蚕豆そらまめ)” の例文
旧字:蠶豆
農家の垣には梨の花と八重桜、畠には豌豆えんどう蚕豆そらまめ麦笛むぎぶえを鳴らす音が時々聞こえて、つばめが街道を斜めにるように飛びちがった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
さはいへ大麦の花が咲き、からしの花も実となる晩春の名残惜しさは、青くさい芥子のうてなや新しい蚕豆そらまめの香ひにいつしかとまたまぎれてゆく。
水郷柳河 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
飛々に石を置いた向うは、四ツ目に組んだ竹垣で、垣に青薄あおすすき生添はえそって、葉の間から蚕豆そらまめの花が客を珍らしそうにのぞく。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蚕豆そらまめの葉をすふと雨蛙の腹みたいにふくれるのが面白くて畑のをちぎつては叱られた。山茶花の花びらを舌にのせて息をひけば篳篥ひちりきににた音がする。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
紙縒こよりのついた袋が四つと、平つたい小さいびんに這入つたウヰスキーか知らと、蚕豆そらまめの油で上げたやうなのを壜に詰めたのと、それだけが這入つてゐた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
一六四八年ボノニア板、アルドロヴァンズスの『ムセウム・メタリクム』四巻五八章に、この石の記載あるが諸説一定せず、蚕豆そらまめ状とも三角形ともいう。
最早豌豆えんどう蚕豆そらまめかねばならぬ。蕎麦も霜前にらねばならぬ。また其れよりも農家の一大事、月の下旬から来月初旬にかけて、最早麦蒔きがはじまる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
第十七 蚕豆そらまめ飯 も前と同じように若い蚕豆の皮をいて四合か五合位を一升のお米へ混ぜて塩味で炊きます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
畠の、端々に、点々と一と株ずつ植えられた食わずの貝のような蚕豆そらまめの花が群がって咲きかけていた。親爺には一寸留守にしなければならない事件が起った。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
栖子は千代重が指図して行った蚕豆そらまめさやを盆の上で不手際に剥ぎながら、眼はぼんやり花畑を眺めていた。
唇草 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「お神さんは、わたしたちの分に、裸麦や蚕豆そらまめ豌豆えんどうや、なにやかやを入れたパンを作ってくれました」
老人「ところが大学の教授などはサッサンラップ島の野菜になると、豌豆えんどう蚕豆そらまめも見わけられないのです。もっとも一世紀より前の野菜だけは講義のうちにもはいりますがね。」
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
豌豆えんどう蚕豆そらまめも元なりはさやがふとりつつ花が高くなった。麦畑はようやく黄ばみかけてきた。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
お桐はボリ/\と蚕豆そらまめを噛み出した。お桐は何よりも蚕豆の煎つたのを好んだ。寝床の側には常に煎豆を入れた重箱を置いてあつた。彼女は退屈になるとそれを噛んで居るのだ。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
蚕豆そらまめほどの大きさから、小さいので小豆粒あずきつぶ位の透きとおり輝く紅玉の珠玉たまを、一つ一つ、灯にかざしては、うこんの布で拭きみがき、それを青天鵞絨あおビロード張りの、台座にめながら
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
殊に怪しきは我が故郷の昔の庭園を思ひ出だす時、先づ我が眼に浮ぶ者は、爛熳らんまんたる桜にもあらず、妖冶ようやたる芍薬しゃくやくにもあらず、溜壺に近き一うねの豌豆えんどうと、蚕豆そらまめの花咲く景色なり。
わが幼時の美感 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
みすぼらしい豌豆えんどう蚕豆そらまめの畑、ごく下等な野菜類の畑が小麦の代りになっている。
菊池容斎は寺納豆てらなつとう、藤田東湖は訥庵と同じやうに鰻の蒲焼、森春濤しゆんとう蚕豆そらまめ生方鼎斎うぶかたていさいはとろゝ汁、椿椿山つばきちんざん猪肉やまくぢら、藤森弘庵は鼠のやうに生米なまごめかじるのが好きで好きで溜らぬらしかつた。
この上は国元へ頼遣たのみやった別途の金の到着するのを、写真を膝に指折るばかり、淀文へも存じながら無沙汰したが、その十日ほどに白魚しらおは椀をおわれて、炙物やきものの端に粒の蚕豆そらまめが載る時となった。
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
