鵜呑うの)” の例文
そんなマジナイみたいな文句を鵜呑うのみにし真にうけているだけで、実生活では全然それを信じていないのが人の心というものである。
ましてそれを、(そうであろう)を(そうであった)にして、鵜呑うのみにしてしまって、冷罵れいばするのはあまりの呵責かしゃくではあるまいか。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
器械的に利休りきゅう以後の規則を鵜呑うのみにして、これでおおかた風流なんだろう、とかえって真の風流人を馬鹿にするための芸である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
幼児ほどかたちの上から物を鵜呑うのみにするものはない。そうしてその鵜呑みにしたことを、よいこととして守ってゆくものはない。
たましいの教育 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
そうかと思うと一方で立体派や未来派のような舶来の不合理をそのままに鵜呑うのみにして有難がって模倣しているような不見識な人の多い中に
彼らの評論を読み、彼らが好んで宣言するものを鵜呑うのみにする、多くの愚人らにたいして、また自分自身にたいして、彼らは法則をたれていた。
言葉そのままを鵜呑うのみにするわけではないが、こうまで強く言い張られると、しばらくその言を信じておくほかはない。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「自分のほうがはるかに人間は上である」と、充分自信はもっているが、単にそれだけを強味として相手を鵜呑うのみにしてしまうわけにもゆかなかった。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と云うのは、これがはたして法水の神技であるにしても、とうていそのままを鵜呑うのみに出来なかったほど——むしろ狂気に近い仮説だったからである。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「父上は誰よりもおまえがお好きだし、おまえの云うことは鵜呑うのみにお信じなさる、だからこんどは気をつけて、つまらぬことは云わぬようにしてくれ」
鵜呑うのみにして埋めて来たかなしみがえぐりだされるのだ、「蝦夷のうぐいすめは季節の去就にまよっておるのじゃ、たわけものが、ろくなことはあるまいさ」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
お勢と顔を見合わせると文三は不思議にもガラリ気が変ッて、咽元のどもとまで込み上げた免職の二字を鵜呑うのみにして何わぬ顔色がんしょく、肚のうちで「もうすこしッてから」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
近頃学術的な研究も盛んになったが、初めから鵜呑うのみに無批判的に有難がっている人々が多い。茶人はさておき、学者にさえ未だにそういう人が多いのは誠にこまる。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
が、すでに数年密偵部にいるのだから、下手へたに反問することの危険を熟知している。すべて命令は鵜呑うのみにすべきで、勝手に咀嚼そしゃくしたり吐き出したりすべきものではない。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
われらがいかなる書物をも鵜呑うのみにすることができず、いかなる学者をも崇拝するにいたらなかったのは全く自分の哲学を尺度として、他人の説の寸法を測ったからである。
我らの哲学 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
恐らく父と心を一つにした時代、父の心を鵜呑うのみにしていた頃の言で、後年の二十代三十代の定家を思い比べると、この言には父の影響によるところがよほどあるように思う。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
もっとも陰口中傷あてこすりは概して解かれぬままに鵜呑うのみとなれど、つるべ放つ攻城砲のみはいかに超然たるお豊も当たりかねて、恋しき人のうちならずばとくにも逃げいだしつべく思えるなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
そうして王政維新後、滔々たる西洋崇拝熱と共に鵜呑うのみにされて来た、こうした舶来の思想に侵犯され、毒化されて行きつつ在る日本の前途を見て、逸早いちはやく寒毛樹立したに違いない。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「うん……」私は自分にどうしてそんな父とは異った苗字がついているのかこうともせずに、まるで自分の運命そのもののように、それをそのまま鵜呑うのみにしようと努力していた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
一体、新聞紙は、犯人らしき者が捕えられると、直ちに、さながらそれが真犯人であるかのように伝えるもので、又世人もすぐにそれをそのまま鵜呑うのみにして信じてしまう癖があるようです。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
差当さしあたり、出家の物語について、何んの思慮もなく、批評も出来ず、感想もべられなかったので、言われた事、話されただけを、不残のこらず鵜呑うのみにして、天窓あたまから詰込つめこんで、胸がふくれるまでになったから
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこのロッジ寄りに席を取って、サッパーにしては重苦しい、豪華ごうかな肉食をこの娘はうんうんる。貝原は不思議がりもせず、小初をこういう性質もある娘だと鵜呑うのみにして、どっちにも連れて行く。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
