さき)” の例文
同時に「それが何んだ」と云ふ聲が雷霆の如く心を撲つたので、彼れは「へん馬鹿め」と誰れかに鼻のさきでもはじかれた樣な顏をした。
半日 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
ただ不思議な事には、親しくなるにしたがい次第に愛想あいそが無くなり、鼻のさき待遇あしらって折に触れては気に障る事を言うか、さなくばいやにおひゃらかす。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
甚九郎は何も云わずに店さきに坐り込んだ女の横顔を眼を円くして見詰めた。女は前屈みになって隻手を額にやっていた。
山姑の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
女に翫弄おもちやにされて女を翫弄にした気でゐるのが俺達には余程浅ましく見える。如何どうだい大将——女殺しを鼻のさき揺下ぶらさげる先生、一本参つたらう。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
見ると、顔の色がまるで、酒にでも酔った様に、真赤になって、鼻のさきや額には、玉の汗が沸々とふき出しています。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
丑松は冷い空気を呼吸し乍ら、岩石の多い坂路を下りて行つた。荒谷あらやの村はづれ迄行けば、指のさきも赤くふくらんで、寒さの為に感覚を失つた位。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「七三郎とやら、お前、拙者に隠してはいかんぞ。お前と長四郎とで、旗本六人の鼻のさきを斬ったのじゃあないか」
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
那処あすこに遠くほん小楊枝こようじほどの棒が見えませう、あれが旗なので、浅黄あさぎに赤い柳条しまの模様まで昭然はつきり見えて、さうして旗竿はたさをさきとび宿とまつてゐるが手に取るやう
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
厳格おごそかに口上をぶるは弁舌自慢の円珍えんちんとて、唐辛子をむざとたしなくらえるたたり鼻のさきにあらわれたる滑稽納所おどけなっしょ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
まじまじと控えた、が、そうした鼻のさきの赤いのだからこそけれ、くちばしの黒い烏だと、そのままの流灌頂ながれかんちょう
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十二月と二月の八日はそれぞれに事始事納の儀とあって、前夜から家々に笊目ざるめ籠を竿のさきへ付けのきへ押し立てて、いとこ煮を食するのがそのころの習慣しきたりだった。
三田は不意に、鼻のさきに水洟がたまつた氣がして、眼の中があつくなつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
で、第一日の夜、市勝が俯向うつむいて手紙を書いてゐると、鼻のさき障子しょうじが自然にすうと明いた。これ序開じょびらきとして種々いろいろの不思議がある。段々だんだん詮議すると、これは此家このやに年古く住むいたち仕業しわざだと云ふ。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
未だ世馴れざる里の子の貴人の前に出しやうにはぢを含みて紅し、額の皺の幾条の溝には沁出にじみ熱汗あせを湛へ、鼻のさきにも珠を湧かせば腋の下には雨なるべし。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
小八は頷いて店さきへ出た。案内する男はもう提灯に灯を入れて庭に立っていた。主翁や婢も店頭へ来た。
立山の亡者宿 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
浮々うきうきとした顔はせず……三味線さみせん聞こうとおっしゃれば、鼻のさきで笑うたげな。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それをお勢は、生意気な、まだ世のさまも見知らぬ癖に、明治生れの婦人は芸娼妓げいしょうぎで無いから、男子に接するにそんな手管てくだはいらないとて、鼻のさき待遇あしらッていて、更に用いようともしない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
まだ世馴れざる里の子の貴人きにんの前に出でしようにはじを含みてくれないし、額の皺の幾条いくすじみぞには沁出にじみ熱汗あせたたえ、鼻のさきにもたまを湧かせばわきの下には雨なるべし。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
朽葉色くちばいろあか附きて、見るも忌わしき白木綿の婦人おんなの布を、篠竹しのだけさきに結べる旗に、(厄病神)と書きたるを、北風にあおらせ、意気揚々として真先まっさきに歩むは、三十五六の大年増おおどしま、当歳のななめに負うて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
上人直接ぢき御話示おはなしあるべきよしなれば、衣服等失礼なきやう心得て出頭せよと、厳格おごそかに口上を演ぶるは弁舌自慢の圓珍とて、唐辛子をむざとたしなくらへる祟り鼻のさきにあらはれたる滑稽納所おどけなつしよ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
小児こどもくと、真赤まっかな鼻のさきでて
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、一際ひときわ色は、杢若の鼻のさき
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)