記憶おぼえ)” の例文
「嘘だろう嘘だろう」って何遍も云われましたから「嘘じゃない嘘じゃない」と云い張った事だけは記憶おぼえていますけれど…………。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
小さい時分いくら手習をさせても記憶おぼえが悪くって、どんなに平易やさしい字も、とうとう頭へ這入はいらずじまいに、五十の今日こんにちまで生きて来た女だと思うと
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どう後で考えても、記憶おぼえの無いような人が出て来るんです——多くは、素足で——火傷やけどでもしそうな、恐しい勢で。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ヂュリ おまへ言葉ことばはまだ百こととはかなんだが、そのこゑには記憶おぼえがある。ロミオどのではいか、モンタギューの?
それが、あとでは、まったく何の記憶おぼえもないのでございまする。白龍の家の者や白拍子しらびょうしどもから、後日、しさいを聞かせられ、ただ慚愧ざんきのみで、どう無礼を
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
記憶おぼえのよければ去年こぞ一昨年おととしとさかのぼりて、手振てぶり手拍子てびやうしひとつもかはことなし、うかれたちたる十にんあまりのさわぎなれば何事なにごとかどたちちて人垣ひとがきをつくりしなかより。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
勿論もちろん死人しにんに口無しで、誰にうされたのか判らないが、祖父さんはひとからうらみを受けるような記憶おぼえも無し、又普通の追剥おいはぎならばんな残酷な殺し方をする筈がない。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
自分が何をやったかまるっきり記憶おぼえがありません……、だが不思議じゃありませんか、自分は人殺しをやりたかったんだということだけは、きっと頭に残っています。
誰? (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
それを、あとから返してくれと申し入れても、そんな物はてんから受け取った記憶おぼえがないという応対。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
……だもの、記憶おぼえも何も朧々おぼろおぼろとした中に、その悲しいうつくしい人の姿に薄明りがさして見える。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誰が好き好んで若い身空を那麽あんなところへくものですか。お母さんだって若い時の記憶おぼえもありましょうに、真正ほんとうに少しは私の身になって考えて呉れてもさそうなものだ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
水道とは何の事やら、其話は源助からも聞いた記憶おぼえがない。何と返事をしていか困つてると
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
記憶おぼえがないはずはない。あの人の名前をお前に忘れられたら、大変なことになる……」
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
記憶おぼえて居り給へ——君達クリスチヤンは既に塚本と云ふ一人の男を地下に葬つたのだよ
一人は何処だったか記憶おぼえがないが、何でも何処かの地方で代言だいげんをして、芸者を女房にして贅沢な生活をしていて、今一人は内務省の属官ぞっかんでこそあれ、い処を勤めている証拠には
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
少くともその刹那、自分がいつたいどうなつたのか、まるで記憶おぼえがなかつたといふ。
「かわいそうに耄碌もうろくしたんだな、」と彼は考えた、「記憶おぼえがないんだな。」
発矢はっしの二三十もならべてたたかいたれどその間に足は記憶おぼえある二階へあがり花明らかに鳥何とやら書いた額の下へついに落ち着くこととなれば六十四条の解釈もほぼ定まり同伴つれの男が隣座敷へ出ている小春を
かくれんぼ (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
それは虎蔵が今日こんにちまで幾度となく、あこがれ望んでいながら、一度も行当ぶつかった記憶おぼえのない種類の扉であった。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「民助さん、貴方の前ですが」とお婆さんも引取って、「どうもあたしはこの児のあんまり記憶おぼえの好いのが心配で成りません。米もそう言って心配してるんです。 ...
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼は慌てふためいて帽子を引つかみ、うろ記憶おぼえの祈祷の文句を口に唱えながら、もう落ちこぼれた獲物なんかには目もくれずに、転げるようにして其家そこを飛びだした。
空家 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「わかったか」と覆面の侍げらげらと咽喉のどを鳴らした。文次には記憶おぼえのある、小癪こしゃくにさわる音声だ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
男は三五郎を中に仁和賀にわかのさらひ、北廓全盛見わたせば、軒は提燈電氣燈、いつも賑ふ五丁町、と諸聲をかしくはやし立つるに、記憶おぼえのよければ去年一昨年とさかのぼりて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
長助どんに相談したら必然きっと若旦那に訴えるに相違ない。そうなると、わたしは生証人に曳き出される。お内儀さんやお久どんはそんなことを頼んだ記憶おぼえはないと云うに決っている。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この「大船で一艘積出す、」というのが若い時からその男の癖だった。話の中に、一人娘は、七八ツの時から、赤坂の芸妓家げいしゃやへ預けてある、といったのも、そういえば記憶おぼえがある。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
猿廻しが、色々の芸を教へ込むには、一番四国生れが記憶おぼえがいいといふ事だ。
そんな事をした記憶おぼえはチットも無いのよ。初めっから失恋なんかしやしないわ。第一相手がわからないじゃないの……ねえ。可笑しいでしょう。ホホホホホホ……。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「お前さん達のことばかり言い暮して来た。彼女が郷里くにへ連れられて行ったのは、六歳むっつの時だぞや。ろく記憶おぼえがあらすか。今度初めて東京を見るようなものだわい」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
とたんに、泣くような閑山の声に押っかぶせて、記憶おぼえのあるじゃじゃら声が大きく響いてきた。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
男は三五郎を中に仁和賀のさらひ、北廓ほくくわく全盛見わたせば、軒は提燈ちようちん電気燈、いつもにぎはふ五丁町、と諸声もろごゑをかしくはやし立つるに、記憶おぼえのよければ去年こぞ一昨年おととしとさかのぼりて
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
う云われると、此方こっち記憶おぼえが無いでもない。なるほど過日いつかそんなことも有ったようである。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「そんな人は知らないよ。ねっから記憶おぼえがないようだ。」
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
「抱いた記憶おぼえはないが、なるほどどこかで見たようだ」
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白痴の一つ記憶おぼえ式の一念で、云わず語らずのうちに彼女がそうしたところを狙って、時機を待っていたかのようにも思える。又は全然そうでないかのようにも思える……。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「判りました。あなたはわたしを疑っているんでしょう。妾はこんな姿をして、乞食同様の生活くらしをしていますが、人をさらったり、殺したりした記憶おぼえはありません。山𤢖やまわろとは違いますからね。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
たまたま俺にわかりそうな処を読んでみるとツイこの間、ヒドク叱り付けてやった俺の云い草をチャント記憶おぼえていやがって、そっくりその通りを小説の中味に採用していやがるのには呆れ返った。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「……ヘエ。先生にはソンナ記憶おぼえが、お在りになるのですか」
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「イイヤ。約束なんかした記憶おぼえはないよ」
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
とか『生んだ記憶おぼえの無い実子に会った孤独の老嬢の告白』『列車の衝突で気絶したと思っているに、禿頭とくとうの大富豪になっていた貧青年の手記』『たった一晩一緒に睡った筈の若い夫人が、翌朝になると白髪しらがの老婆に変っていた話』
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)