不残のこらず)” の例文
旧字:不殘
病院に入切はいりきりで居ながら、いつの何時なんどきには、姉さんが誰と話をしたッて事、不残のこらず旦那様御存じなの、もう思召おぼしめしったらないんですからね。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もし私にも御嫌疑被為在候へば、何等の弁解も不仕候間、すみやかに私御召捕おめしとりに相成、私一人誅戮ちゆうりく被為遊あそばされ、他之者は不残のこらず御赦免之御処置相願度あひねがひたく奉存候。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
じつわたくし貴方あなたとの談話だんわにおいて、このうえ満足まんぞくましたのです。で、わたくし貴方あなたのおはなし不残のこらずうかがいましたから、こんどはどうぞわたくしはなしをもおください。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
一、帯刀ノ者不残のこらず寺院ヘ立退恭順可罷在事
乱世 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
壁に五段ばかり棚を釣って、重ね、重ね、重ねてあるのは、不残のこらず種類の違った植物の標本で、中にはびんに密閉してあるのも見える。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
前年その長屋の表町に道普請があって、向側へ砂利を装上もりあげたから、この町を通る腕車荷車は不残のこらず路地口の際をいて通ることがあった。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不残のこらずずツと引込んで、座敷の隅々すみずみ片着かたづいて、右も左も見通しに、開放あけはなしの野原も急に広くなつたやうに思はれたと言ひます。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
(先晩の麁忽そこつは、不残のこらず手前でございます。愛吉さんは宵から寝ていて何にも知りやしねえもんですから、申訳のために手前が身体からだ退きます。)
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
水底のその欠擂鉢、塵芥ちりあくた襤褸切ぼろぎれ、釘のおれなどは不残のこらず形を消して、あおい潮を満々まんまんたたえた溜池ためいけ小波さざなみの上なる家は、掃除をするでもなしに美しい。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貴様も覚えておいてちと慰みにのぞいて見い。犬川でぶらぶら散歩して歩いても何の興味もないで、わしがあの印を付けておく内は不残のこらず趣味があるわい。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不残のこらず叩き売った道具のおあしが、ずッしりあるんだ。おさんが、蔦ちゃんに遣れって云うのを、まだ預っているんだから、遠慮はねえ、はははは、」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
尾張をはり停車場ステーシヨン乗組員のりくみゐん言合いひあはせたやうに、不残のこらずりたので、はこなかにはたゞ上人しやうにんわたし二人ふたりになつた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其処そこでこのむしのぞみかなときはありつたけのひる不残のこらずつたゞけの人間にんげん吐出はきだすと、それがためにつちがとけてやま一ツ一めんどろとの大沼おほぬまにかはるであらう
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
どなたもはし一本持っちゃあいらっしゃらないんで、追々集った、番頭小僧、どれも不残のこらず着のみ着のまま。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
橋がペンキぬりになって、黒塀が煉瓦れんがかわると、かわず、船虫、そんなものは、不残のこらず石灰いしばいで殺されよう。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もツとのこれからふゆになりましてやま宛然まるでこほつてしまひ、かはがけ不残のこらずゆきになりましても、貴僧あなた行水ぎやうずゐあそばした彼処あすこばかりはみづかくれません、うしていきりがちます。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それだから追分おいわけ何時いつでもあわれに感じらるる。つまるところ卑怯ひきょうな、臆病な老人が念仏を唱えるのと大差はないので、を換えて言えば、不残のこらずふしをつけた不平の独言つぶやきである。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
嘲笑あざわらって、車夫に指揮さしずして、一軒店を開けさして、少時しばらく休んで、支度が出来ると、帰りは船だから車は不残のこらず帰す事にして、さておおいなる花束の糸を解いて、縦に石段に投げかけた七人の裾袂
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
差当さしあたり、出家の物語について、何んの思慮もなく、批評も出来ず、感想もべられなかったので、言われた事、話されただけを、不残のこらず鵜呑うのみにして、天窓あたまから詰込つめこんで、胸がふくれるまでになったから
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
およそ何だ、身体からだ中の精分が不残のこらず集って熟したような鼻ッつきだ。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
来るだけは不残のこらず来ました。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれども不残のこらず事実で。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)