一周忌の御年囘に当りまする事ゆえ、此のたび江戸表へ立帰り、御法事御供養をいたした上
むなしく、その方どもが、蜂須賀村へ帰るのは、一分いちぶんが立たぬというなら、不肖ふしょう十兵衛の身を、擒人とりことして、連れて行くもよい。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
親父はただの人である。草葉の蔭で親父が見ていたら、定めて不肖ふしょうの子と思うだろう。不肖の子は親父の事を思い出したくない。思い出せば気の毒になる。——どうもこの画はいかん。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
悪いといへば兼吉つあんの顔色の悪さ、一通りの事ではなささうなり、今から帰るでもあるまじ、不肖ふしょうしておれに附き合ひ喫み直してはと遠慮なきすすめに、おかみが指図して案内あないさするは二階の六畳
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
従前どおりおれの手もとにおいたとて、貴様らに迷惑の相かかるようなことはいたさぬ。源十郎、不肖ふしょうなりといえども、年長者の敬すべきは存じておる。いま貴様らに見せるものがあるから庭先へまわれッ!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
不肖ふしょうにも小野寺家の嫡孫ちゃくそんにて候、かようの時、うろつきては、家のきず、一門のつらよごし、時至らば、心よく死ぬべしと、思い極め申し候。
貴家の御子息にも、不肖ふしょうのせがれにも、もっともっと真剣の境地を悟らしめなければ、ついには型にのみ陥ち入りましょう。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「では、何と仰っしゃいます……。不肖ふしょう藤吉郎の言をおきき容れ下さいまして、お市の方さま、和子さま達のおん身を……」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「同慶のいたりです。ここに不肖ふしょう賢俊を以て、すなわち、光厳上皇の御院宣を、足利家へおくだしあらせられました。つつしんでお受け申されい」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
慈愛をかくして峻烈しゅんれつ不肖ふしょうの子を叱りながらもどこやらに惻々そくそくと悩んでいる厳父のこころがいたましい強さで、(かまいつけるな)といってある。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それをお誓いあるならば、不肖ふしょうですが、範宴は、一歳のあなたよりは、何歳かの長上ですからお導きいたしてもよいが」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この上は不肖ふしょうですが、武芸十八ぱん、知るかぎりのわざは、ご子息にお授けいたそう。ご子息の名は、史進といわるるか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不肖ふしょう奉行ぶぎょうの身をもって、混乱こんらんのなかとはいえ、過激かげきたことばをはっしたのは、重々じゅうじゅうなあやまり、どうかお気持をとりなおしていただきたい」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「このうえは、天意にいてみようではないか。あくまで盧大員を主座に仰ぐべきか、不肖ふしょう、どうしても私がよいのか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
心し給え、大衆だいしゅ。いずれか秋にあわで果つべきじゃ。ここに不肖ふしょう文覚、いささか思いをいたし、かくは路傍に立って、われらの同血に告ぐるゆえん。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「また、わが君のおうえにも、かならず輝きの日がまいりましょう。いや、不肖ふしょう民部の身命しんめいしましても、かならずそういたさねば相なりませぬ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かみ、天理にさからい、しも、父のおしえを聞かずでは、生きているほど、親の業苦ごうくを深くする不肖ふしょうな者となりましょう。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何といっても、先の見えない暗愚な将でもあり、故義元にとっては、不肖ふしょう世継よつぎであったといわれても仕方がない。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)