一時いちどき)” の例文
一時いちどきに落ちかかって来た、巨大な花びらに似た女たちの下敷きになって、小柄な豆八老人は、悲鳴をあげた。すり抜けて、廊下に出た。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
だから人間は余計にまなければ利くまいと思って、その赤玉ちうのを二つ買って来た。これを一時いちどきに服んだら大抵利くだろう。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一時いちどきにゃ一人ずつ、一時にゃ一人ずつ。」とリヴジー先生が笑った。「あなたは今のフリントのことを聞いたことがおありでしょうな?」
わたしの心の花々は、一時いちどきに残らずもぎ取られて、わたしのまわりに散り敷いていた。——投げ散らされ、みにじられて。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
小児こども一時いちどきどッと囃したが、滝太郎は俯向いたまま、突当ったようになって立停たちどまったばかり、形も崩さず自若としていた。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三人が一時いちどきに乘りたいと云ふのだ、で、まづどうやら老僕ジョンの骨折で、皆が代る代る乘ること、そして第一番に上の兄さんが乘ることになつた。
駅伝馬車 (旧字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
こんな幸福が一時いちどきにあたしを訪れて来るなんて!……あたし、何だかまるで、一生の幸福が一ぺんに来てしまったような気がするの。ねえ、文麻呂。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
「浦瀬は日本人だ」ルパンは傲然ごうぜんとして云い放った。「俺は嘗つてモロッコ人を三人、一時いちどきに射殺したことがある」
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
阿「ウーン紀伊國屋、まア其処そこへ置きな、遣らぬではない、遣るが残念だから一時いちどきに思い切って五十両がけよう」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「なにしろ、お前、ああいう気性の母親さんだから、一時いちどき下手へたなことは話せない」と正太も言った。「お前が側に附いていて追々と話してげるんだネ」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それは——私はまた、乳母と見た月蝕げっしょくの暗さを思い出してしまう。それはこの嬉しさの底に隠れている、さまざまのもの一時いちどきに放ったようなものだった。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
傍に居た大勢の人々も驚いて皆一時いちどきに娘の顔を見つめました。皆から顔を見られて、娘は恥かしそうに口籠くちごもりましたが、とうとう思い切って
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
ソレ行燈あんどん其方そっちへ遣っちまっちゃア見る事が出来やあしねえ、本当にこんな金目の物を一時いちどきに取った程たのしみなこたアねえぜ、コウあんまり明る過ぎらア、行燈へ何か掛けねえ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すると、毎年きまりのように風雨がやって来て、一時いちどきにすべての花をさらって行ってしまう。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……ト此の奇異なる珍客を迎ふるか、不可思議のものにきそふか、しずかなる池のに、眠れるうおの如く縦横じゅうおうよこたはつた、樹の枝々の影は、尾鰭おひれを跳ねて、幾千ともなく、一時いちどきに皆揺動ゆれうごいた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「パッキンレイはよかった。」こう云って、皆一時いちどきに、失笑した。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「時機なぞはいつでも宜しい。とりあえず福岡鎮台をタタキ潰せばえのでしょう。そうすれば藩内の不平士族が一時いちどきに武器をって集まって来ましょう」
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もう紅梅が勤めて居りましてみんな是々これ/\だと打明けて話しました、店の若い者や何かにみんな頼んでありますから、網を張って待って居た処へ、あの侍が来たというので一時いちどきに取押えましたから
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ついでにお銚子ちょうしを。火がいいからそばへ置くだけでも冷めはしない。……通いが遠くって気の毒だ。三本ばかり一時いちどきに持っておいで。……どうだい。岩見重太郎が註文ちゅうもんをするようだろう。」
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かえって今の御身の上を夢ではないかと思っておいでになる事なぞが、一時いちどきにすっかり解かったので御座います。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
うもさう一時いちどきまとめてかれるとわからぬね、このぷくつゐぢくおれ祖父そふ拝領はいりやうをしたものぢやがね、かまなにかはみなおれが買つたんだ、しか貴様きさま見込みこみくらゐものがあるぢやらう、此四品このよしなで。
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
……トこの奇異なる珍客を迎うるか、不可思議のものに競うか、しずかなる池のに、眠れるうおのごとく縦横によこたわった、樹の枝々の影は、尾鰭おひれを跳ねて、幾千ともなく、一時いちどきに皆揺動いた。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云ううちに、妾をゆすぶっていた六ツの手が一時いちどきに離れると、妾はフワリと宙に浮いたようになったの。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
實家さとの、母親はゝおやあねなんぞが、かはる/″\いててくれますほかに、ひらきばかりみつめましたのは、人懷ひとなつかしいばかりではないのです……つゞいて二人ふたり三人さんにんまで一時いちどきはひつてれば、きつそれ
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
川幅は広いけれども鴻の渡るを見て北條の軍勢が浅瀬を渡って、桜ヶ陣より一時いちどきに取詰めた処から、かゝる名城もたちまちにして落城したというが、時節ときだのう、其の日はちょう今日こんにちの如く夕暮で
最前からオブラーコで飲んだお酒の酔いと、今まで苦しいのを我慢していた疲労つかれ一時いちどきに出ちゃって、いつ軍艦が出帆の笛を吹いたか知らないまんまに睡っていたわ。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
梅「あゝ、だからさ、もう沢山たんとお仕事もないから私は一寸ちょっと帰ろうと思ったが、けれどもねえ、綿入物もして置こうと思って、二三日に仕舞になると思って、一時いちどきに慾張って縫って居るのさ、さぞ不自由だろうね」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
支那人が妙なかけ声をすると一時いちどきに羽子板の音が聞こえなくなりましたので、変に思って障子を開けて見ますとコハ如何いかに、たった今までいた美代子さんが影も形も見えません。
クチマネ (新字新仮名) / 夢野久作海若藍平(著)
まるで春秋はるあきの花が一時いちどきに河を流れて行くようである。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)