幸い午近ひるぢかくのことで見渡す川岸に人の往来は杜絶とだえている。長吉は出来るだけ早くめしでもさいでもみん鵜呑うのみにしてしまった。釣師はいずれも木像のように黙っているし、甘酒屋の爺は居眠りしている。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし、こんな生煮なまにえの言葉をそのまま鵜呑うのみにされても困る。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
その言葉をそのまま鵜呑うのみにしたわけじゃないが、それも俺に
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
幼児は外形かたちを見、その外形を鵜呑うのみにするものだから、裏店うらだなに育っている子供と、生活様式の十分にととのっている家の子供とは、言葉でも動作でも
たましいの教育 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
その滑稽こっけいな演奏者らであり、その鵜呑うのみにしたがってる聴衆であって、彼らの濃厚な馬鹿ばかさ加減は、重々しい雲のように作品のまわりに立ちこめていた。
しかし、やがてそれを受取った日、さすがに曹操は、鵜呑うのみにそれを信じなかった。むしろ疑惑の眼をもって、一字一句をくり返しくり返しながめていた。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と云うのは、これがはたして法水の神技であるにしても、とうていそのままを真実として鵜呑うのみに出来なかったほど、むしろ怖れに近い仮説だったからである。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
これをそっくり鵜呑うのみにするには奇蹟きせきを信じる精神がいる。小学校の六年生と思いこんでいたのである。
篠笹の陰の顔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
何でも鵜呑うのみにしては消化されない、歯の咀嚼そしゃく能力は退化し、食ったものは栄養にならない。しかるに如何なる案内者といえども絶対的に誤謬のないという事は保証し難い。
少年時代に鵜呑うのみに覚えたのだが、いま口にしてみると、深い慰さめを感じることができた。
つばくろ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
彼女は二つのおなじ英語の書籍を持って、一つにはすっかりと一字一字仮名をつけ、返り点をうち、鵜呑うのみの勉強をはじめた。教える方が面倒なために持てあますほどであった。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
大きい鮟鱇あんこうが、腹の中へ、白張提灯しらはりぢょうちん鵜呑うのみにしたようにもあった。
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
幸ひ午近ひるぢかくのことで見渡みわたす川岸に人の往来わうらい杜絶とだえてゐる。長吉ちやうきち出来できるだけ早くめしでもさいでもみん鵜呑うのみにしてしまつた。釣師つりしはいづれも木像のやうに黙つてゐるし、甘酒屋あまざけやぢゝ居眠ゐねむりしてゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
外形を鵜呑うのみにして信ずる幼児、それにお行儀をおしえ、道徳をおしえ、あるいは親のさまざまの好みや主観を直通させること、それは頭の悪い軽薄な人間を
たましいの教育 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
この前の拙稿でも露骨にいった通り、史書そのものからして実に玉石同盆という厄介なもので、滅多に鵜呑うのみにすると、いちごと思って石を噛むことが少なくない。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
クリストフはすべてを鵜呑うのみにした。彼はコリーヌとあの若い婦人との国を非常に愛したがっており、使いはたすべき多くの感激をもっていて、それを利用した。
特攻隊は女房があっては出来ないね、などとフザけたことを鵜呑うのみにして疑ることすらないのである。
デカダン文学論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
大きすぎる打撃を独りでじっとこらえてきたのに、あの人はいわば、知らぬ他人の二人になにもかも話した、中傷をそのまま鵜呑うのみにし、無いことを有ったことのように信じて
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
世間並のことならなんでも鵜呑うのみに気にかけないタチだから、妹一家が疎開する、よかろう、面倒みてやれ、病気になった、よかろう、手当をしてやれ、それだけのことで
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
コカールの演説を一つも聞きもらしたことがなく、その言葉を鵜呑うのみにし、その諧謔かいぎゃくあごを打ち開いて打ち笑い、そのののしりに湯気をたてて憤り、戦闘と約束された天国とに夢中になっていた。
「あの処罰は吟味が充分でなかった、小野の館の家老、奥山出雲と鷺坂靱負さぎさかゆきえの告訴を鵜呑うのみにし、かれらの叛意がいかなる仔細しさいによるものか、という事情は不問のまま処罰がおこなわれたのだ」
けれど、彼には見境いのない鵜呑うのみは出来なかった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
探偵小説のトリックはそういうものだと鵜呑うのみにして疑っていないのだ。
不連続殺人事件 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
鵜呑うのみにしてしまう、私が人足部屋へ近よれなくなったのもそのためだ
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)