ほそい蚕豆そらまめのような指さきが、柔らかい帽子のふちにあたまをそろえているを見ながら、男は帽子をうけとると黙って習慣的に下駄をひっかけて、自分でもびっくりするほど強く格子を開けると
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
それよりももっとよろこばれたのは白黒しろくろ大豆だいずったの、つぎには蚕豆そらまめという大粒の豆などで、わたしたちの小さいころには菓子というものはべつにあって、これらを菓子とはいわなかったが
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
なるほど手術は痛くて、蚕豆そらまめのようななみだがポロポロと出た。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
行きつけの八百屋やおやの店でたけのこ蚕豆そらまめときぬさやを少々買う。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
蚕豆そらまめとおなじ折しも花さきて蔓にをもつ豆の味はも
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
蚕豆そらまめが芽を出した
葡萄蔓の束 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
かつ蚕豆そらまめ豌豆えんどう等より消化良し。その上等は蛋白質壱割二分、脂肪四分五厘、含水炭素六割一分なり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
踞込しゃがみこむ、その背筋へ触るのが、苅残かりのこしの小さな茄子畠で……そういえば、いつか番傘で蛙を聞いた時ここにうね近く蚕豆そらまめの植っていたと思う……もう提灯が前を行く……その灯とともに
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
胡桃くるみ蚕豆そらまめの古きものありとて出しけるを四、五箇づつ並べて菓物帖に写生す。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
蚕豆そらまめと麦秋の頃、舟舞台水にうかびて、老柳堀にしだれて、ひりへうと子らぞ吹きける、撥上げてとうとたたきぬ。見えずをば、舟多きから、我が言へば、さらばかくませ、このにと、両手もろてあとにす。
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
播磨はりまの一部では挽割麦ひきわりむぎ蚕豆そらまめとをまぜて、塩加減しおかげんをして飯にいたもの、備中びっちゅう吉備きび郡では麦と豆とをってまぜて煮た米のめし出雲いずもの松江附近では番茶ばんちゃ煮立にたててそのなかに飯を入れて煮たもの
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
蚕豆そらまめ 一五・七六 二八・八八 一・二九 四九・七四 一・二二 三・一一
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
思うままの地金を使って、実物のおおきさ、姫瓜、烏瓜ぐらいなのから、小さなのは蚕豆そらまめなるまで、品には、床の置もの、香炉こうろ香合こうごう、釣香炉、手奩てばこたぐい。黄金の無垢むくで、かんざしの玉をきざんだのもある。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家に近く蚕豆そらまめ豌豆えんどうなど一うね二うね植ゑたるが、その花を見れば心そぞろにうき立ちて楽しさいはん方なし。南瓜かぼちゃつる溜壺にとりつきて大きなる仇花にあぶの絶えざるも善し。梨一本梅一本あり。
わが幼時の美感 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
隣人はよく蚕豆そらまめのなかに立ち
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
蚕豆そらまめの上等は百分中に蛋白質が弐割八分余、脂肪が一分三厘、含水炭素が四割九分、繊維が一分二厘、余は水分なり。その下等は胃のために極く不消化なる繊維が九分余もありて蛋白質はすくなし。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
蚕豆そらまめもはぢきれさうだ。
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
蚕豆飯そらまめめし 秋付録 米料理百種「日本料理の部」の「第十七 蚕豆そらまめ飯」
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
辣韮らつきよう蚕豆そらまめ
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
蚕豆そらまめ羊羹ようかん 夏 第百四十三 赤茄子飯あかなすめし
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)