音信おとずれ)” の例文
さて小三郎のもとから絶えて音信おとずれの無いわけで、小三郎は不図した感冒かぜ原因もとで寐つくと逆上をいたし、眼病になり、だん/″\嵩じて
遠くで蚊の鳴くのかとも聞えるし、鼠がこぼしたかとも疑われて、渇いた時でも飲みたいと思うような、快い水の音信おとずれではない。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
慶応けいおう四年二月の夜風が、ここ千駄ヶ谷せんだがやの植木屋、植甚の庭の植木にあたって、春の音信おとずれを告げているのを、窓ごしに耳にしながら、坐っていた。
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
二年、三年、男が同志社を卒業するまでは、たまさかのかり音信おとずれをたよりに、一心不乱に勉強しなければならぬと思った。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
いでになったばかりなのに、「日が暮れたな。どれ、これから参内せねば——」と仰ゃってお帰りになられたぎり、音信おとずれもなくて、十七八日になった。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
廻し二日三日と音信おとずれの絶えてない折々は河岸かしの内儀へお頼みでござりますと月始めに魚一ひきがそれとなく報酬の花鳥使かちょうしまいらせそろの韻をんできっときっとの呼出状今方貸小袖を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
無事平和の春の日に友人の音信おとずれを受取るということは、感じのよい事のいつである。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
正香としては、このよろこばしい音信おとずれを伊勢久の亭主ていしゅにも分けたかった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
丈「いや実にどうもしばらくであった、どうしたかと思っていたが、しちねん以来このかたなん音信おとずれもないから様子がとんと分らんで心配して居ったのよ」
軒の柳、出窓の瞿麦なでしこ、お夏の柳屋は路地の角で、人形町どおりのとある裏町。端から端へ吹通す風は、目に見えぬ秋の音信おとずれである。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東京に行った友だちからは、それでも月に五六たび音信おとずれがあった。学窓から故山の秋を慕った歌なども来た。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
いろいろなだめたりすかしたりしていたが、それから何日たっても、あの方からは音信おとずれさえもなかった。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
正太は意外な音信おとずれを聞いたという顔付で話した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
足、手、かすかな肉の一塊、霧を束ねて描けるさまよ。さればかく扉を開ける音信おとずれがあっても、誰なるかを見る元気はない。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これも絶えて音信おとずれが無いから、今では死んだか生きたか分りません、し兄がのちは私は全く一粒種で
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
雨のためにひさしく音信おとずれのなかった頭の君から突然道綱のもとに「雨が小止おやみになったら、ちょっと入らしって下さい、是非お会いしたい事がありますから。どうぞお母あ様には、自分の宿世すくせが思い知られました故何も申し上げませぬ、とお言付ください」
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
音信おとずれもするけれども、その姓名だけは……とお町が堅く言わないのだそうであるから、ただ名古屋の客として。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
重「うちへもそう云って出たのだが、あんま音信おとずれがないから何処どこへ往ったかと思っているんだよ」
ために、音信おとずれを怠りました。夢に所がきをするようですから。……とは言え、一つは、日に増し、不思議に色の濃くなる炉の右左の人をはばかったのであります。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伊之助さんから何とも音信おとずれが無いので、花魁は煩ってるのだ、きみ酷いネ、許嫁のお内儀かみさんが来て居るばかりではなく、御飯おまんまの喰ッ振から赤ん坊の出来たなどはあんまり手酷いじゃないか
自分のはだに手を触れて、心臓むねをしつかとおさへた折から、芬々ぷんぷんとしてにおつたのは、たちばな音信おとずれか、あらず、仏壇のこう名残なごりか、あらず、ともすれば風につれて、随所
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
全くわっちの了簡で、旦那は誠に感心な娘だと云うので、どうも十六年も音信おとずれをしない親父おやじを待って、それ程までに元服もせずに居るとは、実に孝行な事だから嫁が厭なら宜しいが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これが海軍の軍人に縁付いて、近頃相州の逗子ずしります。至って心の優しい婦人で、あたらしい刺身を進じょう、海の月を見に来い、と音信おとずれのたびに云うてくれます。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ハイわしも暫く音信おとずれも致しません、まためえりもしませんが、此の夏の植付頃うえつけごろに一度其の話の事についめえりまして、伊之助さんがにもお目に懸ったこともごぜえますが、此度こんだア手紙が来て
窓は開いているし、ひらきの外は音信おとずれは絶えたり、外に開けるものは、卓子テエブル抽斗ひきだしか、水差のふた……
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鹽原も戸田侯の御供を致しまして国詰の身と相成りましたから、とんと沼田下新田の角右衞門方へ音信おとずれは打絶えましたが、再び実子多助に𢌞めぐり逢いますお話は、一息つきまして申し上げます。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あれがもし、鳥にでもさらわれたら、思う人は虚空こくうにあり、と信じて、夫人は羽化うかして飛ぶであろうか。いやいや羊が食うまでも、角兵衛は再び引返ひきかえしてその音信おとずれは伝えまい。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
野辺のおくりが済んで、七々四十九日というのに、自ら恥じて、それと知りつつ今までつい音信おとずれなかった姉者人あねじゃひと、その頃ある豪商の愛妾になっていたのが尋ねて来て、その小使こづかい
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
僅少わずかたたみへりばかりの、日影を選んで辿たどるのも、人は目をみはつて、くじらに乗つて人魚が通ると見たであらう。……素足すあしの白いのが、すら/\と黒繻子くろじゅすの上をすべれば、どぶながれ清水しみず音信おとずれ
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いま一人は人に連れられて北海道に渡ったという、音信おとずれがあって、それなりけり。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伯母上はいかにしたまいけむ、ものけて花がるたしたまいたりとて、警察に捕えられたまいし後、一年ひととせわが県に洪水ありて、この町流れ、家のせし時にも何の音信おとずれも無かりしとか。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
神戸にある知友、西本氏、頃日このごろ摂津国摩耶山せっつのくにまやさんの絵葉書を送らる、その音信おとずれ
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わずかに畳のへりばかりの、日影を選んで辿たどるのも、人は目をみはって、鯨に乗って人魚が通ると見たであろう。……素足の白いのが、すらすらと黒繻子くろじゅすの上をすべれば、どぶながれも清水の音信おとずれ
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
心易くは礼手紙、ただ音信おとずれさえ出来ますまい。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……音信おとずれの来しは宵月なりけり。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)